「間違いだらけ」医療界の常識に挑戦する
―今年6月に『間違いだらけの糖尿病食』(現代書林)を出版されました。糖質制限療法を医療界のパラダイムシフトと位置付けられています。
そもそも、「人間の身体に糖質を入れてはいけないし、入れる必要がない」のです。
2004年に初めて、アメリカの糖尿病学会が「栄養源として血糖値を上げるのは糖質だけである」ということをはっきりと指摘しました。栄養学の根本的な部分が、わずか10年前まで世界中で誤解されていたのです。
私が医学部の学生だった頃は「高カロリーが血糖を上げる」と教わっていましたし、現在も同じことを教えているはずです。そのためか、医師でも高カロリー説を信じる方が大半です。しかし、中学生にでもわかる簡単な因果関係ですが、血糖値を上げる栄養素が糖質だけなのであれば、カロリーがいかに高かろうと無糖質・低糖質の食品を食べている限りは血糖値が上がりません。
また、血糖は糖質を摂取しなかったとしても肝臓で作ることができます。糖質をまったく取らないと低血糖になるのではないかと心配する方もいますが、肝機能が極端に低下した末期の肝硬変でもなければ、血糖は常に正常値に保たれるように、肝臓が作ってくれるのです。
さらに言うならば、本来、糖質は人間の身体にとって必要な栄養素ではない、ということも言えるでしょう。
―糖質制限療法について、さまざまな反発もあります。
あるアンケートでは、医師の6割が糖質制限を実践しているか、周りに勧めているという結果が出たことがあります。しかし、医学会の中でそれを大きな声で言うことは、一般的には考えにくい。なぜなら、糖尿病学会や大学などの権威ある機関が認めていないからです。
糖尿病学会など、第一線の専門家集団が長年にわたって言ってきたことが間違っているとなれば権威の失墜です。ましてや根本が間違っているわけだから、長年やってきた人、権威のある者ほどダメージは大きいでしょう。それを避けるために、「いままでの糖尿病治療は間違ってました」とは言わないのです。
こんなことを言っている私も、本を書いた昨年の6月ごろは、じつはまだ怖くて(笑)、Ⅰ型糖尿病と、長年にわたってⅡ型糖尿病を患って、インスリンを大量に使っている方については糖質制限療法を取り入れていませんでした。
すると、うちのスタッフから「先生、それは逃げていることになりませんか?」と叱られてしまいました。糖尿病治療の簡単なものだけ、おいしい部分だけ取り上げた本を出すのはいかがなものかということで、私も反省しました。現在では基本的にⅠ型の方も、長期にわたってインスリンを使っているⅡ型の方であっても、治療を断ることはありません。
糖質制限は、理論や効果に疑う余地がありません。偉そうな言い方になりますが、1日もはやく全国に普及させることで国民の健康増進に寄与したいと考えています。