座右の銘は前進|ふるさと深江町の医療を支えて

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医療法人栄和会 泉川病院 理事長 泉川欣一

1967 長崎大学医学部卒業 1978 長崎大学医学部第二内科助手 1980 長崎大学医学部第二内科講師兼医局長 1982アメリカ合衆国FDA/NIH 留学(VisitingScieentist) 1984 佐世保市立総合病院内科診療部長 1988 泉川病院を開設し病院長 1991 医療法人栄和会理事長 1999 日本マイコプラズマ学会北本賞受賞 2000 長崎県医師会代議員 2001日本マイコプラズマ学会理事長 2004社団法人南高医師会会長 アジアマイコプラズマ学会理事長 2006 日本医師会代議員 長崎県老人保健施設協会理事 2010NPO 法人長崎県地域医療の研究支援を目的とした医師団理事長。

 背後に雲仙普賢岳がそびえ、眼前は有明海である。長崎大学第二内科に20数年在籍し、父の病気がきっかけで、ふるさと深江町に帰ってきた。結果的にそれが幸いし、今のところ地域医療の一端を支えることができている。しかし看護師不足などで、いずれ立ち行かなくなるのではと危惧もしている。故郷に貢献したい思いと現実との狭間で、泉川理事長は明日を見つめる。

―泉川病院があって助かるという地域の声を聞きました。

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医療法人栄和会 泉川病院 理事長 泉川欣一

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泉川病院の背後に見えるのが普賢岳。1991 年の大噴火の時は患者をよその場所に非難させ、院長は妻と病院に寝泊まりしたそうだ。

 この規模で、24時間365日対応出来る病院というのはあまりないと思います。しっかり運営して地域医療を守るのが私の役目です。

 病院は総合内科、外科、整形、皮膚科を中心に診療を行なっています。

 特に呼吸器内科と循環器内科では呼吸不全、循環器疾患、中でも急性心疾患の症例が多く、常に待機態勢を整えています。私自身も呼吸不全等急性疾患の患者さんが来院されたら対応できるようにいつでも準備しています。

 心疾患では、狭心症、心筋梗塞、末梢血管障害などの患者さんが時間外でも頻繁に来院されるため、循環器の専門医は3名いるものの、かなり多忙で、今後5人くらいの医者が必要かとは感じています。

―外来は多いですか?

 多いですよ。大体200人から300人ほどです。それ以上来られると病院がパンクしますね。

 医者はそれなりの人数を確保できていますが、看護師の数が足りなくて、どうにか7対1を守っている状況です。だからスタッフにはかなり疲労がたまっているのではないかと思います。それをいかにリラックスさせて休ませてやるかというのが私の仕事の一つですね。

 私も患者を持っていますので、病棟を回ってなるべく職員の声を聞くように努力しています。

―スタッフへの声かけは。

 「この地域の住民がさらに高齢化したら、我々がこの病院を維持しておかなければ看れる者がいくなる。病院を維持するのはお金ではなく人の問題だ。君たちにはそこを期待している」という話をします。

 島原市内の看護学校の講師もしていますが、やはり最初の挨拶で、「地域医療を守るためにがんばって勉強し、卒業してすぐ都会に行くのもいいが、この地域の医療を守るためには君たちの力が必要だ。必ず帰ってきてくれ」と言います。

 その想いが伝わって残る人もいます。毎年、島原の看護学校から何人か当院にも来てくれます。それでやっと間に合っているという感じです。しかし地域の医療が駄目になるとすれば、やっぱり看護師不足が一番の原因だと思います。それくらい厳しいです。

―在宅医療や在宅看護は。

 在宅専門の医者を中心に十数名の看護師とやっています。沢山の方が利用されていますし、夜中でも何かあれば、すぐ出向いて24時間対応でやっています。これにはもっと人が要りますが、看護師にしても医者にしても非常に頑張ってくれています。

 私は長崎大学の出身で、大学に20数年いました。医者だった父が脳梗塞で倒れたことがきっかけで戻ってきたのですが、もし戻らなかったらこの地域の医療はどうなっていたのだろうと考えることもあります。

