肝移植を増やすには移植に対する理解が必要
国内では、重度の肝硬変や肝不全などで毎年2600人が、肝移植の必要があると診断されている。しかし、実施される手術は年間400例ほど。移植後の5年生存率は85%だが、患者の多くは移植を受ける前に亡くなってしまう。年間約60件の手術を実施する九州大学の吉住朋晴准教授に肝移植の状況について聞いた。
―件数増加に必要なことは。
肝移植には「生体肝移植」と「脳死肝移植」があります。全国の肝移植件数のうち脳死ドナーからの提供である「脳死肝移植」は60〜70例ほど。日本では年間約100万人が亡くなっていて、うち約1万人が脳死を経て亡くなっていると推計されています。少子化で人口も減り、生体移植は減っていくでしょう。脳死移植の件数を増やすことが必須だと思います。
日本の臓器提供は「オプトイン方式」で、提供側が事前に移植の意思を示さなければなりません。ヨーロッパの多くは「オプトアウト方式」。提供しないことを示さなければ臓器を提供することになります。その違いも日本の脳死移植が伸びない理由でしょう。
ただ、法律が変わり、本人の意思表示が難しい場合、家族の同意を得れば臓器摘出が可能になりました。脳死となった患者さんにかかわる医師が移植に対する意識を持ち、その意義を家族に説明することが重要になっているのです。
われわれは医師や看護師向けに毎年移植に関するセミナーを開催しています。学生向けには、一般教養として移植についての講義を行い、臓器提供の意義を伝えています。
―移植待機中の治療法は。
移植が必要なほど状態が悪化してしまった肝臓を回復させる方法はありません。最近ではウイルス性肝炎は少なくなり、アルコールや生活習慣が原因の脂肪肝が増えてきました。
脂肪肝の患者の場合は、移植の前に禁酒や食生活改善の指導を徹底し、肝臓の状態を悪いなりに保って手術に臨みます。
重度の肝硬変や肝不全に起因する腹水、肝性脳症などを併発する可能性が高まるので、患者さんの状態に常に気を配る必要があります。また、食道静脈瘤もできやすくなる。破裂する恐れがあるので定期的に胃カメラで検査をしています。
待機中は筋力や体力を落とさないことが大事です。筋肉量はリンパ球などの免疫機能に大きく関わっています。肝臓を患っている人は筋肉の炎症を起こしやすく、筋肉が落ちるスピードが早い。最悪の場合、寝たきりになる方もいます。
移植が成功しても免疫力が低下しているので感染症にかかりやすく、重症化して亡くなるケースもある。免疫抑制剤を飲み続けなければならないので、感染の危険もさらに高まります。
当病院では運動をするよう指導しています。特に推奨しているのはスクワットです。体の中で最も大きな太ももの筋肉を使うので筋力アップに効果があります。
―脳死の方からの移植は時間との戦いだと聞きました。
肝臓を移植する場合の総阻血時間はおよそ12時間。青森や旭川で肝臓を摘出し、運んだこともあります。そういった場合には、九大病院に到着予定の2時間前から患者さんの移植手術を始め、肝臓が病院に着いたと同時に移植できるように調整しています。
脳死患者から臓器を取り出す際は通常の手術とは違う技術を用います。さまざまな臓器を摘出するので各臓器を担当する医師は、他の臓器を傷つけないよう、すばやく済ませる。肝臓の場合は20分ぐらいです。摘出は移植可能な時間が短い順に心臓、肺、肝臓の順です。
スキルが要求されるけれど、件数が少ない。当病院でも年間10例ほどで摘出の経験を積むことができず、若い医師が育たないという問題があります。今後は移植数を増やすことと、手術する病院のさらなる集約化が必要なのかもしれません。
九州大学大学院 消化器・総合外科
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