地域医療の担い手としてさらに期待される新病院に
開院から37年、大阪府泉南市における基幹病院として地域医療に貢献してきた野上病院。今年5月、敷地内に新病院がオープンした。これまで求められてきた役割と、充実した機能を今後どう生かしていくかを野上浩實理事長・院長に聞いた。
◎癒やしの場となる新病院へ
旧病院の駐車場跡地に建設した新病院は、ゴールデンウイーク明けに開院しました。
1階の外来待ち合いスペースには、アジサイ、フジ、バラなど泉南市にゆかりのある花々をモチーフにした幅20mの壁面アートを設置。間接照明も採り入れて、少しでも患者さんの癒やしになるように配慮しました。
廊下は、車椅子でも通りやすく、歩き回ることでリハビリにも使えるよう、5人程度でもすれ違える広さにしました。その広い廊下と床には、転倒に配慮した発泡複層ビニル床シートを採用。衝撃を緩衝しながら車椅子でも楽に動ける素材だと好評です。
3階の回復期リハビリ病棟には、廊下とひと続きの開放的なリハビリ用スペースを設けました。専用器具も設置して、気軽に、日常的にリハビリできるように工夫しています。
増設を重ねた旧病院はかなり年季が入り、動線も複雑になっていましたが、今は快適に過ごしていただけるようになりました。
今後も患者さんのためにできるだけのことをするというモットーで精進したいと思っています。
◎公的医療機関のない地域で
ここに開業したのは1980(昭和55)年ですが、それまで泉南市には市民病院などの公的医療機関がなく、総合診療を望む患者さんは遠方の病院まで通う必要がありました。
そこで当時の市長からの要請もあり、総合的な診療を目指して、まずは内科、肛門科、外科、胃腸科の4科30床でスタート。4カ月後には眼科、耳鼻咽喉科、循環器科を増設して77床に増床。8年後には整形外科、皮膚科、泌尿器科、リハビリテーション科、人工透析、ICUも加わって166床(現在は163床)になりました。
現在は16科の診療科を備え、地域の基幹病院としての役割を果たしています。
特に、開院後すぐに増設した眼科は現在でもニーズが高く、手術数は年間300件ほどに上ります。
加えて、肝臓、肛門、腎臓、プラセンタ、リウマチなど、八つの専門外来も設置。近年は特に、糖尿、循環器の専門外来の患者が増えていますね。
◎救急医療を再開、利便性を向上
もともと救急医療も行ってきましたが、全国的に医師不足となった2000年ごろから医師の確保が難しくなり、救急患者の受け入れを控えざるを得ない状況になりました。
しかし、患者さんを和歌山まで搬送しなければならないといった状況を見聞きするにつれ、どうにか再開したいという思いが募り、3年ほどかけて準備。ようやくこの春、救急医療を再開することができました。専門の常勤医2人を確保し、本格始動させたところです。
この地域はもともと、急性期病床が少ないエリア。大阪府は北部に急性期が集中しており、当院がある南部は療養、回復期に比べて急性期が少ないのです。救急車も受け入れることで、救急指定病院として、少しでも地域に貢献していきたいと思っています。
◎連携し、地域に開かれた医療を
当院は急性期、回復期リハビリ、療養病床に加えて、在宅復帰支援のための地域包括ケア病床も設置しています。
リハビリには特に力を入れており、脳卒中や骨折などといった急性期治療の後、充実したリハビリを提供することで早期の社会復帰を目指します。
泉南市と周辺地域は地域医療連携に積極的で、行政と、私が会長を務めている3市3町で構成する泉佐野泉南医師会とが協力して取り組んでいます。
当院も機能強化型の在宅療養支援病院として、地域の診療所などをバックアップしながら、信頼関係を深めてきました。
情報を集約するのは地域包括支援センターですが、院内に開設している地域医療相談室に開業医から直接連絡が来ることも多いですね。
看取りや緊急往診のほか、普段は開業医の先生が訪問している在宅患者さんのところへ、当院の皮膚科の医師が出向いて褥瘡(じょくそう)の治療に当たるなどの連携を続けています。
この辺りの中核病院である泉佐野市のりんくう総合医療センターからも、回復期やがん末期などの患者の受け入れ要請があり、対応しています。
相談室には「介護保険を受けたいんやけど」など、住民の方が話に来られることも。市民の相談窓口といったところですね。
さらに泉南市は、交流カフェや買い物サービスといった認知症に関わる取り組みも非常に先進的で、全国から視察にやってくるほどです。医師会も協力して、学校や自治体などへの啓発活動に取り組んでいます。
これからも、年老いても安心して暮らせるまちづくりを進めていけたらと思います。
◎病気を癒やすだけでなく
当院は、隣接する整形・人工透析クリニックのほか、訪問看護ステーション、デイサービス、ケアプランセンターなどの在宅支援、加えてグループホームやサービス付き高齢者向け住宅といった入居施設も運営しています。
地域包括ケアの担い手として、ニーズに応じるかたちで医療と介護をトータルにサポートする体制を整えてきました。
また、地域の皆さんが健康を考えるきっかけになればと、毎年秋には「のがみ健康フェスタ」を開催しています。測定や相談といった健康ブース以外にも、バザーやステージ、模擬店なども用意して、家族で楽しんでいただける機会にしています。
地域へ出向く出前講座も続けています。保健センターなどで開かれる公開講座に当院の医師を派遣。禁煙、慢性腎臓病、フレイルなど、さまざまなテーマで講演しています。
私の執務室には、夕景をバックに渡り鳥の群れが飛ぶ絵が飾ってあります。「夢に向かって」という題名です。この絵のように、先頭を行くリーダーと、病院のスタッフ全員が同じ目標に向かって邁進(まいしん)していく―というのが私の理想です。
これからも、当院が掲げる「病気を癒やすだけでなく誰もが幸せを感じられる医療を提供する」の理念を忘れず、思いやりのある医療を実現していきたいと思っています。
医療法人 晴心会 野上病院
大阪府泉南市樽井1-2-5
TEL:072-484-0007(代表)
http://www.nogami.or.jp/