「もう充分だ」と思う大切さ

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【Profile】
1972 九州大学医学部を卒業し循環器内科入局
1982 カリフォルニア大学サンディエゴ校研究
1985 九大冠疾患治療部講師
1987 九州厚生年金病院健診部部長
1994 同:循環器部長
2000 同:内科部長・九大臨床教授
2002 同:副院長就任を経て2010 年から現職

―循環器内科治療の推移についてお話しください。

大学を卒業した約40年前は循環器の薬はジギタリスと少数の利尿剤、β遮断薬しかなく、Ca拮抗薬なども出始めでした。疾患は弁膜症・高血圧などが主で、狭心症などは、非常に珍しい疾患でした。印象に残っているのは、日本人に多いと言われる冠攣縮性狭心症、つまり早朝、午前中など胸痛の発症時間に特徴のある狭心症の患者さんが、教室では初めて入院されたことですかね。今から37年くらい前で、それをきっかけに教室では研究が急速に発展しました。

そのころはリウマチ性(弁膜症)や先天性の心臓病が多く、後者は小児科だけでなく少なからず内科でも診ていました。

当時の心臓外科の手術というのは、ほとんどが弁膜症と先天性の心臓病だったんですよ。今は珍しくない解離性大動脈瘤も、卒業して7〜8年後に初めて経験しました。

当時はこういった病気は2〜3年に1例あるかないかの稀な病気でしたが、その後生活が欧米化したからだろうと思いますが、動脈硬化性の疾患が急速に増えました。

今は大部分が、生活習慣病である動脈硬化関連の疾患で、虚血性心臓病(冠動脈の硬化)、大動脈瘤等が多く、その他、不整脈、そして全ての心臓病の末期である心不全が大幅に増えています。一方、治療法も多岐にわたり充実してきています。

先天性心疾患は一定の確率で発生しますから無くなりませんが、リウマチ性の弁膜症は極端に減りました。それは、リウマチ熱治療を小児科のほうでしっかりとしていただいているからです。

―生活の欧米化という言葉はよく耳にします。

動脈硬化の危険因子として喫煙と糖尿病、それから高血圧、脂質異常症、あと肥満などがあり、その多くは生活の欧米化と関係があります。2次性の糖尿病は過食と高カロリー食、運動不足などが主因ですし、動物性の脂肪をたくさん食べ脂質異常症が多くなったことも、動脈硬化増加の一因だろうと思います。でも単にどれがいい悪いではなく、複合的な問題として考えるべきです。例えば、昔の食事が動脈硬化にはよいといっても、平均寿命は今のほうがはるかに長いのですから、一概にそれだけ推奨も出来ません。生活習慣、環境をトータルで考えるべきです。

―新政権は医療に光明でしょうか。

政治が変わっても医療においては継続性、一貫性が保たれねばなりません。政治にはしっかりして頂かなければなりませんが、昨今言われてきた医療崩壊は、単純に医療費だけの問題ではなく、従来の医療システムがそろそろ限界に来ていることも一因だと思います。例えば医師の地域偏在問題などは、今のままでは決して解決しません。過疎地になったのは相応の理由があって人が居なくなったわけですから、医師だけに「使命感を持って行くべきだ」と言っても無理ですよ。じゃあ生活や子供の教育はどうなるんだ、ということになりますから。

それらを解決するための工夫も必要ですが、こと医療に関しては欧米並みに個人の自由をある程度は制限せざるをえない時代に来ているんじゃないでしょうか。診療科選択にしても、自由意思に任せれば、「楽で」、「時間的余裕がある」、「当直がない」といった科は人が集まりますが、そうでない科では絶対的に足りない。これは現時点でも大きな問題で、すぐにも計画的施策が必要です。

もう一つ医師が足りない理由に女性医師問題もあります。女性医師は結婚と出産で経歴が中断することが多く、いったん仕事を離れてしまうとなかなか現場に戻りにくい。それへの支援システムも十分機能してないのが現実で、当事者の努力はもちろんですが、広く社会的な環境整備が必要です。

また高齢化だけでなく、専門性が高くきめ細かい医療を望めば望むほど、医療側の負担も増え、人が必要になります。

これらは全て医療側の努力や政治の力でシステムを改革し対処する必要がありますが、容易ではない。ですから国民にも問題を十分に認識していただかないと、どうにもならない。これからの大きな課題だと思います。

―医療の現場でトラブルや緊張が増えています。

今はネット上に玉石混淆の情報があふれています。調べたらある程度のことは何でも分かりますよね。でもその情報の信憑性や普遍性、疾患の全容を理解せずに、中途半端な知識で過剰な要求や期待をされても、ほとんど思い通りにはなりません。知識のギャップがトラブルを生んでいます。

それに最近は自我や欲望をコントロールできない人、常識が通じにくい人が増えているように思います。

―なぜ増えたのでしょう。

教育に問題があると思いますね。特に家庭教育。

若い人に限らず、バブル期に何でもお金で解決できるという気風が蔓延して、我慢がほとんど出来なくなった。これからは皆が100%を求めても、それは無理ですよね。やはり、ある程度のところで「もう充分」と満足してもらわないといけません。医者の口からは「なんでも限界があります。もうこの辺で...」とは言えませんけど(笑)。

こういったことを教えるのは家庭の仕事だと思います。教師が言っても家庭でそうでなければ身につかない。だから家庭教育がとても大事だろうと思いますが、その意味ではかなり絶望感を感じています。道徳心が全体に薄れていますから...。

―それでは困ります。

最近なるほどと思った科学者の話ですが、人々の欲望を満たすには2つの方法があり、まず科学の力を借りて様々な方法で欲望に応えること、もう1つは人々に欲望そのものをコントロールしてもらうことだそうです。

科学の力には限界があり、危険も伴います。国民の多様な欲求をすべて満足させることは不可能ですから、欲望をコントロールできる教育をしないと需給のバランスが崩れ、みんなが不満を持ち、諍(いさか)いや犯罪が増えることになります。

誰もが様々なことに対して「これで充分」、「もういいんじゃないの」というように考えられる思想を今からでも再び広める必要があるのではないでしょうか。

つまり「足るを知る」ということです。ちょうど患者さん向けの新年のメッセージにこのことを書いたところで、当院のホームページにも載せています。やや踏み込み過ぎかもしれませんが...。


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