外国人の精神科医療 生活者として支える視点を
1976年順天堂大学医学部卒業。スペインマドリード大学医学部精神医学教室留学、順天堂大学スポーツ健康科学部教授などを経て、2003年明治学院大学心理学部心理学科教授。2006年から四谷ゆいクリニック院長兼務。
外国人労働者に対する議論の活発化をはじめ、在留外国人への関心が高まっている。十分な医療サービスを提供する環境づくりは進んでいるのか。「四谷ゆいクリニック」は外国人の心の問題に注目し「多文化外来」を開設している。阿部裕院長の取り組みに学ぶものは大きい。
―在留外国人も含めて幅広く対応している医院は限られているのでは。
精神科領域で積極的に外国人を受け入れている医療施設は、国内にはほとんどありません。
言葉の問題などがありますから、受け付けでのやりとりをはじめ、日本人より時間がかかります。診療報酬ではその点が考慮されているわけではありませんので、医療機関としては取り組みにくい分野ではあるでしょう。
1990年に入管法が改正。日系2世、3世とその家族に対して3年間滞在可能(延長可能)な査証の発給が認められ、労働者として活動できることになったのです。
以降、在留外国人が増加しました。私が当時勤務していた自治医科大学(栃木県)の外来でも患者さんが多くなり、「日系人支援をしたい」と考えるようになりました。
2003年から明治学院大学に勤務していましたが、臨床現場を持っていたほうが良いと考え、2006年に現在地にクリニックを開設。都内でも外国人が多いことなどから四ツ谷を選びました。
―開設から10年余り。
開設当初、新患の外国人は2、3割程度。現在は8割ほどになりました。スタッフは医師、看護師、臨床心理士、通訳など20人余りで対応していますが、その半数が臨床心理士というのは特徴の一つでしょう。英語、スペイン語、ポルトガル語、韓国語など、8カ国語に対応します。
受診を希望する患者さんはまず電話で予約を入れる必要があります。患者さんの状態を聞きますので、スタッフが多言語で対応できることが大切です。
知人や友人からの口コミで受診される方が多く、首都圏を中心に北関東や静岡県など、遠方からお越しになる患者さんも少なくありません。
相談の内容は家庭内のことが主で、職場、学校、地域など幅広い。多くの外国人が家族と一緒に来日していますが、周囲とのコミュニケーションや異文化への適応といった面で、一人一人の心理的な負担は異なります。母国から離れた環境で葛藤が生じ、夫婦や親子間の問題に発展してしまうこともあります。
また、日本生まれを中心にした第2世代も多く受診。小児科は開設していませんが、当院では外国人の子どもも受け入れています。心の問題に対応できる医療施設が不足しているからです。
彼らを取り巻くさまざまな問題は、外国人との共存を考える上で、これからもっと議論が必要になるでしょう。例えば学校では日本語、家では母語。言語の壁によって、学校になじめない、通学できなくなるといったケースも少なくありません。
教育面でのサポートが十分でないと、母語も日本語も、いずれもきちんと話せなくなり、アイデンティティーそのものが揺らぎかねません。精神面への影響もあるのです。しばしば外国人労働者が急増している地域の先生方の相談に対応することもあります。
―今後の主な活動は。
外国人の精神科医療を支える国内のネットワークづくりです。各地に拠点があれば、患者さんは地域で必要な医療を受けることができます。私は「多文化間精神医学会」の理事長でもありますので積極的に働きかけていきたいと思います。
労働者として受け入れるが、生活者としての支援は十分ではない。そんな状況を続けていていいのでしょうか。見つめなおす時期を迎えていると思います。
四谷ゆいクリニック
東京都新宿区市谷本村町2-23 京都荘ビル1階
TEL:03-5225-1291
https://www.yotsuya-yui.jp/