私の医師人生|第7回 永末 直文氏

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【ながすえ・なおふみ】 1942(昭和17)年、福岡県生まれ。1967(同42)年、九州大学医学部卒業。同大学医学部附属病院にてインターン。翌1968(同43)年、同大学医学部附属病院第ニ外科副手になる。済生会八幡病院外科医員を経て、1972(同47)年、スウェーデン・ルンド大学に留学。帰国後、九州大学医学部附属病院、広島赤十字・原爆病院第ニ外科部長。1986(同61)年に島根医科大学助教授就任。以降、同教授、同病院長。2003年、島根大学医学部長に就任。2005年に退官後、医療法人福満会ふくみつ病院院長。2012年からは同法人のみつみ介護老人保健施設施設長に就任。現在に至る。趣味は乗馬

 木村直躬(なおみ)医師から「杉本裕弥ちゃんという1歳の男の子の肝臓移植をお願いできないかと相談された永末直文氏(当時:島根医科大学助教授)。裕弥ちゃんとの出会いから肝移植決断に至るまでを描く。

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手術前の裕弥ちゃんと父親の明弘さん

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◎出会い

 1989年10月21日、永末氏は肝移植を希望する杉本裕弥ちゃんを診察するために自家用車で、九州大学第二外科の先輩である山田孟医師が院長を務める岩国中央病院(山口県岩国市)へと向かった。

 病院に着くと木村直躬医師も同じタイミングで着いたところだった。杉本さん一家(裕弥ちゃん、両親、祖父母)はすでに診察室に入っており、医師は永末氏、木村氏、山田氏、島根医科大学第二外科から出張している槙野好成医師の4人が同席した。

 まずは移植が可能かどうかを調べるために裕弥ちゃんのエコー検査と肝機能検査を実施。すると強い黄疸(おうだん)、肝脾腫、腹壁静脈怒張、腹水がある状態だということがわかった。

 永末氏は「先天性胆道閉鎖による二次性胆汁性肝硬変に門脈圧亢進症が伴っている」と診断。父の明弘さんにもエコー検査をした。明弘さんは軽度の脂肪肝だったが移植するには問題ないレベルだったという。

◎決意

 永末氏は裕弥ちゃんの家族に「この肝移植はとても難しい手術で、裕弥ちゃんの状態を考慮すると手術中に死亡する可能性もある」と伝えた。

 母親の寿美子さんに成功の可能性について聞かれた永末氏。正直に「私たちは人での肝移植をしたことがないので分かりません」と答えたという。

 祖父の政雄さんから「国内、海外のいくつかの病院に相談したが、すべて断られた。この子の状態が日に日に悪化しているのは素人の私たちでもわかります。結果は問いません。裕弥にできるだけのことをしてやりたいんです。そうしないと一生悔いが残ります」と言われ「手術をしてください」と頭を下げられたという。

 この姿を見た永末氏は「医師生命をかけて、この生体肝移植に取り組もう。ここで断るようでは医師とは言えない」と考え、移植の決意を固めた。

◎入院

 裕弥ちゃんを診察後、その日のうちに島根に戻った永末氏。翌々日の23日月曜日に島根医科大学第二外科の中村輝久教授に裕弥ちゃんの肝臓移植をしたいということを伝えた。

 中村教授は、日ごろから「大学は困難な症例、一般病院では手に負えない症例をやらねばならない」と言っていた。この時も迷うことなく「やってください」と言ったそうだ。

 10月26日、裕弥ちゃん入院。裕弥ちゃんの状態は最初に岩国で診たときと一見、変わりがないように思えたが、血液検査をしてみると、貧血、低たんぱく血症、強度の黄疸があることが分かった。

 これらの治療を開始すると同時に移植のための検査計画を立てた。

 肝臓の血管造影は11月7日の火曜日に実施予定だった。しかし、裕弥ちゃんの容体が急変。下血と吐血をするようになり輸血が必要な状態になってしまった。

 9日、木曜日のことだった。裕弥ちゃんの呼吸が止まった。人工呼吸と心臓マッサージをして、かろうじて一命をとりとめた。

 翌日、小児病棟から裕弥ちゃんの異常を知らせる電話があった。急性心不全だった。ステロイドホルモンを大量に投与するなど懸命の治療が実を結び、30分ほどで裕弥ちゃんの状態は回復した。

 「このままではいつ亡くなってもおかしくない。なるべく早く移植をしなければ」と判断した永末氏。13日の月曜日に裕弥ちゃんの状態が落ち着いていれば移植をすることに決めた。(次号に続く)


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