九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

地域医療発展の礎を築く

滋賀医科大学上本 伸二 学長(うえもと・しんじ)1981年京都大学医学部卒業。三重大学医学部教授、京都大学大学院医学研究科肝胆膵・移植外科学分野教授、同附属病院副病院長、同大学院医学研究科長・医学部長などを経て、2020年から現職。 ◎学長就任に当たって  滋賀医科大学は、滋賀県内唯一の医学部であり、かつ数少ない医学部単独の国立大学法人として、「地域に支えられ、地域に貢献し、世界に羽ばたく大学」をモットーに、優秀な医師・看護師・助産師を輩出してきました。しかし、大学卒業後に県内で活躍する医療者が少なく、結果として滋賀県は近畿圏内で人口10万人当たりの医師数が最も少ない。その解消のために、へき地医療を含めた医療水準を上げ、滋賀医科大学と関係病院の人材育成システムについてさらなるレベルアップを図りたいと思います。 一方、法人化後の国立大学は、財政面では厳しい状況が続いています。長期的に対応すべく、科研費を含めた外部資金獲得の増加と附属病院経営の安定がキーポイントです。そのためには、研究活動の底上げ、総合病院としての高度医療から一般医療まで包括する、裾野が広い診療・人材育成体制の構築が必要です。 この前向きな構想実現のためには教職員のモチベーションが最も大切です。「サスティナブルでアトラクティブな滋賀医科大学」を合言葉に、その礎を築いていきたいと思います。 ◎今後の取り組み  一つ目は、「滋賀県の医療においてリーダーシップを発揮する」ことです。滋賀医科大学と関係病院に若手医師にとって自分を高めてくれる魅力ある人材育成システムを構築することが重要であり、そのためには優秀な指導医の育成・派遣と〝働き方改革〟に対応した職場環境整備が必要です。 本学は女子学生と女性医師が多く、女性医師に配慮した職場環境の改善を全国に先駆けて進めてきた実績があります。今後はこの取り組みを関係病院へ展開することで、滋賀県全体の女性医師キャリアアップ支援の充実を図り、最終的には医師全体のキャリア支援を進めていきます。 また、看護領域においては訪問看護師コース、看護師特定行為研修などを全国に先駆けて推進。滋賀県民への社会貢献という活動を通して滋賀県医療モデルをつくり上げていきます。 二つ目は、「医学研究において全体的な底上げをする」ことです。滋賀医科大学においては、〝選択と集中〟のコンセプトの下、神経難病研究センターにおけるアルツハイマー病研究、動物生命科学研究センターにおける遺伝子改変カニクイザルを活用した研究、アジア疫学研究センターにおける最先端疫学研究と国際共同疫学研究を展開してきました。今後も滋賀医科大学の顔としてこれらの研究を推進していきますが、特定の研究領域に固執すると、時代の流れに対応できなくなるリスクがあります。 企業であれば時代の淘汰(とうた)と理解されますが、半永続的に医療人を育成するミッションがある国立医科大学において、将来の激動にも耐え得るためには、幅広い医学研究領域での研究活動が重要と考えております。 その一環として研究に専念できる大学院生の増加は重要です。研究に没頭できる大学院生と、指導教員との日々のディスカッションの上に斬新な研究は展開されるものであり、特に日々の診療業務で指導教員が疲弊している臨床系講座における研究では、不可欠であると思います。また、研究に邁進(まいしん)し、国際的に活躍する大学院生や中堅医師の存在は、学生や若手医師の目に映り、サスティナブルな滋賀医科大学の発展に寄与するものと考えます。 ◎地域に貢献  大学の役割として、地域の産業活性化貢献としての産学連携推進があります。 滋賀県においては金融機関も参画する産学官金連携のコンセプトで、健康・医療産業の活性化に取り組む「滋賀県産業支援プラザ」があります。その支援も受けながら、滋賀県内の企業や他大学と連携して、地域の産業活性化のさらなる推進に貢献したいと思います。 滋賀医科大学大津市瀬田月輪町 ☎️077-548-2111(代表)https://www.shiga-med.ac.jp/

