福岡市医師会成人病センター 院長/医学博士壁村 哲平
福岡市医師会成人病センターの院長に着任して1年と少し経つ。
同センターは今年で開設50年の節目を迎え、8月3日にはホテルニューオータニ博多で記念式典も開かれる。医療環境の目まぐるしい変化の中で、変わらなければならないものと、変わらない方がいいものについて聞いた。
―ひと言で「いい医者」とはどんな人でしょう。
常々若い医師に言っているのは、たとえ癌であることを告げる場合でも、相手が笑って帰れるかどうかが勝負なんです。そのような思いで話せるかどうかがとても大きいんですよ。
患者さんの抱えている大きな不安を理解したうえで、それをどう克服してもらうか、絶望ではなく、まだ未来に向けて道がちゃんとあると感じた時に、その人は病気と積極的に向きあうことができます。自分が思っている以上に時間は残っていると分かっただけでも違うんですね。
「どんな手術ですか、どんな治療がありますか」とたずねてきたら儲けものです。「よし、それなら説明しよう」と言ってですね、要するに、くよくよするよりも今の時間を充実させて生きるにはどうすればいいかを一緒に考えることが大事なんですよ。そこを医師がサポートしてあげなければならない。
―癌に対する国民の理解は進んでいますか。
医療水準がとても高くなっているのと、情報が多くなり、癌は治療できるし、時間もあることが理解されてきました。心ある医者と話すことで情報を整理できる、それを聞く姿勢が多くの人にあります。その意味で情報が多いというのは良いことだし、実際に知識レベルは非常に高いですよ。
― 50周年の式典は何人くらい集まる予定ですか。
300人から400人の規模でしょうか。記念事業として九州国立博物館の三輪嘉六館長の特別講演を準備しています。当初は宗像神社のことを話してもらう案もあったのですが、最終的には九州の表玄関としての福岡の歴史などについて話してもらおうと考えました。過去を知ることで未来が見えてくることもありますからね。
福岡は昔から長崎と同じく九州の表玄関で、おもてなしに優れている土地柄です。そこには暖かなまなざしが必要だし、かなりの知性と教養がなければできないことですから、どんな内容になるか楽しみです。
― 50年の歴史からどう進むのでしょう。
福岡市医師会の中でどんな役割があるかと考えた時に、「都市型医師会病院」の姿を提案したい。院長がこれから何をやるんだろうと期待している職員は少なからずいると思います。みんなの夢を少しでも現実に近づけたいですね。
勝負は患者さんを笑顔にさせること
―この1年で職場はどう変わりましたか。
歴史のある整った病院だということは間違いありませんが、個々人の実力に任されている面が大きく、活力や方向性が整備されていない感じがありました。部分最適になりがちで、それは全体最適になり得ません。
非常に努力している医師がいて、その気持ちはよく分かる。だからこそ、そこからまわりを見て全体最適を目指してほしいわけです。
それを引っ張って行くリーダーはもちろん大事なんですよ。でも組織のあり方というのは、みんなで同じ方向に進まなければいけない。
それが全員に見えるように、去年の9月にこんなものを作ったんですよ(記者に広報誌WITHを提示する=上の写真)。
医療に従事する人は眼差しが大事だということです。だからなるべくたくさんの、柔らかで暖かいまなざしを載せました。「私たちが連携してケアします」というメッセージですね。
こうして見ると中心はみんなだということが分かりますよね。私が中心の病院だったらつまんないですよ。いろんな人材がいるわけですからね。
2号には多くの新人、ニューカマーが登場します。7月には発刊する予定です。それを職員が見て、自分たちは輝いているじゃないかと思い、職場の話題になればいいと思いますね。みんなの笑顔を見て腹の立つ人はいませんから。今は多くの職員が同じ方向性を自覚し、笑顔で活力のある職場に変貌しつつあると嬉しく思っています。
50周年記念行事=8月3日ホテルニューオータニ博多
〈式典17時〜17時半〉
開会の辞―長柄均福岡市医師会副会長、会長挨拶―江頭啓介同会長、五十年の歩み―壁村哲平成人病センター院長、閉会の辞―竹中賢治福岡市医師会副会長。進行=押淵英尚同専務理事。
〈講演会17時半〜18時半〉
記念講演―三輪嘉六九州国立博物館館長、座長―壁村院長、進行=勝田洋輔同副院長。
〈祝賀会18時半〜20時〉
祝辞―日本医師会、福岡県医師会、福岡市など、乾杯―酒井喜久雄共同利用施設運営委員会委員長、閉会の辞―平田泰彦福岡市医師会副会長。