高松市民病院 和田大助 院長
―新病院について教えてください。
高松市には、新病院を核として町づくりをする「コンパクトエコシティ計画」があります。2010年に新病院建設の基本計画ができ、昨年度中に建つ予定だったのが、今やっと土地の造成が進んでいます。
新病院は敷地面積が現病院の2.5倍で交流広場や院内保育所も整備します。今年度中に建築に入り、2018年前半に開院予定です。
移転が滞る中、建物が古くてもがんばろうという思いから、昨年1月「病院機能評価3rdG:Ver.1.0」を受けたところ、病院のみんなのおかげで一度目の挑戦にして承認・認定を頂くことができ、それが同年4月のことでした。当院では「ファインチームワーク」と言っていますが、その時「医療安全」や「感染対策」を含め、一致団結でやったのが良かったと思っています。
今後「地域包括ケアシステム」を進めていくにあたり、「地域包括ケア病棟」の開設を予定しています。それに合わせバザーや血圧測定などを盛り込んだ「病院祭」を計画中です。当院の「患者サービス向上委員会」では、七夕とクリスマスの2回演奏会やマジックショーを行ないます。
目標を定めた様々なプロジェクトチームを組みチームワークを高めるために、「さぬき高松まつり総踊り」への参加や「職員旅行」なども考えています。
昨年12月に「地域医療支援病院」に認定されましたが、そのプロジェクトチームも、医師だけでなく各職種が集い、紹介率50%、逆紹介率70%という目標をクリアできました。
―地域での役割は。
私自身は、理事として医師会活動もする中で多くの先生方と顔見知りになることができました。高松市医師会には看護学校があり、当院は実習先として看護学生を受け入れています。私はその看護学校の教育主任でもあります。また、高松市医師会の救急二次輪番部の部長もやっています。
今は「救急」に力を入れていて、当院の職員と消防局の救急隊員との定期的な懇談会・勉強会を始めました。電話だけのやりとりでなく、「顔の見える関係」をつくろうと始めたところ、連携がスムーズになりました。他病院も同じようにはじめています。高松市の救急医療の最適化をはかることができたと思います。
新病院の建つ仏生山地区の方々も心待ちにしてくださっています。仏生山地区は、災害にも強いんです。海に囲まれた四国は、南海トラフ地震で津波がくる恐れもあります。四国四県で空港が海沿いでないのは高松だけで、もし地震で津波に襲われた場合、高松空港が活路となり得ます。
ヘリポート設置の新病院は高松空港の近くに位置し、何かの際に「四国四県の災害時の拠点」にもなれたらと思います。また新病院は高松市の中心部あたりにできるため特に病院の少ない南部の医療圏は全部受けられたらと思っています。
―沖縄の八重山病院と提携されたんですね。
当院では、他職種を交えて「病院学会」を作ろうということになり、「高松市立病院学会」を2012年から年1回やっています。その第2回は八重山病院の上原真人先生が講師をしてくださり、そこから当院との交流が始まりました。
医師の数、病床数もよく似た同規模病院で非常によくがんばっている。そこで、当院がICUを開設する際、既にICUがある八重山病院を見学に行こう、という話になり、私も含め6人ほどで見学に行きました。翌年から当院でもICUが稼働し始めました。
八重山病院の医師は生き生きしていて、「意識」が高いです。「自分たちが向き合って治さないと、患者さんの行き場がない」という思いからではないかと思います。だから救急医療もしっかりやっているし、患者さんに親身になろうという気持ちがある気がします。
私は「初心忘るるべからず」を座右の銘にしていますが、やはり段々と日常に埋没し忘れてしまいがちです。私はたまたま外科医を選んでいますが、昔は幅広く患者さんを診ていました。近年の風潮として、それが段々と狭まる潮流にありますね。
経験を積む中で忘れてはいけないのは、医師にとってはたくさんの患者さんの1人であっても、患者さんにとって医師は世界に1人の存在であるということ。だから、いつも患者さんを「自分の家族」と思って向きあうように心がけています。
―若い医療従事者に求めるものは。
一人の患者さんを助けた時の喜びは、なにものにも代えがたい喜びであり、やりがいです。
「生きていく」というのはその人の運命で、われわれが医療でできるのは微々たるもので、その人の「生きていく力」をある程度応援し、本人の力を出すこと。
生きる力と、力を尽くした結果亡くなっていくこと、どちらも「応援する」「支える」だけのことしかできません。病気をすると、目線が変わります。入院したり、見舞いに行くと医療者側と患者側と世界の見え方や聞こえ方が全然違うことに気づきますよね。
常に、医療側だけでいると分からないことがあるという視点も忘れてはいけないと思います。