急性期から慢性期へじっくり向き合う医療を
これまで40年以上、急性期医療の現場で酵素標的・増感放射線療法(KORTUC)の開発など最先端の治療・研究を続けてきた小川恭弘院長。なぜ今、慢性期病院への赴任を決意したのか。ここで目指す医療とはー。
ーこれまでの専門とは全く異なる慢性期病院の院長に就任。どのような経緯があったのでしょうか。
私は長年急性期病院で主に乳がんなどの治療、研究をしてきました。出身は神戸大学ですが、1982年に高知医科大学(現:高知大学医学部)に赴任して以来、31年半ほど高知にいましたので、もう、高知に帰ってきたという感覚です。
そもそも4年の任期を残しながら高知大学を離れたのは、兵庫で一人暮らしをしている母親を気にかけてのことでした。
当時母は86歳、特別病気があったわけではありませんが、やはり高齢ですから、いつ何があるかわかりません。ちょうどその頃、兵庫県立加古川医療センターの院長の話をいただいたこともあり、そちらに赴任することになりました。
しばらくは健康で介護なども不要であった母ですが、ある日、踏み台から転落し大腿骨骨折のけがを負うということがありました。すぐに手術をして、幸い骨はきれいにくっつけていただきましたが、もちろんそれですぐに動き回れるわけではありません。
術後は回復期リハビリの病院に入ることになりました。それからほどなくして、手術などのストレスからでしょうか、今度は認知症の症状がみられるようになりました。現在は特別養護老人ホームに入居し、少し安定してきたところです。
これまで急性期疾患ばかり診てきた私は、回復期や慢性期のことをほとんど何も知らず、母親のことを通して初めて、急性期から慢性期という後方連携の流れを実体験として学びました。それと同時に、慢性期医療の重要性を感じたのです。
急性期は、手術など「治療」は得意です。しかし患者は手術の後も医療を必要としていると知りました。医療は急性期に注目されがちですが、存外に慢性期もじっくりと性根を据えてやっていく価値がある、と感じました。そして、この際しっかりと慢性期医療に取り組んでみようと思ったのです。
ー高知に帰ってこようと思われたのはなぜですか。
高知で長くがん治療に携わってきましたので、県内には私がこれまで診てきた患者さんがたくさんいます。ここなら、その患者さんを最期まで診せてもらえる。まさにこの高知総合リハビリテーション病院をベースとして、私がこれからしていきたい医療ができると思いました。
並行して、高知大学でKORTUCの研究も続けています。過酸化水素(オキシドール)の放射線増感剤を使った乳がんの放射線治療で、「切らずに治す」を目指しています。
現在はイギリスの王立マースデン病院の協力のもと、臨床試験を実施中。3年後にはこの治療にイギリスで公的保険が適用されるよう、効果の検証を進めていきたいと考えています。
ー今後病院が目指す慢性期医療とは。
来年1月に、現在ある障害者施設等一般病棟114床のうち26床を地域包括ケア病棟とする予定です。
地域包括ケア病棟では、高知大学医学部附属病院、高知医療センター、高知赤十字病院などといった地域の急性期病院の患者で、急性期を過ぎて退院する必要があるが、まだ自宅退院は難しいという方を積極的に受け入れ、スムーズに自宅へ帰っていただくための支援を行っていきます。
今後はますます、こういった地域にじっくりと向き合う医療が必要です。地域に愛され、そして地域の役に立てる病院であるよう、私の医師人生の総仕上げとして、ここで頑張っていきたいと思っています。
医療法人社団晴緑会高知総合リハビリテーション病院
高知市一宮南町1-10-15
TEL:088-845-1641(代表)
http://www.jojinkai.com/kouchi/