―医者は引退しても、老人会などで健康のアドバイスができますね。

 話相手になれると思いますが、実際には医療の進歩がありますので、それに沿ってやっていかなければいけないと思います。

 だから、大学から派遣されている若い先生方とも常に病態や治療等疑問点があれば、協議し、日常の診療に活かしている。それができなくなった時が引退でしょうね。

―自分の人生を振り返って。

 天職は医者だと思っているし、それを全うしたい。

 常に職員に言っている言葉は、「前向き」です。ただし間違えたことがあれば、はっきりその場で謝罪し、嘘をつかない。これがないと医者はやっていけません。間違いがあった時は、きちんと謝罪して適切な治療を行なう。そういう気持ちを常に持った医者として診療を続けていきたいです。

―医者になった動機は。

 父親が軍人で、ビルマから帰って来たんですよ。私は当時5、6歳で、父親の職業は医者だと知りました。夜中に呼ばれて往診に行く姿を見て、漠然と医者のイメージはありました。自分にはとてもこんなことはできないと当時は思っていましたが、中学、高校と進むにつれて自分の進路を考えた時、やはり医者の世界以外にないと感じました。

 父親の後ろ姿をずっと見てきましたから、あんなに喜ばれるなら医者になるのもいいかなと思いました。

 父は自転車で往診していまして、私は後ろから自転車を押して付いて行き、行ったら皆さん喜んでくれて、お金の代わりに饅頭をもらったり卵をもらったりしていましたね。そういう姿を見て医者になろうと決めました。

 地元に帰ってきて地域医療をしながら、医師会の会長もし、その間も学会の活動もしておりまして、日本マイコプラズマ学会の理事長を10年間務めてアジアの理事長も8年間務め、4足も5足も草鞋を履いてやってきました。それで日本医師会最高優功賞をいただきました。父が知ったら喜んだだろうなと思います。

 市役所や老人会など地域から講演の依頼がたくさんありますが、必ず行くようにしています。医療の知識だけでなく、泉川病院がどういう理念なのかを知ってもらえるチャンスですからね。

―医者を目指す若者にアドバイスするなら。

 どちらの道に行こうかと迷った時、楽だと思う道の反対を選びなさいと言いたいですね。きついと思う方を選んで、それをがんばることが勉強です。一歩一歩の歩みの中に進歩がありますから、それに意味があると思いますよ。

 私もここを開業した時はきつかったですよ。大きな借金を背負って、人を雇わなければいけないし、大変な道でしたが、あえて選びました。それが最初に言った、前向きの気持ちです。

 うちの職員はみんな、私の座右の銘は「前進」だということを知っています。その思いで皆を叱咤激励し、鼓舞しながらやっています。

 時計の真ん中に病院があると見立てて、24時間の1時は医者、2時は看護師、3時は事務員。全部合わせて24時間となる。それがコミュニケーションだといつも言っています。清掃の担当だろうが、リハビリテーションだろうが、看護師長だろうが、一人でも欠けたら時計の針は回らないと思っています。
(聞き手と写真=川本)

記者は見た「こうしんさん」

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 泉川病院の前は漁港、というよりも漁村と呼ぶべきか。理事長インタビューまで1時間ほどあったので、ゆるやかな下り坂を歩いて集落を探索した。

 どうということもない石が辻(十字路)のあちこちに祀られており、榊や花が添えられていた。「猿田彦大神」の字がうっすらと読めるものもある。ずいぶん多いので、近くにある深江町役場まで足を運び、本庁の商工観光課に聞いてみたら、「平成3年の雲仙岳の大噴火で飛んで来た火山岩ではないか」と課員は言う。このあたりは特に被害が大きかったそうだ。

 首をひねりながら現場に戻り、白髪の女性がいたのでたずねてみたら、「それは『こうしんさん』ですよ。満州から引き揚げてきた時にはもうあって、隣近所が毎月一回集まって食事をしました」と教えてくれた。
彼女は82歳だそうである。

 こうしんさんは多分、荒ぶる神「荒神」のことだろう。そう勝手に解釈して写真を撮り歩いていると、畑仕事をしている初老の男性が目にとまったので、本庁の職員から聞いた『こうしんさん』の説明をぶつけてみた。

 「勉強不足の職員だな」。男性は手を止めて苦笑いし、でも荒神でもなくて、猿田彦の申(さる)を甲(こう)と読んだのだという。明治大正以前からこの地方に根付いている信仰で、一基を周辺の8軒が守り、かつては毎月8軒が集まって祝い事をしていたという。地域住民のコミュニケーションの場でもあったわけだ。この説明をしてくれた男性が、「泉川病院があって助かる」と言った人。

 こうしんさんのことを泉川理事長に話すと、「私の家にもありますよ」とのことだった。


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