九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

「がんゲノム医療拠点病院」指定 実践的で質の高い医療を

愛知県がんセンター丹羽 康正 病院長(にわ・やすまさ)1983年名古屋大学医学部卒業。愛知県総合保健センター消化器診断部、名古屋大学医学系研究科消化器内科学准教授、愛知県がんセンター中央病院(現:愛知県がんセンター)副院長兼内視鏡部長などを経て、2015年から現職。  2019年9月、「愛知県がんセンター」は、がんゲノム医療拠点病院に指定された。がんゲノム医療はこれまでのがん医療のあり方を大きく変えようとしている。丹羽康正病院長に同センターにおける診療の特徴と現状、課題と今後の展開について聞いた。 ─「がんゲノム医療拠点病院」になった経緯は。  2007年4月に「がん対策基本法」が施行され、同年6月には第1期の「がん対策推進基本計画」が策定されました。その後、第3期の基本計画が2018年3月に策定され、その中で初めて「がんゲノム医療の推進」という言葉が盛り込まれたのです。 当院は、2019年3月に指定された「がんゲノム医療中核拠点病院」に応募したのですが、臨床研究中核病院などでなければ難しいということで、全国で156カ所の病院が選ばれた「がんゲノム医療連携病院」となりました。 ところが、新しく自施設でゲノム医療を完結できる「がんゲノム医療拠点病院」の指定への公募があり、同年9月に全国で34カ所が指定を受け、そのうちの一つに選ばれたのです。 ─愛知県がんセンターでのがんゲノム医療の現状は。  中核病院、拠点病院ともに自分の施設でがんゲノム医療が完結できること、これまでに多くの臨床試験や治療を行っていることが条件です。違いは、中核病院には研究や教育、人材育成といった役割が課せられています。 これまでのがん治療は原発部位ごとに行われ、できるだけ早期発見で、外科的治療、放射線治療、薬物治療などが行われてきましたが、がんゲノム医療は全く違います。がん組織を採取し、多数の遺伝子を同時に調べることでその変異を明らかにし、個別治療を行うというものです。 当院では2019年3月に「がんゲノム医療センター(ゲノム外来)」を開設。同年10月ごろから実質的に稼働し始め、12月末までに43人が受診されています。 ゲノムを調べるに当たっては「がん遺伝子パネル検査」を実施し、その後、結果をもとに各分野の専門家による「エキスパートパネル」という治療についての検討会をします。しかし、誰でもパネル検査を受けられるわけではありません。 対象者は当院の診療科にかかっていて、標準治療の見つからない原発不明がんや希少がん、または標準治療では難しいとされた患者さんで、全身状態が良く、担当医から検査の対象になると判断された方です。2019年12月末までに20症例について、エキスパートパネルが開かれました。 ─今後の展開は。  ゲノム医療と聞いて、患者さんは治らないとされたがんも治るのではないか、と期待を持って受診されます。しかし、現段階ではパネル検査をして、遺伝子異常が見つかっても、効果を期待できる薬がある患者さんは1割程度。9割の方は効く薬がないというのが現状です。 当院では最初に検査の内容や限界をきちんとお話しして、納得いただいた方を検査しています。 ゲノム外来を受診し、検査を経て結果が判明するまでには1~2カ月を要し、保険を使っても高額な費用がかかります。検体も腫瘍の割合や保存の状態によっては検査できないことがあり、どこでもがんゲノム医療ができるというわけにはいきません。  いかに患者さんに実践的かつ質の高い医療を提供していくか。そのことに主眼を置き、最善の体制を整えて頑張りたいと思います。 現在、日本のがんゲノム医療は欧米に比べるとかなり立ち遅れています。保険診療の範囲でできるよう模索しているようですが、今は改善しつつ仕組みをつくっている段階です。これらが解決できれば、今後はすごいスピードで進んでいくのではないでしょうか。 愛知県がんセンター名古屋市千種区鹿子殿1―1☎052―762―6111(代表)https://www.pref.aichi.jp/cancer-center/

