オーロラを見上げて
2月、ニューヨークの帰りに、アラスカに行くことにした。今年は太陽の活動の関係で、オーロラが近年になく見える確率が高いと聞いたからである。
生きている間に体験したいことがたくさんある。オーロラを観ることもその1つだ。
若いころ、フィンランドでチャレンジしたが、結局みることはできなかった。そこで今度こそはと、思い切ってアラスカ行きを決めた。気温零下20度、午後10時から午前2時まで、厳寒の山の中で、じっと大空を見上げながらオーロラを待つ。気温零下20度は、現地では「涼しい」そうだ。完全防備のため、何とかしのげるが、やはり寒い。漆黒の空には、数え切れない星の数。それだけでも感動するが、なかなかオーロラは見えない。待つこと1時間、オーロラがかすかに姿を現した。でもイメージしていたものとは違う。乳白色でうすく緑、青、ピンクがマープリングされている。しかも刻々と姿を変える。その姿に感動しつつ、シャッタースピードと露出をオーロラ用に調整した一眼レフカメラを向ける。
「撮影中」30秒のあと、「処理中」1分、一眼レフカメラのモニターに映し出されたオーロラは、緑のカーテンである。「はぁ...」と厳寒の中、よろこびのため息がでる
「すばらしい」。
オーロラは姿も色も次々に変え、オーロラのショーである
日常の中でいつのまにか溜め込んでいたであろうネガティブな感情が瞬時に消え、心の中を熱くさせてくれた。感動するとはこんなことなのだと実感した。
自然は嘘をつかない。ありのままの姿で人間の前に現れる。時には、感動を、時には恐怖と死をもたらすが、自然の美しさにかなうものはないと思う。山に登り、時には海に潜る。自然からエネルギーをもらうことで、多忙な日常を過ごせる。
オーロラは肉眼では、ほとんど乳白色だ。私たちがテレビや写真で見て、想像しているものは、高性能の「眼」を通したオーロラである。ビデオカメラ・デジタルカメラには、漆黒の空しか映っていなかった。
私たち臨床心理士は「高性能の眼」を持つことが必要だろう。肉眼では見えない相手の心を感じる「眼」が必要だ。精密機械が日々進歩している現代社会、対人援助職も日々、イノベーションをしていくことが大事なのだと「オーロラの写真」を観ながら感じる今年の春である。