九州厚生年金病院副院長・小児循環器 城尾 邦隆 会長
本学会は、1999年1月に「日本成人先天性心疾患研究会」として発足し、小児循環器科医、循環器内科医、心臓血管外科医および産婦人科医の各専門分野の垣根をこえた学際的交流にとどまらず、看護師はじめ多種類の診療協力部門の参加を得て、全国の診療ネットワーク構築のための日常活動をめざしています。10年1月に研究会から学会へ発展した機会に、九州ではじめて催されることの意義は大きいと考えます。
先天性心疾患の診療は、小児科のかぎられた専門分野とされておりましたが、なぜ成人先天性心疾患なのでしょうか。過去30年間の先天性心疾患をめぐる医療、とくに心臓血管外科治療が著しく進歩し、新生児乳児期に多くが失われてきた患者さんは、今やその約90%が長期生存できる時代になりました。しかし、このことは新たな課題を私どもに突きつけています。
97年、本邦の先天性心疾患の患者さんは62万2800名で、成人はその時すでに31万8326名(51%)でした。その後も、毎年約9000名が成人に達するため07年には40万9101名の成人先天性心疾患の患者さんが生活していると推測されています(椎名)。そのなかには、かなりの頻度で、重大な医学的社会的問題をかかえて専門的診療や援助を必要とする患者さんがおられることも明らかとなりつつあります。
欧米諸国では、早くから成人先天性心疾患専門医を軸にした診療体系が構築され、科学的根拠に基づいたガイドラインが提案されています。しかし、我が国では残念ながら孤立した経験による対応にとどまっています。国際交流に学ぶところの多い分野であり、今回も海外から講師4名を招聘しました。アジアへの窓口福岡市での開催には、発展著しい韓国や台湾からの一般参加もありました。
第13回学会の企画にあたり、私自身が日々の診療で直面する課題二つを取りあげて講演やシンポジウムとしました。まず「フォンタン手術後遠隔期」過去30年間の臨床を振りかえれば、多くの重症心疾患を新生児期に失った10年、フォンタン手術への到達と手術法改良への期待の10年、そして、やはり不整脈や肝機能障害、蛋白漏出性腸症(PLE)に不安を強くする10年に区分され、今、Driscoll先生の長い臨床経験に学びたいという思いを強くしています。
ドイツやカナダ、お隣韓国の事情はどうでしょうか、Kaemmerer先生、Oechslin先生、Choi先生にそれぞれ応えていただきましょう。この企画に際し全国の会員にアンケート調査を実施したところ、本邦ではフォンタン術後成人に達して外来診療中の方は、すでに900名を超えていることが判明しました。多忙な診療の中、ご協力いただいた皆さまに深く感謝するとともに、課題の大きさと深さに足がすくむ思いです。
つぎに「発展著しい画像診断の臨床応用」経胸壁心エコー検査や心血管造影に満足できない分野です。経食道心エコー検査、MD-CT、MRI、シンチグラフィーなどの選択と組合せが提案されるでしょう。野間充先生と近藤千里先生には「情報ネットワークシステム」と「被爆線量への配慮」に係る教育講演をランチョン・モーニングでお願いしました。
不慣れな準備と広報にもかかわらず、過去最多の90演題の応募をいただいた皆さまに感謝します。ご多忙な折、何かとご助言いただいた理事長、座長を快諾された理事等関係の皆さまに感謝します。学会の趣旨にご賛同される皆さまには、各施設の同僚、小児循環器医・循環器内科医・心臓血管外科医・看護師・臨床心理士などをお誘いのうえ学会を盛り上げていただき感謝いたします。
新年早々の本学会が、皆さまのご多幸と発展の門出となることをこころより祈念いたします。