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市、大学と連携協定締結 医師を確保し、一歩前進

JA三重厚生連 三重北医療センター いなべ総合病院相田 直隆 院長(あいだ・なおたか)1987年名古屋市立大学医学部卒業。名古屋市立病院、大垣市民病院、三重北医療センターいなべ総合病院副院長兼院長補佐などを経て、2018年から現職。  2019年6月、いなべ市と名古屋市立大学、いなべ総合病院の経営母体であるJA三重厚生連の三者は、連携に関する協定を締結。市が大学に寄附講座を開設し、病院への医師派遣が進んだ。「これからが正念場です」と語る相田直隆院長の胸中とは。 ―隣町の菰野厚生病院と「三重北医療センター」の統一名称を掲げています。  二つの病院の経営母体は同じ「三重厚生連」。一体化することで、医療機能の分担・集約化や医療資源の有効活用を進めようと、2017年に新体制をスタートしました。 当院は220床、菰野厚生病院は230床。合わせて450床となりました。小規模病院は診療科を維持するだけでも大変です。総合病院として互いに内科と外科は欠かせませんが、それ以外の科はある程度集約し、双方で外来を応援しあう体制を整えつつあります。 例えば、眼科手術は実績のある菰野厚生病院に集約。逆に、泌尿器科は当院。耳鼻科や皮膚科も当院で、と考えています。菰野厚生病院は慢性期医療が充実しています。互いの強みを生かして補完できれば、集約化で医療の質が向上し、患者さんにとってのメリットも大きいでしょう。 ただ、両院を結ぶ交通手段がまだないのがネック。行政区が違うため定期バスが走っておらず、コミュニティーバスの整備が課題です。 ―名古屋市立大学との連携を強化しています。  背景には深刻な医師不足があります。11人いた内科医が年々減り、2018年には常勤医が2人だけに。診療に支障をきたす状況でした。さまざまな事例を調べてみると、同じ境遇の病院はいくつもありましたが、V字回復できたのは行政と大学、病院が連携した例が多いと分かりました。 2019年6月、いなべ市と名古屋市立大学、JA三重厚生連との間で三者協定を締結。これに伴い名古屋市立大学には、地域医療を研究する寄附講座「いなべ市地域医療連携推進学」が設置されています。この寄附講座では、地域包括ケアシステム実現に向けて求められる病院機能や地域医療ネットワークの構築について研究していきます。 当院には、名古屋市立大学病院「地域医療教育研究センター」の分室が置かれることになりました。センターに所属する教員は、当院に勤務しながら診療や研究、医師の教育などに当たることになっています。 いなべ市には市民病院がなく、当院が市民病院的な役割を担っていることから、いなべ市に全面的に協力していただく形で、今回の締結が実現したのです。 ―220床規模でのダビンチ導入は珍しいのでは。  三重県でのダビンチ導入・導入方針表明は当院で5例目ですが、他の施設は400床以上。当院のような規模での導入は維持費などを考えると無謀だと思われるでしょう。 しかし、若い医師を呼び込むには、高度な医療を行っていることが不可欠。先進的な取り組みをしていると発信することに意義があります。 先日行った市民講座とダビンチ内覧会の参加人数は過去最多の200人。メディアにも取り上げられ、関心の高さがうかがえました。今後も泌尿器科、消化器外科を強みにしたいですね。 目下、一番の願いは内科医の増員。満足にできていない救急医療を充実させるためにも必要です。また、複数の自動車関連工場があるいなべ市は、若い世代が増加しているエリア。若い世代が安心して子どもを産み、育てられる地域であるためには産婦人科、小児科は必須です。 〝崖っぷち〟は脱したものの、今も氷の上を歩いているような心境です。市唯一の総合病院として、周辺地域を合わせた医療圏8万人の安心を守ることができるよう、とにかく前へ前へと進むしかないと思っています。 JA三重厚生連 三重北医療センター いなべ総合病院三重県いなべ市北勢町阿下喜771☎0594―72―2000(代表)http://www.miekosei.or.jp/