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高齢化により患者が増加 皮膚科医の育成が急務

秋田大学大学院医学系研究科皮膚科学・形成外科学講座河野 通浩 教授(こうの・みちひろ)1994年秋田大学医学部卒業。米マサチューセッツ総合病院、米ハーバード大学医学部、名古屋大学大学院医学系研究科皮膚病態学准教授などを経て、2019年から現職。  1974年に開講した秋田大学皮膚科学・形成外科学講座は、地域医療を守りながら、最先端の医学研究を進めてきた。2019年9月、20年ぶりに母校へ戻り、教授に就任した河野通浩氏は、診療・教育・研究それぞれに注力し、地域医療の課題解決も視野に入れている。 ―医局の特徴や人材育成について教えてください。  当院は秋田県の特定機能病院であり、県内における、いわば「最後の砦(とりで)」です。皮膚科、形成外科も県内から多くの患者さんを受け入れ、皮膚がん、重症薬疹、全身の水疱(すいほう)症、重症熱傷などに対して、高度医療を提供しています。 また、湿疹、白癬(はくせん)、帯状疱疹(ほうしん)などの一般的な皮膚疾患も数多く診療しており、アトピー性皮膚炎や乾癬(かんせん)などの専門外来も設置。まさにオールラウンドに対応しています。 研究に関しては、色素異常症やアトピー性皮膚炎などに遺伝子からアプローチし、病態の解明や最適な治療法の開発に取り組んでいます。今後はさらに対象を広げ、じんましんや真菌症に対しても遺伝子の研究を進めたいと考えています。これらはまだチャレンジの段階ですが、いずれは新たな治療法を確立し、患者さんに還元できればと思っています。 秋田県は皮膚科の医師が不足しており、まずは幅広い疾患に対応できるオールラウンダーな医師を育てる必要があります。しかし同時に、自分の専門領域をしっかり持ち、その領域の国際学会でも認められる優れた人材の育成も進めたいと思っています。 ―地域の医療機関との連携について。  医局のスタッフや県内の皮膚科医が一斉に集まる談話会を、月に1回程度開催しています。 それぞれ別の医療機関で働いている医師たちが、定期的に顔を合わせる機会を設けることで、患者さんの相談、紹介などもスムーズです。秋田県では談話会の存在により、大学病院と地域の先生とのコミュニケーションが、かなり良好であると感じています。 ただし、地域全体としての課題はまだあります。秋田県は高齢化がかなり進んでおり、それに伴い皮膚がんなど、重症の患者さんが増えてきています。しかし、皮膚科医が少ないことから、地域によっては内科や外科の先生が皮膚疾患の初期対応をしてくださっているケースが少なくありません。 患者さんのためには、早い時期に専門の医師が対応することが理想です。県内の皮膚科医の育成を含め、皮膚科診療体制をできるだけ充実させたいと思っています。 ―今後の目標は。  まずは学生たちに皮膚科の魅力を伝え、多くの人に入局してもらうことです。 皮膚科は、他科に比べてワーク・ライフ・バランスが比較的取りやすいと言えるでしょう。女性医師の結婚や出産にも対応し、復帰後もしっかりと仕事に取り組める環境を整えています。研究に打ち込むこともでき、これらのメリットを伝えたいと思っています。 これにより医局の人数が増え、結果的に秋田県内で働く皮膚科医が増えれば、地域医療の課題を改善できます。加えて、人員の増加で余裕も生まれ、それぞれ専門領域の研究も加速するでしょう。このような良い循環をつくることが、大きな目標です。 個人の目標としては、研究をじっくりと進めたいと思っています。これまで、私は色素異常症に関する二つの遺伝子を発見しました。一つは大学院生の時に始めた研究で、指導教授などの力を借りながら、約10年かけて発見。二つ目は私が中心となり、一つ目の発見の10年後に発見しました。 いずれも長い時間が必要でしたが、成果は出ています。次の10年間で、また新しい何かを見つけたいと考えています。 秋田大学大学院医学系研究科皮膚科学・形成外科学講座秋田市本道1―1―1☎018ー834ー1111(代表)http://www.med.akita-u.ac.jp/~hihuka/

