愛知県がんセンター中央病院 丹羽 康正 院長
愛知県がんセンター中央病院は、日本で3番目に設立された研究所を併設したがん専門病院だ。
今年4月に16代目の院長に就任した丹羽康正院長に今後の抱負と力を入れていく取り組みを聞いた。
■次の一手を打つために
伝統あるがん専門病院の院長職を拝命し、名誉とともに重責を感じています。
院長になってからは臨床に立つ機会が減ってしまいました。経営に重点を置かざるを得ないのが、副院長時代との大きな違いですね。
結果を求められていますので、全力を尽くし経営改善に取り組んでいます。現在、プロジェクトチームを立ち上げて、収支の改善を行っています。今後も、診療報酬の改定や消費税増税など医療を取り巻く状況は向かい風ですが、経営が改善しないと次の一手が打てません。理想の医療を掲げていても経営状況が悪ければ、それは絵にかいた餅でしかありません。
2008年のリーマン・ショック以降、県の財政が厳しくなり、新しい機器の導入を控えていた時期もありましたが、ここ1、2年で財政が改善しつつあり、二村愛知県病院事業庁長、木下愛知県がんセンター総長の御尽力で、今年は最新のダ・ヴィンチXiを導入することができ、また医療スタッフも増員する予定です。新たな力を加えて、これまで以上に力強く歩んでいきたいと考えています。
■最新のがん治療
当院の理念は、患者さんの立場に立って最先端の研究成果と根拠に基づいた最良のがん医療を提供することです。
がん専門病院のなかでは老舗の部類に入りますが、医療の進歩に取り残されぬように絶えず先進的な取り組みをしていきたいと考えています。
木下がんセンター総長の発案で「バイオバンク事業」を開始します。がんの患者さんの同意のもとに血液、標本などを採取し、患者さんの治療を行い、病状を追跡することで、オーダーメイド治療の開発やがんの発生・経過を研究します。
世界的にも同様の取り組みは盛んで、遺伝子の異常を研究することにより、がんの診断・治療・予防に役立てています。
■課題は緩和医療の整備
当院は都道府県に1カ所ずつ指定されている、がん診療連携拠点病院ですが、近年のがん診療の均霑化(きんてんか)政策のために患者数が伸び悩んでいます。
我々が今後目指すべきことは、通常の病院ではできない高度で進んだ医療を提供することです。がんの治療には外科療法、化学療法、放射線療法がありますが、当院では標準治療を作り上げていくことが具体的な目標になります。日本臨床腫瘍グループ(JCOG)に代表されるがん研究グループや製薬会社と協力して、日本におけるがん治療の標準治療を開発し、世界に向けて発信することを目指しています。分子標的治療薬に代表される抗がん剤の進化は目覚ましいものがあります。抗がん剤を組み合わせた外科治療、放射線治療によって従来は困難であったがんの治療の開発も目指しています。
緩和医療の充実も急務です。昨年4月に緩和ケアセンターをつくりましたが、体制が整備されているとはいいがたく、在宅医療・地域医療を踏まえたシステム構築が必要です。早急なインフラ整備を行い、理想的ながん医療を提示できる病院を目指したいと思います。
■医師の倫理教育
ほかの医療従事者と違い、医師はそれぞれの大学、診療科によって学んできたことが違い、倫理観は各人各様です。それを一律に教育するのは難しい面もありますね。
副院長時代に医療安全管理責任者だったころ、接遇・メディケーションの講師を招いて講演をしてもらったことがありますが、出席してほしい人に限って出てきていただけなかったことがあります。現在、日本専門医制評価・認定機構において基本領域学会の専門研修プログラムが作られています。この最初の理念で医師としてのプロフェッショナリズムや患者中心の医療が強調されています。こうした倫理面での教育は大変難しいと思っています。