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がんゲノム医療拠点病院 指定を励みに質を高める

独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター谷水 正人 院長(たにみず・まさひと)1982年岡山大学医学部卒業。岡山済生会総合病院内科、四国がんセンター統括診療部長、同副院長などを経て、2017年から現職。  四国唯一のがん専門病院である四国がんセンター。2019年9月、国内34の医療機関が指定された「がんゲノム医療拠点病院」の一つに選ばれた。センターに求められる新たな役割とは。 ―がんゲノム医療拠点病院の指定を受けられました。  がん医療の充実を目的として2018年、第3期がん対策推進基本計画が進められています。中でもがんゲノム医療の推進は課題の一つでしょう。 これを進めていく医療機関として全国に11の「がんゲノム医療中核拠点病院」と156の「がんゲノム医療連携病院」が指定されています。2019年9月には中核拠点病院を補完する役割を担うべく、新たに「がんゲノム医療拠点病院」として34の医療機関が指定を受けました。 四国では香川大学医学部附属病院と当センターの2施設です。「これからも頑張ってください」というエールを送られたように感じ大変うれしく受け止めています。同時に責任の重さも感じています。 今回指定を受けた背景には、当センターがゲノム医療に関わる臨床試験や治験などの新規治療薬の開発導入に、積極的に関わってきたことが挙げられると考えています。 また、がんの中には遺伝要因を持った体質が発症に影響しているものもあり、それを遺伝性(家族性)腫瘍と言います。がんの5%程度と考えられています。 当センターはこの遺伝性腫瘍について20年以上、調査研究を続けています。また、患者さんやその家族をサポートする、という活動も評価につながったものと考えています。 ゲノム医療を進めるに当たっては、新たな人材の育成や確保も課題です。「認定遺伝カウンセラー」という職種もその一つです。当センターにはカウンセラーが現在2人在籍。検診はどのような頻度で受けるのか、予防にはどのような方法があるのかなど、遺伝医療を必要とする患者さんや家族への情報提供、そして心理、社会的サポートなどを実施しています。 現在、国内には250人を超える認定遺伝カウンセラーがいます。当センターは、カウンセラーのがんに特化した研修を行っています。 現状、がんに対するゲノム医療は標準治療後に導入される体制になっています。しかし、将来的にはまずゲノム検査、治療という時代が来るということを見据えなければなりません。 ―がん医療で果たすべき役割が広がっていますね。  診療、研究、教育とともに情報発信という役割もあります。 がんのさまざまな情報を発信する「がんサポートサイトえひめ」は、愛媛県がん診療連携協議会や患者会、そして県内のがん診療連携拠点病院などと協力しながら制作を進めてきました。このサイトでは、がんについての解説、がん治療を実施する地域の病院の紹介を行っています。 2019年、当センターは「がん専門病院からのメッセージ〜がんと闘い、共に生きる人を支えたい〜」を刊行しました。人は、自身や家族が病気にならなければ、なかなか興味を持ちません。残念ながら、がんもそうでしょう。しかし、がんになった時、きめ細かな情報が手元にあれば安心ではないでしょうか。 当センターから医療の質について、わかりやすく伝えたいと考えたのも理由の一つ。がん医療の質とは―。そんな情報も盛り込みました。10人程度の広報委員会をつくり、約1年という長い時間をかけて制作。その結束力には驚かされました。オリジナルのキャラクターが登場する漫画を挿入するなど、読みやすさにも工夫しました。 がん患者さんの目線に立つ―。そのような思いを大切にしました。問い合わせも多く、手応えを感じています。 独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター松山市南梅本町甲160☎089―999―1111(代表)https://shikoku-cc.hosp.go.jp/hospital/

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CROSS TALK -地域と働き方改革- 多様化する「やりがい」 地域貢献にどうつなげる?

