最高の誠意と最善の医療を生み出す努力
東海中央病院の坂本純一病院長 は、消化器腫瘍の外科医として臨床・研究に30年近く携わった。2001年に京都大学大学院・疫学研究情報管理学講座の特任教授として招聘(しょうへい)され、日本の研究者主導型臨床試験の実務の遂行と、試験を実質的に運営するCRC(治験コーディネーター)の育成を進め、数多くの研究者主導型臨床試験・研究を成功に導いた。2006年、名古屋大学大学院教授に就任し、社会生命科学講座・ヤング・リーダーズ・プログラムで世界各国より留学してくる中堅行政官に、医療行政・病院管理などの指導を行った。この実績が評価され、2012年に東海中央病院の病院長 に就任。同院の運営方針などを聞いた。
■〝市民病院〞の役割を担う
当院の歴史は、1954(昭和29)年、公立学校の職員などを組合員とする公立学校共済組合が、当時の川崎航空機工業(現・川崎重工業)附属病院を買収したことから始まります。
現状の病院建物になったのは2011年で、その年に開設55周年記念式典も行いました。現在は26の診療科目、332床を擁し、常勤医師47人、非常勤医師17人が勤務しています。
大きな特徴の一つは、各務原(かかみがはら)市の市民病院としての役割を担っていることです。市の人口は約15万人ですが、市立の 病院がありません。
当院は、各務原市と周辺地域の基幹病院としての役割を担わなければならないという状況です。救急病院としては、年間約2700台の救急車を受け入れています。
2015年9月現在で人口10万人当たりの医師数を比較すると、各務原市の医師数は50・69人で、岐阜市は273・8人、全国平均が156・71人です。
また、人口10万人当たりの看護師の数は、各務原市が270・5人で、岐阜市は990・18人、全国平均は689・38人です。各務原市において医療に携わる者が置かれている厳しい状況を示す数値だと思います。
しかし、だからといって甘えてはいられません。それを前提として、そのなかでいかに「最高の誠意と最善の医療」を提供できるかを考える必要があると思います。
さらに、職員が気持ちよく働くことができ、適切にオフの時間を確保することができる環境を整えることも、時代や医療環境の変化に対応した私の使命だと考えてます。
■病院の質を上げる
まず、「断らない病院」なのだという意識を職員に徹底しました。これまでは、救急搬送や時間外の受診の依頼を断った場合、どの医師が、どういう理由で断ったのかが報告されていませんでした。そこで、診療を拒否した責任者の情報が書面で病院長に伝わるような流れをつくりました。
医療安全の分野にも力を入れました。院内の医療安全委員会の責任者として、能力の高い薬剤師を配置しました。
医療の現場では、ミスにつながりかねないさまざまな「ヒヤリ、ハット」があります。重大な問題が起こってしまう前の段階で情報が上がってくるような環境を作り、医療者全員でその原因を一緒に考え、情報を共有いたします。
一つ一つの問題について、その原因と対策を考えておかなければ同じことが繰り返されてしまう結果となり、最終的に大きな事故につながる可能性が高くなるからです。
また、感染対策にも力を入れています。優秀な医師や看護師を委員会の責任者や対策専任 で配置し、感染ラウンドなどを徹底しました。
以前は、感染防止地域連携加算の条件であるカンファレンスに参加させていただく側でしたが、真剣に取り組んだ結果、2015年には、カンファ レンスを主催する側の病院に昇格することができました。
■メディカルスタッフの力も寄与
看護師の夜勤については、仕事内容を見直し、一部の業務で看護助手を積極的に活用するようにしました。
これに伴い、看護師の減少により負担が大きい夜勤の回数を減らし、少しでも負担を減らすことができるよう努力しております。
また、院内託児所の夜間保育の回数を増やして、充実を図り、医師や看護師だけでなく医療者全員が 安心して働ける環境を整備することができるよう進めております。
また、薬剤師は積極的に、入院患者の病棟での薬剤 管理に取り組んでくれています。
これまでは、病棟での服薬 の管理は看護師が行っていたのですが、他院で処方され、患者が持参した薬剤もあり、剤型だけでは判別がつきにくいなど、看護師にとって業務の負担になっていました。
若手薬剤師が自主的な動きで病院全体を考えて貢献してくれたことにも感謝しています。
検査についても、放射線技師、臨床検査技師に、診察の始まる1時間ほど前の午前7時半から検査を始めるようにお願いしました。
診察時間 前に諸検査が済んでいることで医師による診察もスムーズに行うことができ患者さんにも好評です。
メディカルスタッフの多くは地元出身者なので、この病院の存在意義を理解し、一生懸命努力し貢献して良い病院にして行こうという意識が高いことも、改革の後押しになっており、感謝しています。
■医療職として日々研さんを積んで
臨床研修医には、個別に対応し一人ひとりを大事にしています。実りのある研修となるようサポートしていきたいと思っています。
また、研修医に限らず、すべての医師が、実臨床の中で、新しい情報を積極的に取り入れ、できれば英語で当院のような一般病院からも論文として発信する習慣をつけてほしいと考えています。
論文という形にすることにより、日々更新されている新しい医学知識に接し、旧来の診療にどのように生かしていくかという頭の整理にもなります。
一つ一つの実臨床の経験が論文として、他施設の指針となっていきますし、何よりも研究者自身の足跡を残していく意味でも大切 な取り組みだと考えています。
メディカルスタッフにも、専門や認定といった資格の取得を奨励しており、そのための院内業務免除や費用面におけるサポートを行っています。医療は日進月歩ですから、絶えずそれについていく ためには、最新の知識を得る努力を続けるべきだと思っています。
当院の職員はみなし公務員という身分ですので、能力による給与の査定を行うことには未だ抵抗を感じる者もいるようです。
しかし、資格を持っている者、重責を負って努力を怠らない人々への傾斜配分や手当て の増額などは、規定の範囲内において、許される部分について積極的に進めたいと考えています。
公立学校共済組合 東海中央病院
岐阜県各務原市蘇原東島町4丁目6番地2
☎058・382・3101(代表)
http://www.tokaihp.jp/