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業務改善と高度医療で地域住民を守り続ける

公益社団法人 出水郡医師会広域医療センター今村 博 院長(いまむら・ひろし)1982年鹿児島大学医学部卒業。鹿児島県立大島病院、鹿児島共済会南風病院、阿久根市民病院(現:出水郡医師会広域医療センター)副院長などを経て、2017年から現職。  出水市、阿久根市、長島町の2市1町から成る出水2次医療圏の急性期医療を担う出水郡医師会広域医療センター。国立病院再編特別措置法に基づき、1989年民間へ移譲。長年にわたる地域医療への思い、新たな取り組みについて聞いた。 ―病院の現状について。  国立病院から民間病院となり、30年が過ぎました。当初は「阿久根市民病院」という名称でしたが、2013年に出水2次医療圏における当院の機能をより明確にするため、病院名を「出水郡医師会広域医療センター」に変更。先進的な医療システムを積極的に導入し、医療安全と質の向上、維持に努めています。 (続きは紙面でお読みいただけます。ご入用の方は、info@k-ijishinpo.com へお問い合わせください)

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四つの柱を据えて地域の女性をケア

岩手医科大学医学部 産婦人科学講座馬場 長 主任教授(ばば・つかさ)1998年京都大学医学部卒業。米デューク大学婦人科腫瘍学研究員、京都大学大学院医学研究科器官外科学婦人科学産科学准教授などを経て、2018年から現職。  岩手医科大学産婦人科学講座は1928年に開講して以降、県内の周産期医療・腫瘍治療などにおいて中心的な役割を担ってきた。2018年から主任教授を務める馬場長氏は地域との連携を強化しながら、従来の周産期と腫瘍に加え、生殖補助、ヘルスケアという四つの柱を据えている。 ―周産期医療での特徴は。  まずは岩手県総合周産期母子医療センターが挙げられます。ここでは県内にある地域の周産期母子医療センターや開業医の先生と連絡を取り合いながら、リスクの高い妊婦を受け入れ、高度医療を提供しています。 (続きは紙面でお読みいただけます。ご入用の方は、info@k-ijishinpo.com へお問い合わせください)

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医療の質を維持し、健全な病院経営を目指す

佐賀大学医学部附属病院山下 秀一 病院長(やました・しゅういち)1984年宮崎医科大学(現:宮崎大学)医学部卒業。久留米大学高度救命救急センターICU、堀川町山下内科呼吸器科医院、佐賀大学医学部附属病院総合診療部長などを経て、2016年から現職。同病院総合診療部教授兼任。  佐賀県の高度急性期医療を担う佐賀大学医学部附属病院。2011年にスタートした病院の再整備も順調だ。新専門医制度や働き方改革など医療を取り巻く環境が変化しつつある今、健全な病院経営に向けた取り組みや展望を山下秀一病院長に聞いた。 ─経営の現状は。  世界レベルの優れた医療設備と機器をそろえようと、2011年から病院の再整備を進めてきました。高度救命救急センターや増設した手術室は、すでに完成し、工事費の著しい高騰でストップしていた外来棟の再整備も再開しました。2020年の10月には第1期分の増築工事が完成予定です。再整備の効果は表れてきており、年間の手術件数は7000件に達する勢いです。 私は開業医の経験があり、病院長就任当初から数字の見方はある程度わかっていました。しかし、大学病院の経営は非常に複雑です。積み立ても目的のあるものしかできないため、一般病院のように赤字が出たからといって内部留保からカバーすることはできません。 具体的な数値目標を掲げる方が成果を出しやすいと考え、現在は、各診療科から目標数値を提示。それを基に病院全体の目標数値を決めるようにしています。売り上げだけでなく、手術数やカテーテルアブレーション治療の件数など、各科の得意分野も目標数値に設定しています。 毎月、その達成状況をチェックし、達成できていない科は診療科長や医局長などを集めて、原因と対策を考えます。患者さんを紹介いただく数が減少している医療機関には、診療科長と一緒に私があいさつに伺うこともあります。 ─現状の課題は。  新専門医制度が始まって3年目になりますが、当院もシーリング(専攻医の募集定員の制限)がかかり、希望通りに医師を採用できていません。 現在、大学で訓練した医師を地域の病院に出していますが、現状の医師不足に加えて本格的に働き方改革が始まれば、その医師たちを引き上げなければならなくなり、地域医療が崩壊するのではないかと危惧しています。今は、閉塞感でいっぱいです。 言うまでもなく、医師の労働環境の改善は重要です。当院も、特定看護師をつくる準備をしたり、医師事務作業補助者の数を増やしたり、ワークシフトやワークシェアによって、純粋に医師が能力を発揮できる環境を整えようとしています。しかし働き方改革は、もっと一つひとつのことをきちんと考えて実施すべきです。今のスピード感で進めるものではないと思います。 難しいかじ取りになりますが、高度急性期医療を必要とする患者さんをしっかり診療できる体制を整えるべきだと考えています。 ─今後の展望は。  職員が頑張ってくれたおかげで再整備の採算のめどが立ちました。今後は、再整備のためにずっと抑えてきた、高度医療機器の調達に向けて計画をシフトしていきます。まずは、悪性腫瘍の高度治療に対応できる高エネルギー放射線治療装置リニアックなどを導入していく予定です。 地域の医療機関との連携においては、2020年4月から、佐賀県診療情報地域連携システム「ピカピカリンク」の開示情報を広げ、カルテやサマリーも閲覧できるようにします。これによって、紹介いただいた病院の医師と当院の医師の連携がスムーズになり、患者さんにも、より安心していただけると思います。 また、当医学部は、新規抗がん剤や細胞製人工血管の開発研究など、ユニークな研究にも取り組んでいます。大学ですからこうした臨床研究や技術開発にも力を入れていきたいですね。 何より、佐賀県の高度急性期医療を担う医療機関としての役割を果たしていけるよう、健全な病院経営に尽力していきたいと思います。 佐賀大学医学部附属病院佐賀市鍋島5─1─1☎0952─31─6511(代表)https://www.hospital.med.saga-u.ac.jp/