 医療者の働き方改革はこれからの地域医療のあり方と密接に結びついている。医療機関に求められる役割が広がる中、職員のやりがいをどう創出し、支えていくべきか。それを地域の信頼にどうつなげるか。カマチグループの原点である下関リハビリテーション病院のチャレンジを紹介する。 「やればできる」手応えがあった ─現状はいかがでしょうか。 林研二 院長(以下、林) 当院でのリハビリを終えて自宅に戻っていただく。高齢化が進む中、そんな従来の枠組みだけでは、地域での役割を十分に果たせないのではないかと考えています。退院した患者さんのうち6割ほどの方が外来リハビリ、通所リハビリなどで当院との関わりが続いています。より積極的に切れ目のないリハビリを展開し、下関に根ざした医療を提供したいと思っています。 例えば、がんの手術を受けたあとに廃用症候群などで体がうまく動かせなくなり、不自由な生活を強いられている。そうした回復期リハビリテーションの対象にならない方も多くいらっしゃるのです。活動の場を少しずつ広げて受け入れ体制を整えていきます。 ─地域貢献と職員の満足度との関連については。 林 職員たちに一定の仕事の充実感があって、自分が地域に貢献していると感じられること。それが信頼される病院につながるのだと思います。そして、頑張りすぎて疲弊しないための対策を講じることが欠かせません。石田憲司 副院長兼事務長(以下、石田) 力を入れている取り組みの一つは有給休暇の取得。言い出しにくい人、休みは必要ないという人。毎月の会議で未取得者をピックアップして、意識的に呼びかけています。 ─効果はいかがですか。 石田 対象の60人の職員のうち7割ほどが5日間を消化しました。昨年は取得ゼロだった職員が、今年は5日以上の有給休暇を取得しているケースもある。「やればできるんだ」という手応えがありますね。 また、育休制度を利用する男性職員は珍しくありませんし、グループの方針として「3人目の子ども」の手当が厚くなっているのも特色です。 異なる価値観を認め合える関係へ ─仕事のやりがいについて感じていることは。 波多野崇 医療技術部長兼リハビリテーション科課長(以下、波多野) 4年間ほど五反田リハビリテーション病院(東京都品川区)の立ち上げに関わり、今年7月、下関に戻ってきました。あらためて実感したのは、地域によってライフスタイルやニーズ、それらを踏まえたケアの優先順位などがまったく異なること。キャリアアップを目指す上で大きな経験だったと思います。石田 グループ病院を手伝う目的での行き来は活発ですね。みんな充実した時間を過ごしているようです。波多野 予定していた期間が過ぎても「もう少し勉強したい」と延長を希望する人もいます。持ち帰った経験を生かして、さらにレベルアップを目指す。いい循環があります。 リハビリテーション科のスタッフは130人強。ベテランと若いスタッフでは仕事に対する価値観も異なります。「世代が違うから仕方ない」と思わず、それぞれのやりがいを理解できるよう努めるのが大切かなと思います。林 考え方も多様化していますし、多くの選択肢がある。「やりたいことがある」という職員の思いを、できるだけ受け止めたいと考えています。 ─女性の視点としては。 中板留美 医療連携室係長(以下、中板) 医療連携室は、とても残業が多い部門だったのです。みんな「患者さんのために」と、つい一生懸命に仕事をしているうちに退社時間が遅くなってしまう。私が仕事をしながら子育てしていることもあって、誰もが長く働ける環境にするには、改善が必要だと感じていました。石田 役職者による会議「下リハをもう少し良くする会」でも、定期的に各部署の業務の状況を確認しています。何か困っていることがあれば、「ここを効率化できるんじゃないか」などと意見を出し合って、解決策を探ります。中板 部署内でもしっかりと話し合うことで、ずいぶん意識が変わってきたと思います。ピーク時と比較して残業は3分の1ほど減りました。ママやパパの子育てをはじめ、一人一人の職員を応援できる職場をつくりたいですね。林 若い人たちの目標となる女性の幹部を増やしていくことは、これからの大きなテーマの一つ。多様性のある職場を目指すためのポイントです。 挑戦の成果を広く発信したい ─多様性という点でいえば、男性の看護部長はあまりいないのでは。 半田弘文 看護部長(以下、半田) 看護師長は多いと思いますが、看護部長は珍しいかもしれませんね。グループ病院では私1人、山口県全域の医療機関で見ても数えるほどです。 女性が多い部門ということもあって、やはり家庭との両立のサポートが求められています。また、仕事においては女性の良さ、男性の良さを、うまく調和させていくことが大事。お互いに足りないものを補える関係が理想ですね。働きやすい職場であることがチームワークの基本。信頼される病院の前提となるものではないでしょうか。 ─最後に、今後に向けて。 石田 今年の病院機能評価の認定に続いて、2020年はISO9001の取得を計画。職員の質、医療の質を着実に高めていきます。波多野 下関に暮らす人々のニーズ、地域のことをもっと知りたいですね。自分の興味の幅を広げることが、地域包括ケアにもつながっていくはずですから。中板 私たち医療連携室としても、急性期病院との連携だけでなく、地域全体をどう支えるかに視点を移していく時期だと思っています。開業医の先生、ケアマネジャーさんからの相談も増えていますので、一つ一つ丁寧に対応していきたいと考えています。半田 リハビリテーションで向上した機能を、いかに自宅での療養に生かしていただくか。患者さん自身で健康を管理できるよう、どう指導していくか。今後の看護の重要な役割だと思います。林 当院は新しいことに挑戦する姿勢を大切にしています。職員全員が「下リハ丸」に乗り込んで、下関からグループ全体、そして医療界に向けて、さまざまなチャレンジの成果を発信していきたいですね。 一般社団法人 巨樹の会 下関リハビリテーション病院山口県下関市今浦町9─6☎083─232─5811(代表)https://www.shimoreha.jp/

