日々垣間見える人生のドラマを支えたい
病棟医長として琉球大学に勤務していた田名毅医師は、「地域の最前線で重症化予防に役立ちたい」と考えるようになった。決意を固め、「田名毅院長」として一歩を踏み出したのは36歳のときだ。
―クリニックの歩みを。
「まだ開業は早いのでは」と心配する声もありましたが、地域の中でたくさんの患者さんと関わっていくことが私に合っていると思っていましたので、大きな不安はありませんでした。専門である高血圧、腎臓の疾患を中心に1階を外来、2階を透析というスタイルで、田名内科クリニックを開設したのが2001年のことです。
2000年、沖縄の男性の平均寿命が26位に急落。それまで長寿県の座にあっただけに「26ショック」と呼ばれ、肥満や透析患者の増加など「県民の健康状態に危険信号がともっている」と盛んにさけばれるようになりました。
このクリニックの外来もあっという間に忙しくなりました。透析患者さんも開設時は4、5人でしたが数年後には80人ほどに増加。このままでは対応できなくなると思い、琉球大学の同級生である比嘉啓先生に声をかけました。
2006年、私が院長を務める第一クリニックを外来専門、比嘉先生を第二クリニック院長として透析専門とする体制に移行。併せてもっと地域に根ざし長く続いていくとの思いを込めて「首里城下町クリニック」と名を改めたのです。
―具体的な取り組みは。
開設時から12月を除く毎月、「正確」かつ「なかなか他では聞けない話」を目指し、さまざまな先生をお招きして地域向けの医療講演会を開いています。
メディアで発信されている情報の中には、医療者からすれば首をかしげざるをえないものも含まれている。患者と向き合う医師の言葉を直接伝える場にしたいと始めました。毎回、参加者は100人を超えます。
産業保健師だった妻の経験を生かして2階につくったのが、相談窓口「町の保健室」。保健師2人、看護師2人を配置しており、現在13社、約2000人の働き盛り世代の健康管理を担当しています。各種の相談を受け付けているほか、必要に応じて適切な医療機関も紹介。メンタル面の不調で休職し、復職を望む方のサポートにも取り組んでいます。
「保健室」の役割は独居の高齢者の重症化予防や生活支援にも広がりつつあります。離れて暮らすご家族に体調の変化を知らせるなど、地域包括ケアを意識した活動も展開しています。
同じく2階の一画に開設した「食を考えるコーナー」では、月に2度、午前中に管理栄養士による料理教室を開いています。定員は15人で予約制。楽しみながら健康維持に役立つ食事の知識を得てもらえたらと考えています。
―今後のイメージは。
那覇市医師会、沖縄県医師会理事として、地域連携強化などの活動にも力を入れています。県医師会の理事で琉球大学出身者はまだ私1人。教授や院長に就任する卒業生が増えていく中、私がしっかりと理事の責任を果たしていくことで後輩たちが活躍できる場を広げたいですね。
当院に通う6500人くらいの患者さんのうち、90歳以上が約160人。80代の方に伝えると、「そんなに長生きしている人たちがいるのなら、自分も頑張ってみよう」と目の色が変わります。
付き合いが長い患者さんだからこそ、そんな会話ができるのかなと思います。漫才のような掛け合いになることもあるし、いつもの様子と異なる点があれば、診察室に入ってきてすぐに気づく。ときには家族に関する悩みを打ち明けられることなどもあります。
日々、患者さん一人一人の人生のドラマが垣間見えるのです。日常の診療が同じことの繰り返しに感じたことなど、17年間でただの一度もありません。
医療法人麻の会首里城下町第一クリニック
那覇市松川3-18-30
TEL:098-885-5000
http://www.shuri-jc.jp/