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伝統と信頼を守りながら、新病院で地域医療を支える

社会福祉法人聖テレジア会 聖ヨゼフ病院神奈川県横須賀市緑が丘28 ☎046ー822ー2134(代表)https://www.st-joseph.jp/  70年以上にわたって横須賀地域の医療を支えて続けてきた聖ヨゼフ病院。3月24日には新病院が開院し、今まで以上に地域と密接な関係が生まれようとしている。これまでの歴史や、今後、目指す医療の形などを病院長の白井輝氏に聞いた。 ◎旧日本海軍病院の建物6階建ての新病院へ  横須賀市の中心街からほど近く、小高い丘の上に聖ヨゼフ病院はある。完成間近となった新病院の真横には、昭和の香りを残した趣のある旧棟が並ぶ。白井病院長によると、古いものは前身の病院から使用されている建物で、築80年以上が経過しているそうだ。 「前身である横須賀海仁会病院は、旧日本海軍によって1939年に設立されました。そして戦後に米軍が接収し、地域のために役立ててほしいと当法人の創始者・ブルトン司教に譲ったそうです。1946年に当院が開設されてから現在まで、その建物を大切に使ってきました」 しかし、施設の老朽化や耐震性の問題があり、約15年前に新病院の計画が持ち上がった。「横須賀市から離れて逗子市に移転する案などもありましたが、これまでの歴史などを踏まえて、同じ敷地内に移転新築することになったのです」。新病院は地上6階建て。3月24日開院予定だ。 ◎回復期医療を重視して地域のニーズに応える 新病院の待合スペース(イメージ)  新病院の構想から携わってきた白井病院長から見た生まれ変わる病院の特徴はどのようなものだろうか。 「これまでも当院が担ってきた回復期医療を充実させたことが大きな特徴です」。旧病院では老朽化などにより、許可病床182床のうち約40床を休床。新病院ではすべてを稼働させ、さらに回復期を担う病棟として充当する。 「横須賀市には回復期に対応する病院が少ないので、地域のニーズに応えるためにも必要な設備を整えました。また、当院は内科や整形外科の急性期医療も強みの一つですので、手術室の機能などを強化。検査機器は最新型を設置し、さらなる医療体制の向上を目指しています」 その他、エントランス棟も新たに設置。「これまで、患者さんらは、急な坂を歩いて上る必要がありました。新病院は坂の下にエントランス棟の入り口とエレベーターがあり、外来などへスムーズに移動することができます」 ◎横須賀市北部の地域包括ケアの拠点に  横須賀の地で長い歴史を紡いできた聖ヨゼフ病院は、地域との結びつきも強い。今後は地域包括ケアの中核的な存在として、各医療機関との連携をさらに強化し、高齢者の在宅医療などを推進する予定だ。 「現在、横須賀市では市全体を4ブロックに分けて在宅医療チームを構成しており、当院は北ブロックの拠点病院です。開業医の先生や介護・福祉施設と連携しながら、急性期の治療を終えた患者さんの在宅復帰、在宅医療をサポートしています。今後は地域の高齢化が加速しますので、このような連携はさらに重要度が増し、当院の果たす役割も大きくなると思います」 総合的な診療ができる医師の育成にも力を入れていく方針だ。「現在の日本の医療は専門性を重視し、細分化されているため、結果的に医療費などが膨大になっています。高度医療が求められる場合はもちろん別ですが、日常的な総合診療は1人の医師が担うことで、効率化を図ることができると考えています」 さらに地域住民からの信頼も背負っているという。 白井輝病院長  「以前、当院には産科があり、年間で最大約1200件の分娩がありました。患者さんからは、当院で生まれたという声をよく聞きます。他にも当院に親しみを感じている人は多く、これは大きな強みです。『地域とのつながりで成り立っている病院』であることを誇りに、今後も地域のみなさんの信頼に応え、お役に立てる病院を目指したいですね」