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重点7項目を掲げ診療報酬への意識を改革

彦根市立病院金子 隆昭 病院長(かねこ・たかあき)1985年京都大学医学部卒業。同神経外科、小倉記念病院、兵庫県立塚口病院(現:兵庫県立尼崎総合医療センター)などを経て、1996年彦根市立病院入職、2012年から現職。2016年から彦根市病院事業管理者兼任。  地方公営企業法の全部適用となったのは2016年。基盤である診療報酬の加算に対するアプローチにおいて明確な目標を掲げたことが功を奏し、経営改善は加速しつつある。地域連携センターを軸に、地域完結型医療も目指す。 ―2018年、地域医療支援病院に。また地域包括ケア病棟開設から1年。  とにかく力を入れているのが地域連携。地域医療連携室、入退院支援室、患者家族支援室、在宅医療支援室、それに訪問看護ステーションの5部門をまとめた地域連携センターを中心に、病病連携・病診連携を強力に推し進めています。  毎週火曜日には周辺病院の担当者とカンファレンスを実施。急性期を終える患者さん一人ひとりについて、どこで受け入れるか協議します。診療所の先生方との連絡も密に取る。これで患者さんの流れがスムーズとなり、在院日数は2日ほど短縮されて約11日になりました。  それでも当院の入院患者の割合は回復期や慢性期が半数を占めていた。そこで2018年10月、41床の地域包括ケア病棟を開設しました。注意したのは、まずは周辺病院への転院を最優先にすること。そして地域包括ケア病棟では3週間を目安になるべく早く在宅、施設に戻れるようケアすること。これで急性期入院の割合は向上しました。  地域包括ケア病棟は、ほぼ満床が続いています。内訳はポストアキュートが8割超。3~4割をサブアキュートにするのが目標です。周辺病院との協力で実現したいと思います。 ―経営改善の切り札は。  まずは診療報酬にかかっています。以前はそのあたりの認識が甘く、加算漏れが多々ありました。  そこで、今年4月に重点7項目を設定。①救急医療管理②入退院支援③疾患別リハビリテーション④特別食⑤退院時情報添付⑥薬剤管理指導⑦特定薬剤管理指導です。  それぞれにチームを作り、リーダーを任命。勉強会で認識を深めています。結果、医師だけでなく他の専門職にも考えが浸透し、指導件数はかなり増加。退院時リハ指導などベンチマークが低かった項目も改善してきています。  加算が付くはずなのに取れていないということは、標準的な医療ができていない、という見方もできる。しっかり医療を行い、その対価を得る。ドクターがそんな経営意識を持つことは重要です。7項目が定着すれば、来年度に新たな項目を追加して広げる予定です。  加えて、これまで以上のコスト削減にも注力します。見直しは今月から。連携法人との共同購入も考えたいですね。 ―新たなトピックスや、目指したい方向性など。  専門医が育ちましたので腫瘍内科を設けました。2020年4月から対外的に標榜し、固形がんに対する薬物療法を積極的に行う予定です。  5人のスタッフを擁し、充実しているのが歯科口腔外科。不採算部門と考えられがちですが、診療報酬を見ると周術期だけでなく口腔ケアも良くなってきている。ケアで肺炎や脳卒中が減るとも言われており、摂食、嚥下(えんげ)も含めて医科・歯科連携を強めていきたいですね。歯科医院のみならず、当院の在宅部門も関与して進めたい。  あとは総合診療医ですね。当院は病院総合医のプログラムが認められており、ドクターの育成と確保も重点課題の一つ。臓器別、専門分野思考がまだ主流を占める中、総合診療に興味を持つ先生を積極的にバックアップしたい。  ここは湖東医療圏唯一の公立病院ですし、不採算部門でも持続させる責務がある。公立・公的病院が今後の方針について再検証を迫られるなど、厳しい時代を迎えています。「全員参加の経営」で乗り越えていきたいと考えています。 彦根市立病院滋賀県彦根市八坂町1882☎0749─22─6050(代表)http://www.municipal-hp.hikone.shiga.jp/

