国内唯一、OOKPを実施
最先端の眼科治療をけん引
眼科疾患の各領域におけるエキスパートがそろった近畿大学医学部眼科学教室。近年は歯根部利用人工角膜移植手術(OOKP)、未熟児網膜症治療など最先端の治療も展開する。同教室の下村嘉一主任教授に眼科医療の今を聞いた。
◎歯を目に移植「OOKP」
私は2003年、目を含む粘膜に水ほうなどができ、重症の場合は失明に至る難病「スティーブンス・ジョンソン症候群」の患者さんに対して人工角膜移植の一つ、OOKPを国内で初めて実施しました。
これは1960年代、イタリアで始まった手術で、欧州では既に定着した方法です。特徴は、患者さん自身の「歯根部」を使うこと。自分の組織を使うため、通常の角膜移植や、そのほかの人工角膜移植では拒絶反応が出た場合でも治療可能です。
わずかに光を感じる程度だった人が、術後は視力1.0にまで回復。整容性が低いため、サングラスをかけるなどして外見上目立ちにくくする必要があるものの、視力は長期的に安定した状態を確保できています。
治療対象の疾患自体が少ない中、これまでの症例数は8例。先進医療や保険適用にはなっていませんが、臨床研究として患者さんの経済的負担なく実施できています。
私がOOKPを初めて知ったのは、東京オリンピックがあった1964年、中学1年のときまで遡ります。読んでいた少年漫画に、イタリアの研究者が、患者の歯を目に移植するという治療法を考案したことが書かれていました。
私が入局した大阪大学の眼科は角膜移植が盛んでした。全国から患者さんが来る中、どうしても治らない病気がスティーブンス・ジョンソン症候群だった。その治療法を探していました。そんなとき、中学生のころの記憶がよみがえったのです。
2000年代初頭、日本角膜移植学会に来たイギリスの教授が非常に美しいOOKPをされているのを拝見し、「これだ」と。そこでイギリスに渡り、技術を学んで、戻ってきました。
今、この技術は当教室の福田昌彦准教授に引き継がれています。今後は、この方法をもっと広げたいと思っています。
◎海外からも患者受け入れ「未熟児網膜症手術」
未熟児網膜症の手術もわれわれの強みです。近畿大学堺病院の日下俊次教授が手術を担当していて、年間40例を実施。海外からの患者も受け入れています。
今、医療の発展によって、在胎週数が短い、低体重の子も生きられるようになりました。ただ、網膜の血管が未成熟の状態で生まれてくるため、その後、網膜剥離などになるケースも多くなっています。
未熟児網膜症は、徐々に進行するⅠ型と、急速に進行するⅡ型に分類されます。Ⅰ型は5段階に分類され、2段階までは経過を観察しますが、Ⅰ型の3段階以上および、Ⅱ型の場合は、網膜剥離の進行を抑えるために、レーザー治療を施します。レーザー治療を行っても、網膜剥離が進んだ場合には、硝子体手術をします。
難治性未熟児網膜症に対する硝子体手術ができる病院は、当院と国立生育医療研究センターの2カ所が知られています。
多くの大学から医師が手術の見学に来ています。今後はさらに、この手術ができる医師を育成したいと思います。
◎コンタクトレンズの弊害をなくす
私は日本コンタクトレンズ学会の理事長をしています。コンタクトレンズを使うことによる疾患も増加していると感じています。
最近は、カラーコンタクトレンズの利用者が増えています。インターネットや量販店で購入する若者が多く、中には、普通の度つきコンタクトレンズをつけて、その上にカラーコンタクトレンズを重ねづけしたり、使用済みのレンズを友だち同士で交換したりする人もいます。
涙液の中には、HIVやヘルペスウイルスがいる可能性があり、感染症を起こすリスクが高くなります。さらに自己判断で購入した眼球のカーブに合っていないレンズをつけていると、角膜が傷つきやすくなり、ウイルスが傷口から感染します。
一般的に、コンタクトレンズの装用推奨時間は12時間。しかし、現実にはもっと長時間装着したままにしている人が多くいます。ハードコンタクトレンズを12時間、20年間つけた人の眼球を調べると、内皮細胞の数が格段に落ちています。これを角膜内皮疲弊症といい、若い人の間で増加傾向にあります。
今、コンタクトレンズは「高度管理医療機器」で、薬事法上、眼科医の処方箋は義務づけられていません。眼科を受診せずコンタクトレンズを購入、使用することは眼科疾患を増加させる大きな要因となります。今後は、市民向けの啓発活動にも力を入れていかなければなりません。
そのほか、当学会は、近視の進行を抑える治療用ハードコンタクトレンズ「オルソケラトロジーレンズ」の使用ガイドラインの作成にも取り組んでいます。
◎眼科学領域の今後
教授としての使命は、眼科のすべての専門領域別にスペシャリストを養成することです。ただ、まずは一般の眼科診療ができることが必要だと考えています。
初期段階の2~3年は、一般眼科で学び、その後、専門領域を選んでもらい、臨床と、臨床に直結する研究に取り組むことが大事です。
重要なのは基礎研究です。私の専門はヘルペスで、若いころはウイルスの研究を夢中でやっていました。基礎研究に裏付けされた科学者の目を持った臨床家を育てていきたいですね。
新専門医制度の19領域の中で、眼科だけは日本眼科学会と日本眼科医会の両方に入会することが求められています。二つの会が両輪となって、患者さんの目の安全、健康を維持していくことが日本の眼科医療を高めることにつながると思っています。
近畿大学医学部 眼科学教室
大阪府大阪狭山市大野東377-2
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http://www.med.kindai.ac.jp/optho/