泌尿器科は先進性のある人が集まりやすい がんの取り残しがなくなる「光線力学診断法」 膀胱がんの治験を終え薬事承認目指す
今年4月に3代目の泌尿器科教授に就任した井上啓史教授を訪ね、近況や教育・研究・診療などへの思いを聞いた。
―今の心境は
もともと高知県出身ですし、大学にも長くいて、周囲の先生方から良くしていただいていますので、すでに腰を落ち着けていろいろなことに取り組んでいるところです。
さらに、脇口宏学長がもともと小児科の先生で、前任の相良祐輔元学長も婦人科の先生でしたから、それもあってか、私に限らず医学部の人間は高い士気をもってのびのびと仕事をさせてもらっていると思います。
教授の仕事? まだまだわかりません。ただ、教育、研究、診療において、これまでこの講座で培われたものを拡充していきたいと思います。その意味で、現在、キャリアパスを見据えた卒前卒後の教育カリキュラムの見直しを行います。前立腺がんや腎臓がん、さらには膀胱がんに対するロボット支援手術を後進に指導し、さらには、がんの取り残しをなくし再発を抑止する光線力学診断(※)の臨床開発などを積極的に進めています。
―泌尿器科の魅力は
▲(※)光線力学診断は、同講座が2004 年9 月に国内で初導入した新しいがん診断法。患者が天然アミノ酸「5 -アミノレブリン酸」を内服後、患部に青い光を照射すると、がんの可能性が高い部分が赤く光って見える(上写真右)。通常の内視鏡では視認できないがんを発見でき、再発の抑止にもつながる。高知大学を含む5大学で、膀胱がんでの治験が終わり、承認を目指している。同講座の井上啓史教授は、「本診断法の原理は診断にとどまらず、治療にも応用できる。今後、多くのがんにおいて、患者さんの負担が少なく、より精度の高い医療を提供できるよう、この取り組みを進めていきたい」と意気込みを語った。
二つあります。まずは間口の広さ。いろんな学問や分野と接触しているので、がん、感染症、内分泌だけでなく、内科、婦人科、小児科など、多くの境界領域をカバーしています。
境界領域が多いということは、それらをきちんと勉強してスキルを持っていれば、自分の専門性をあちこちに向けることができます。その結果として開業のしやすさもあるでしょう。
もう一つは、泌尿器科医は昔から、先進性のあることが好きな人たちのようですね。
男性ホルモンを押さえ込むことで前立腺がんがおとなしくなることを発見して、1966年度のノーベル賞を受賞したのがチャールズ・ハギンズ博士で、この発見が乳がんのホルモン療法にもつながっています。また、医学史上初の内視鏡は膀胱鏡です。このように内科的な領域でも外科的な領域でも、先進性を持った開発や研究を非常に好む人が集まりやすい科だと思います。
これから泌尿器科は、社会の高齢化に伴い、地域や年齢層によってバランスは違うのでしょうが、がんと排尿機能の領域が欠かせない軸になると考えています。
―学生に助言があれば
医療という仕事は多様性に富んでいますから、臨床医として途中で迷うことがあれば、研究に戻ってもいいし海外などで別の医療に触れるのもいい。そうすれば新たな展開が見えてくるかもしれませんから、学生には自分にリミテーション=制限を設けるなと言っています。
いろんな知識や教養を持っている幅の広い医者になってほしい。そうでなければ患者さんがかわいそうです。一点突破ではなく、回り道してもいいじゃないですか。人間の幅を広げ、医療を極めてほしいと思います。
高知大学医学部附属病院
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