広島大学大学院 脳神経内科学 丸山 博文 教授

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後悔しない選択のために私たちには何ができるか

【まるやま・ひろふみ】 1990 広島大学医学部卒業1996 広島大学大学院修了 1998 広島大学病院脳神経内科助手 2006 広島大学原爆放射線医科学研究所分子疫学准教授 2013 同脳神経内科学准教授 2017 同教授

 2017年2月の教授就任から間もなく1年。時代とともに広がる「神経内科の魅力」はどこにあるのだろうか。丸山博文教授が答えてくれた。

◎神経内科全般をカバーできる

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 初代教授の鬼頭昭三先生と2代目の中村重信先生が神経変性疾患を中心に教室を発展させ、脳卒中を専門とする松本昌泰先生が3代目に就任したことで、カバーする疾患の幅が大きく広がりました。「神経内科全般を診ることができる」という強みを、4代目としてさらに伸ばしていきたいと考えています。

 広島県の神経内科領域の底上げを考えると、当教室にはまだまだ人が必要です。歴代教授の取り組みにより、県内各地への医局員の派遣は段階的に充実してきました。しかし、北部、東部エリアはかなり手薄。少々時間はかかると思いますが、より広域的に貢献できるよう、引き続き人材の獲得に注力します。

 これからを見すえた研究面では、遺伝カウンセリングを含めた神経変性疾患の遺伝医療をもっと取り込んでいくイメージを描いています。県内唯一の医学部ですから、私たちは広島の医療をけん引する立場。医局員が遺伝医療への理解を深めることでレベルアップを図り、成果を各地に還元したいと思っています。

 国の指定難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)は国内に1万人前後の患者さんがいると推測され、根本的な治療法はありません。

 発症後、人工呼吸器のサポートなどがなければ平均して3年から5年ほどで亡くなります。症状の進行度にはかなり個人差があり、ゆっくりと進んで10年ほど生きる患者さんがいらっしゃる一方で、急激に悪化するケースも見られます。

 進行を遅らせる方法の一つは薬剤です。従来はリルゾールの1種だけだったのですが、2015年に脳梗塞治療薬のエダラボンがALS治療薬として承認されました。

 また、同年、ロボットスーツHALが医療機器として認められたことでALSや筋ジストロフィーの患者さんのリハビリテーションに使用できるようになりました。2017年4月、広島大学病院でも下肢タイプのHALを導入。リハビリテーション科で治療が開始されました。

◎誰も予測しなかった原因遺伝子を同定

 ALS患者さんの多くは生存期間が短いこともあって、遺伝子異常の解析が難しい疾患だとされています。近年、SOD1やTDP-43、FUSなどさまざまな原因遺伝子が同定されていますが、同じ原因遺伝子で発症した患者さんでも症状の進行は多様です。

 2010年、広島大学附属研究所の原爆放射線医科学研究所・川上秀史教授の指導のもと、ALSの新たな原因遺伝子である「オプチニューリン」を同定しました。

 目を意味する「オプティ(Opti)」を含んでいる通りもともと緑内障の原因遺伝子として知られていたものです。それまでオプチニューリンとALSが関連しているとは誰も予測していませんでした。

 オプチニューリンは炎症や発がんなどにかかわる転写因子「エヌエフ・カッパー・ビー(NF-kB)」の働きを抑制します。オプチニューリンに遺伝子変異が起こると制御機能が失われ、NF│kBが過剰に活性化。運動ニューロンに影響を及ぼしてALSが発症すると推測されます。

 オートファジー(自食作用)との関連も指摘されています。これらを解き明かすことで、例えばNF-kBの働きを阻害する新たな薬剤や、治療法の開発などの方向性が見えてくると思います。

 現在、原爆放射線医科学研究所との共同研究を継続中で、当教室でも、永野義人診療講師を中心にオプチニューリン変異マウスを用いた病態解明を進めています。

◎「診る人」を増やす

 私が副センター長を務める「難病対策センター(CIDC)」は、難病患者さんと、そのご家族の相談業務を主業務として2004年に開設。ここ数年の動きとして広島労働局と連携して就労支援にも力を入れています。

 年に2回、難病医療従事者向けの研修会を実施しています。「難病」といっても、その範囲は非常に広い。研修会が始まった当初は神経難病を扱うことが多かったのですが、しだいに潰瘍性大腸炎やリウマチといった疾患もカバーするようになりました。看護師や介護職、かかりつけ医の先生など、さまざまな医療者の関心が高まっていることを感じています。

 高齢化により、脳卒中やパーキンソン病などが着実に増加します。特に認知症については、対策が追いついていないのが現状です。

 私は「広島県認知症地域支援体制推進会議」の委員として県の施策づくりにかかわる中で、専門医以外の「診る人」を増やす必要性を痛感しています。そこで近年、多様な診療科や職種が参加できる講習会を年に3回、広島県、広島市と共同で開催しています。

 CIDCの特徴的な活動が「在宅人工呼吸器装着者災害時対応システム」の構築です。患者さんの同意のもと、広島県内の人工呼吸器在宅装着者の情報を行政、消防局、電力会社に提供。工事などで停電を予定しているときや、災害時、救急搬送の要請などに円滑に対応してもらうための仕組みを整えています。

◎内科らしい内科

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 私が考えるに、神経内科は「もっとも内科らしい内科」ではないかと思います。ていねいな問診や診察で疾患を絞り込んで治療する。文字通り頭のてっぺんからつめの先まで観察し、地道に自分の力で解決法を見いだすスタイルは、いわば昔ながらの内科診療の側面を受け継いでいるとも言えるでしょう。

 内科の原点は、患者さんの話に耳を傾けることです。特に大事だと思うのは、患者さんが「後悔しない選択」をできるよう手助けすることです。

 神経内科が扱うのは、残念ながら現在の医学では治癒できない疾患が多い。患者さんがどんなことを不安に感じ、それに対して今の私たちに何ができるのか、読み取る力が欠かせません。

 ある選択肢が、医学的なセオリーとしては正しいのだとしても、患者さんが望んでいることとは違うかもしれない。カウンセリングの意味は、患者さん自身にもしっかりと考えてもらい、前向きな治療につなげていくためのものです。

 よく他科から「調べたが原因がよく分からなかった」という患者さんを紹介されます。疾患を見抜き、振り分ける役目ももつという意味では、私たちは総合内科的な存在でもあります。考えに考え抜いて答えにたどり着くことが、この分野の魅力だと思います。それだけに、学生には「神経内科は難しい」という印象をもたれることも少なくありません。

 神経内科はどんな人にも門戸を開いています。脳神経外科がやっている脳血管内治療も神経内科でできる人が増えてきました。あるいは、じっくりと疾患と向き合って研究したいという人は、神経変性疾患に取り組めばいい。さまざまなニーズを受け入れることのできる分野だと思います。

 私たちが目指すべきは本当の意味で神経疾患を予防し克服することです。神経内科領域の疾患は長らく「治らない」「分からない」などと言われてきましたが、検査法などの進歩で診断の精度は向上しました。治療法についても、神経免疫の分野や、脳卒中ならt-PA(血栓溶解療法)など、どんどん新たな手法が生まれています。積極的に取り入れて、前進していきたいと思います。

広島大学大学院 脳神経内科学
広島市南区霞1-2-3
TEL:082-257-5555(代表)
http://home.hiroshima-u.ac.jp/naika3/


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