どのような組織でもトップは迷い、悩み、苦しむ。そんな「管理職病」への処方せんとして、ビジネス書の分野で売上の固い定番となっているのが「組織論」「リーダー論」をテーマにした書籍だ。
本書は、青山学院大学の「弱小」陸上競技部を、大学陸上界のひのき舞台、箱根駅伝で3連覇(2015〜2017年)するまでに育てあげた原晋監督の言葉を集め、さらに言葉の背景にある勝利哲学にまで考察をめぐらせた一冊だ。個人の能力がクローズアップされがちな陸上競技分野の組織論は異色といえる。それだけ、原監督が実践する方法論が注目されているということだろう。
原監督自身の経歴も異色だ。実業団経験はあるものの、競技者としての実績はほぼ無いに等しい。引退してからは中国電力の営業マンとして抜群の成績をあげた。
指導経験がないままに就任した青山学院大学陸上競技部だったが、監督就任5年後には33年ぶりの箱根駅伝出場を成し遂げる。
原監督の指導方針のコア(核)は、「勝つためになにが必要か」であり、その目的を達成するための方法論として「組織構築術」がある。毎年入部する新入生をどう育て、部としてどのような目的を与え、どう実行させるのか。自身のビジネスマンとしての経験から導き出された方法論は明確で徹底している。
たとえば、「絶対的な答えのないところで、答えを掴(つか)む作業をする」という言葉。禅問答のようだが、原監督は「自分で目標を立てさせ、ヒントを与えて解決させる」ことで人が成長すると確信しているという。
医療の現場においても、答えの見いだしにくい時代になった。新しいデバイスや技術へのキャッチアップの困難さに加え、医療訴訟の増加は医療者の意欲をそぐかもしれない。しかし、たとえば「患者さんの笑顔」のために何ができるのか、何をすべきなのか。そこから導きだされる道もあるはずなのだ。
最後にもう一つ、原監督の言葉を抜粋したい。
「人間の能力に大きな差はない。あるとすれば、熱意の差だ。最後はやはり、行動力と情熱が人を動かしていく」
本書は、新しいこと、大きなことに挑戦しようとしているフロントランナーに勇気を与えてくれるだろう。