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「救急車を断らない」地域完結型の医療の充実を

獨協医科大学 日光医療センター安 隆則 病院長(やす・たかのり)1986年秋田大学医学部卒業。米カリフォルニア大学サンディエゴ校留学、琉球大学大学院医学研究科循環器・腎臓・神経内科学准教授、獨協医科大学日光医療センター副院長などを経て、2019年から現職。同心臓・血管・腎臓内科主任教授兼任。  獨協医科大学日光医療センターは、2006年開院。急性期医療、高度医療、リハビリテーションを中心に、地域医療支援病院としてさまざまな取り組みを行っている。そのかじ取りを担う安隆則病院長の目指す医療とは。 ―「救急車を断らない病院」を実現されています。  月に約150台、年間2000台ほどの救急車を受け入れています。救急対応は、昼間はファーストコール、セカンドコール、サードコールまでローテーションを決めており、夜間は内科、外科の医師を1人ずつ配置しています。  救急部の部長を兼ねていた副院長時代の2018年に、救急車を断らないための「見える化」を実施しました。救急車の受け入れ件数、患者さんの様子、電話対応、受け入れを断った場合はその理由なども含めて、毎日院内に配信。それにより、理由なく救急車を断ることができなくなります。 特に当直勤務を任された若い医師たちは、患者さんへの対応について、翌朝すぐに先輩医師に相談し始めるなど、この取り組みによって全員のモチベーションに変化が生まれました。 その結果、応需率は格段にアップ。「見える化」の効果は極めて大きかったと考えています。 この救急の「見える化」の実績をさらに広げたいと、病院長に就任した2019年には各病棟の病床稼働率の「見える化」にも着手。救急もあるので、基本的に病床稼働率は90〜95%程度と指示しました。こちらも常に、この数字の範囲で推移しており、成功しています。 ―「地域完結型医療」の取り組みは。  急性期から慢性期まで「切れ目のない医療」を展開するために、一つの病院だけでなく、地域全体で取り組みたいと考えています。 まず当院では、患者さんが寝たきりにならないよう、急性期の段階からリハビリテーションや食事指導を取り入れるようにしています。 例えば、心不全の患者さんに対しては、塩分の摂取量を守ること、運動を定期的にする習慣づくりなどを指導。その後、地域のかかりつけの先生にお戻ししてからも数カ月に一度、当院に通っていただく「二重の主治医」とも言える体制を整えています。 日光市は人口減少が進んでおり、病院同士が協力していかないと地域医療が立ち行かなくなります。そこで、日光市や市内にある多くの医療機関がさまざまな協議を重ね、2019年4月、地域医療連携推進法人「日光ヘルスケアネット」を発足させました。 参加医療機関で医療機能の分担を進め、患者さんの入退院の適正化や、在宅医療の充実化を図っていこうと仕組みづくりを進めています。これらの取り組みがスムーズに動くことで、「地域完結型」の医療が実現できるのではないかと考えています。 ―さらなる取り組みは。  当院は研修施設として、セミナーを多数開催。地域の開業医の先生方にも参加を呼びかけています。 2019年からは、それまで院内対象だった病理医と臨床医による議論の場「CPC(臨床病理検討会)」を院外の先生にも開放しました。院内の医師たちの刺激にもなっており、地域医療の充実と質向上につなげたいと考えています。 もう一つ大きな目標に「日本・アジアの人を〝とりこ〟にする医療サービスの提供」を考えています。学生時代にカンボジアにボランティアに行った経験があり、いつか力になりたいと思っていました。 さまざまな交流はすでに始めており、インドネシアや中国から医師が見学に来ています。観光客対象のインバウンドに限らず門戸を開き、「ここで治療を受けたい」と思っていただけるような質の高い医療とサービスを展開したいと思います。 獨協医科大学 日光医療センター栃木県日光市高徳632☎0288―76―1515(代表)https://www.dokkyomed.ac.jp/nmc/

