森 達也[著]新潮社 刊/四六判
映像作家の森達也が新境地を開いた。
饒舌な登場人物が、2033年の未来を疾走する。タナトスと呼ばれる自殺衝動が蔓延する日本で、チャンキはヨシモトリュウメイに導かれ、壮大な歴史をなぞる旅に出る。
「100万人が虐殺されたと語ることは簡単だが、一人ひとりの命がどのように蹂躙され、迫害されたか、われわれは知らなければならない」。森は、兄弟をクメール・ルージュで殺されたソニーに語らせる。人類の歴史が虐殺の歴史であるなら、顔のない個々の死者への想像力こそが、「世界を否定しない」(最終章)未来を構築するのか―。
タナトス解明の鍵であるアポトーシス(細胞の自死)は日本社会を覆う「群れへの同化」圧力への暗喩か。熱狂した群れはいずれ、暴走する。(大山=本紙副編集長)