独立行政法人 労働者健康福祉機構 総合せき損センター 院長/九州大学医学部臨床教授 芝 啓一郎
第30回飯塚国際車いすテニス大会が5月13日から6日間の日程で、筑豊ハイツなどで開催される。世界4大大会に次ぐアジア最高峰の大会で、今年も世界14カ国1地域から、100人の選手が出場する。
きっかけは1982年、飯塚市にあるせき損センターが脊髄損傷者のリハビリとして車いすテニスを紹介したこと。1984年に九州車いすテニスクラブが設立され、翌1985年、第1回国際大会が開催された。会場はせき損センターだった。「最初の10回くらいまで当センターも運営に加わっていました。今は応援団です」。芝院長はなつかしそうに話した。当時は部長だったという。
―特徴を教えてください。
脊髄損傷だけでなく脊椎脊髄を扱っています。
患者さんの高齢化がすさまじい中で目標に掲げているのは、復学や復職も含めて、80%程度は社会復帰してもらうこと。それが今、ぎりぎりの状況です。
当センターは、手術だけして後方病院に送ることはまったく考えていません。どれだけ時間をかけても、出来る限りの治療をし、患者さんが納得したところで退院になります。
一、二週間で後方病院に送るのでは患者さんがかわいそうだし、医師にしても、急性期に治療したことが果たして患者さんのためになったかどうかの確認もできません。
当センターのシステムでは、患者さんが来られた時から、社会復帰としての退院を見据えた治療ができます。
地域連携よりも、1つの施設ですべてやり終えてあげたほうがいいのではないでしょうか。だから「一病院完結型」という方針でずっとやっています。このやり方は日本にほとんどないかもしれません。
―大きな建物を建設中です。
車いすテニスができるホールを造ります。脊髄損傷で車いすを使う人が、互いに励ましあってほしい。当センターから、パラリンピックを含めて、有名な選手が何人も輩出されているんです。
私たちも職員同士でテニスをやりますよ。医療現場以外の場所で患者さんと接点を持つことは大切なんですね。楽しいし、よろこんでもらえるし、患者さんもほっとされるだろうと思います。
―院長職に就いて感想は。
院長職よりも副院長の時が楽しかったですね。手術もいっぱいやり、患者さんとの接触も多かったですから。今は管理職的な仕事ばかりで、会計なんかあまり分かっていないから、すごくストレスですよね。
職務では方向性を決めることが重要です。昨年はアクロス福岡で日本脊髄障害学会を開催しました。職員の力を借りながら、モチベーションも上げることに務めました。
モチベーションについて言えば「いい医療をやる」に尽きます。うちは患者さんの満足度は85%を超えていますし、入院に関しては93%くらいです。しかも診療圏がとても広く、飯塚市を中心にした2次医療圏が25%、それ以外の福岡県が60%、県外が15%です。県外から飯塚まで来るというのはそうないことでしょう。国立病院でもあまりないと思いますよ。
―広範囲から来る理由は。
最初から最後まで診ることが口コミで伝わっていると思います。病院からの紹介ではなく、患者さん同士の口コミで。
さらに常勤のドクターが整形外科で12名おり、そのうち11名は脊椎脊髄外科指導医です。指導医の条件の中に、脊椎脊髄の手術を300例やっていることがあります。
よその病院では年間50例や100例くらいのようですが、当センターは800例に近いので、医師がどんどん育つんです。その影響で、勉強したい人が集まってきますから、優秀な医者が多いです。よそに行くにしても優秀です。
福岡県の脊椎脊髄外科指導医のうち、半数とは言わないまでも、相当数が当センターで学んだ医者です。
―医療者に訴えたいこと。
いちばん大事なのは、嘘をつかないことです。自分に正直に、人を丸め込むようなことを言わず、相手にも正直であることでしょうね。嘘はそのうちばれます。正直に生きて、それで結果がよくなくてもしょうがないですよ。正直であることのほうが大切です。
―医師を目指す人への言葉。
やり甲斐があればどんな仕事でもいいと思いますが、医者のやり甲斐は、病気で苦しんで困っている人たちを助けてあげられるということです。
会社勤めと違って、ドクターは各個人が、各患者を診ているんです。だから主治医としての達成感は相当強いだろうと思います。
―外科医へのアドバイスを。
余計なことをやる医師がいます。やらなくてもいいことをやっている。
ポイントを絞って、そこだけに集中するには、手術前のイメージトレーニングが必要です。前日、あるいは手洗いしている最中にもイメージを高め、一気に突き進むんです。