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「医療はインフラ」 より良い地域医療の実現へ

社会福祉法人恩賜財団 済生会支部神奈川県済生会横浜市東部病院三角 隆彦 院長(みすみ・たかひこ)1981年慶應義塾大学医学部卒業。平塚市民病院、済生会宇都宮病院、済生会横浜市東部病院副院長・心臓血管外科部長などを経て、2011年から現職。慶應義塾大学医学部客員教授兼任。  高度急性期医療、重症外傷、最先端のがん治療、災害時の医療に貢献する済生会横浜市東部病院。その根底にあるのは、現状に満足しない姿勢だ。「医療とはインフラである」と語る三角隆彦院長に、横浜市東部地域におけるこれからの医療体制について聞いた。 ─院長就任から10年目になります。  開院と同時に副院長に就任し、この病院と共に13年間、歩んできました。院長に就任した2011年は、病院の体制が整い始めた頃。以降、病院の柱である高度医療、救急医療、そして「常に一歩先の医療」の実現に取り組んできました。 がん治療では、手術支援ロボット「ダビンチ」、腫瘍にピンポイントで照射できる放射線治療装置「サイバーナイフ」を導入。心臓弁膜症治療では、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)を導入し、確実に実績を積み重ねています。 救急・災害医療では、県内外で発生した災害に対応するための訓練や研修を経た「神奈川DMAT指定病院」の指定を2011年に受けました。 2014年からは、24時間365日重症外傷救急搬送を受け入れる「横浜市重症外傷センター」としての役割も担っています。 ─現在の取り組みについて教えてください。  高度な医療機器の導入に当たっては、現場の医師からの「このような医療を提供したい」という声が元になっています。 導入した医療技術をしっかりと生かしていくには、資金だけでなく、医療者の教育も欠かせません。技術習得のための医師の海外留学をサポート。TAVIの導入の際には、循環器内科医を1年間オランダへ、計2人派遣しました。重症外傷に対する高度な救急医療を学ぶために、救急科専門医が米国に留学。その時の経験が、「重症外傷センター」の設立につながっています。 より高度な医療、先進的な医療を、横浜市東部地域で提供できる病院へと発展できたのは、ある程度の規模があり、教育に投資できる余裕があったからです。病院経営を取り巻く状況は年々厳しくなってきています。今後も同じように取り組めるよう、考えていく必要があります。 ─地域における役割は。  当院は急性期病院であるため、患者さんはいずれ回復期や慢性期の病院へ転院、あるいは、在宅に戻ります。ところが、横浜市は全体的に病床が不足しており、転院できない患者さんも少なくありません。 地域包括ケア病床も、まだ十分ではなく、地域全体の医療・介護体制の調整が、急務だと考えています。回復期リハビリ病床、慢性期病床は、周辺地域に少しずつ整備されてきていますが、横浜市東部地域ではまだ不足しているのが現状。東部地域全体で考えていくべき課題でしょう。 私は「医療はインフラ」だと考えています。例えば、鶴見区を中心とした双方向の情報ネットワークシステム「サルビアねっと」では、地域の病院、クリニック、薬局、介護施設をつなげています。ここでは、参加の同意を得られた住民の方の電子カルテや受診履歴、過去の薬の処方歴、アレルギーなどの情報共有を行っています 地域の病院や介護施設などがしっかりと連携し、患者さんの経過に応じた医療や福祉が提供されて、初めて安心して生活できると思います。 「健全な病院経営」が叫ばれていますが、決められたルールの中では、なかなか難しい。その中で当院がこの地域で担うべき役割は何なのか、私ができることは何なのか。横浜市では医療機関がお互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、質の高い医療を提供してきました。これからは地域とさらに協力し、より良い仕組みづくりに努めていきたいと思います。 社会福祉法人恩賜財団 済生会支部 神奈川県済生会横浜市東部病院横浜市鶴見区下末吉3─6─1☎045─576─3000(代表)https://www.tobu.saiseikai.or.jp/

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