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地域を見据えた連携の軸は患者さんへの思いやりの心

地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院島貫 隆夫 病院長(しまぬき・たかお)1980年山形大学医学部卒業。米南カリフォルニア大学医学部留学、山形大学医学部第2外科助教授、山形県・酒田市病院機構日本海総合病院副院長などを経て、2016年から現職。  2008年、旧山形県立日本海病院と旧酒田市立酒田病院が再編・統合され、地方独立行政法人として再スタートを切った。再編・統合によって黒字化を果たし、医療設備への投資も積極的に実施する。再編・統合の準備段階から関わってきた島貫隆夫病院長の思いとは。 ―統合までの概要は。  山形県には四つの2次医療圏があり、当院は人口約28万人の庄内医療圏にあります。統合した旧酒田市立酒田病院は1947年に設立。一方、旧山形県立日本海病院は1993年に開設。場所は市立酒田病院からわずか2㌔㍍ほど。両院共に急性期病院として競合しつつも、地域医療に貢献してきました。  ところが、酒田病院が建物の老朽化や医師不足などが原因で患者数が減少。建て替え問題も浮上し、最終的には「競合よりも統合」という方針となりました。  2病院で合計928床の病床数を約2割減の760床にし、病院の機能分化を明確化。日本海総合病院には急性期医療の機能を集約。酒田病院跡地で開院した日本海総合病院酒田医療センター(現:日本海酒田リハビリテーション病院)は、回復期から慢性期を担っています。 ―統合までの概要は。  山形県には四つの2次医療圏があり、当院は人口約28万人の庄内医療圏にあります。統合した旧酒田市立酒田病院は1947年に設立。一方、旧山形県立日本海病院は1993年に開設。場所は市立酒田病院からわずか2㌔㍍ほど。両院共に急性期病院として競合しつつも、地域医療に貢献してきました。  ところが、酒田病院が建物の老朽化や医師不足などが原因で患者数が減少。建て替え問題も浮上し、最終的には「競合よりも統合」という方針となりました。  2病院で合計928床の病床数を約2割減の760床にし、病院の機能分化を明確化。日本海総合病院には急性期医療の機能を集約。酒田病院跡地で開院した日本海総合病院酒田医療センター(現:日本海酒田リハビリテーション病院)は、回復期から慢性期を担っています。 ―二つの病院を融合させるための具体策など。  統合への移行準備は3年ほどかけて進めました。同じ公立病院と言ってもその文化は違います。点滴一つとってみても考え方もやり方も違う。医療安全の観点からも問題でした。  そこで業務改善委員会を立ち上げ、業務一つひとつをリスト化し、共有しました。私が委員長を務め、その最初の大仕事として、ほぼ毎週ディスカッションを実施。1年間で500項目程度を洗い出しました。  業務の手順が大きく異なっていたのが看護部でしょうか。作業の確認法などを丁寧に共有化し、かつ現場での徹底に努めました。  カルテの問題もありました。一方は紙カルテで一方は電子カルテ。医師を中心に、統合に向けて紙の情報を短期間のうちに電子カルテに入力していきました。  経営面では地域の開業医の先生方との病診連携を再度構築。紹介いただいた患者さんは、かかりつけ医に情報を伝えて戻すという、一連の流れを丁寧に進めるようにしました。こうして統合前に比べ手術件数だけでみても年間約1000件増加がみられたのです。  地域の課題はそれぞれ違いますので、当院の方法がどこでも通用するとは思いません。しかし、人口減少社会を見据えると、自分だけが生き残るという考えを捨て、一歩踏み込んで機能分化と連携を考えることが地域の医療福祉の質の向上につながると思います。  病院の運営の基本は、患者さんへの思いやりの心であると、私は考えます。その基本がぶれてはいけません。 ―地域や他業種との連携が進んでいます。  地域医療連携推進法人「日本海ヘルスケアネット」には、庄内地域の3病院の他に地区医師会、歯科医師会、薬剤師会が参加し、2018年4月から活動開始。診療機能の集約化、機能分担などを進め、地域包括ケアシステムの構築を目指します。  ICTを活用し、患者情報を共有する医療情報ネットワーク協議会「ちょうかいネット」には4万人を超える患者さんが登録しています。当ネットには福祉施設が参加しており、職種によってアクセスできる情報に違いはなく、職種別にアクセス日数を分析したところ、ケアマネジャーが平均16日。患者さんの状態を見ながらケアプランを作っているようです。薬局のデータも見られますので、これを活用すれば多剤併用を防ぎ、医療費削減にもつながると考えています。  秋田県とはICTによる広域連携を検討。県を越えた連携は全国でも例がなく新たな医療連携が期待できるのではないでしょうか。 地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院山形県酒田市あきほ町30☎0234―26―2001(代表)http://www.nihonkai-hos.jp/hospital/

