医療法人が母体の財団がギャラリーを運営 ― 広島県廿日市市
広島県廿日市市に、医療法人を母体に持つアートギャラリーがある。
「アートギャラリーミヤウチ」。運営するのは、公益財団法人みやうち芸術文化振興財団だ。財団は同市内に拠点を置く、医療法人みやうちが2012年に設立し、翌年、ギャラリーを開設した(関連記事はこちら)。
「廿日市を文化都市にしたかった」と話す同法人の野村陽平理事長は、かねてから廿日市が文化的拠点になると考えていた。市内には世界遺産である厳島神社があり、コンサートホールやギャラリーなど県内でも文化施設に恵まれるなど、芸術文化に対する市民の親和性は高い。
野村理事長は「教養としての芸術文化の提供だけでなく、市民自らが学び、楽しみ、創造」(設立趣意より)する場を提供したいと、財団運営に意欲をにじませる。
アートギャラリーミヤウチは、9月3日から10月16日まで、現代アートの特別展を開催した。
「Nのパラドックス」と名付けられた展示は、ドイツ・ベルリンを中心に活動中の近藤愛助さん(36)と、古堅太郎さん(41)の共同制作。
作品は、2人の出身地である広島と、古堅さんのルーツである沖縄、さらに原爆投下と戦後統治で両県ともに影響を受けたアメリカという地名を出発点とした。
会場では、古堅さんが沖縄をめぐる旅で記録した映像を中心に編集したビデオを流し、展示全体が一体となって、戦争やテロリズム、当事者と傍観者というキーワードを交錯させる。米国統治時代に沖縄で流通していた軍票(100円札)なども並べた。
中心となる展示の「幻の原爆慰霊碑」は、日系アメリカ人芸術家、イサム・ノグチの設計。日本とアメリカの両方から存在を否定されたエピソードを軸に、帰属をめぐるあいまいさに焦点をあてた。
タイトルの「N」はノグチ(Noguchi)と国家(Nation)、あるいは核兵器(Nuclear)の隠喩ともとれる。
「『N』の受け取り方は、観覧者それぞれが感じてほしい」(学芸員の今井みはるさん)
特別展は地元紙などでも紹介され、44日間の展示期間中に約3 0 0 人(主催者発表)が訪れた。
現在、ギャラリーでは、広島市内の有名画廊の閉鎖に伴って譲り受けた作品の研究を進めている。著名な作家の無名時代の作品も多く、広島美術界の歴史研究にとって大きな財産となる。作品の展覧会も開催予定だ。
財団ではさらに、隣接するアパートを購入して主に若手アーティストのアトリエとして貸し出している。昨年度から開催している地元小学校の作品展示とあわせて、地域に根差した芸術活動の拠点とする構想だ。
ギャラリーの運営方針について、今井さんは、「ジャンルにこだわらず、広島に関係のあるアーティストや、逆に広島では触れることのできない芸術作品を紹介していきたい」と話す。
次回の展示は、平本拓也さんの生け花(個展)を企画している(11月3日〜19日)。
開館時間:午前11時〜午後6時
休館日:火、水曜日、お盆、年末年始(展覧会日程によって変動あり)
観覧料:「常設展」200円(学生、10人以上の団体は1 0 0 円)
「特別展」500円(同3 0 0 円) ※ 高校生以下、および各種障害者手帳所持者は無料