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病院・地域で協働し信頼と共感の医療を追求

医療法人秀和会 秀和総合病院 五関 謹秀 院長(ごせき・なりひで)1973年東京医科歯科大学医学部卒業。同附属病院第一外科入局。東京都立駒込病院、東京医科歯科大学医学部附属病院などを経て、2004年から現職。東京医科歯科大学臨床教授兼任。  地域医療と救急医療を両翼にする秀和総合病院。高度な先進医療の提供、搬送困難な患者の受け入れ、地域医療連携室の設置などを通し「信頼できる安心医療」を推進している。外科医として第一線に立ち続ける五関謹秀院長は、広い視野で医療界の未来を見据えている。 ―近年の医療課題は。  超高齢社会を迎え、春日部市でも高齢者が増えています。患者さんに説明を十分に理解してもらえない、高齢夫婦世帯で患者さんが家族のサポートを受けられない…など、医療を提供する手前で困難が生じるケースによく出合います。  また、当院では搬送先が決まらない患者を受け入れていますが、生活保護を必要とする高齢者の場合には行政との連携が必要になるなど、高齢化から広がる問題への対応の難しさを痛感しています。  一方で、在院日数を短縮し、在宅や施設へという流れが起きています。「受け入れ側の準備は十分か」と問えば、整っているとは言えません。他業界からの参入も増えており、発展途上の施設は少なくありません  例えば、誤嚥(ごえん)性肺炎で入院していた患者さんを家に帰しても、同じような生活をすれば、再入院になってしまいます。当院では、対応できる施設に患者さんを移せなければ前進はないと考え、NSTカンファレンスに意欲ある施設のスタッフを呼び、一緒に勉強をしています。食べることの重要性、効果的・効率的な医療の提供の正しい理解を広めたい思いもあります。待っていても状況は改善しません。自分たちでできることは積極的に取り組みます。 ―埼玉県は全国でも医師・看護師不足が深刻です。  東京医科歯科大学と連携しており、200数床で50人超の常勤医師がいます。医師不足が慢性化する中、これだけ充足できているのはわれわれの強みです。  今、求められているのは、日本もグローバリゼーションが進み、日本に根付いた価値観を持つ人、欧米の個人主義を受け入れる人が混在する中で、医師と患者の関係性にも変化が生まれていると感じています。  昔は「共感の医療」つまり、病気治療に立ち向かう医師の情熱に感動し、病魔克服に立ち向かう患者さんの闘魂に感動する医療があり、医師と患者が信頼し合って結果を出しました。しかし今は、信頼関係が揺らいでいます。若い医師は防衛に走らざるを得なくなっているのです。  信頼される医師を育てるため、教育の重要性が増していると考えます。大学では専門性の細分化が進んでいるため、一般的な開腹手術ができる医師が減っている現実があります。これではいざというとき対応できません。医師は専門性を追求すると同時にすべてのことを身に付けるべきです。当院でははじめの5年間はあらゆる経験をさせます。  また、私は外科医であるため、術中に自分に何かあっても患者を守れるように、自分に代わる医師を育てなければいけません。そこで長年、積極的に執刀の位置に若手を立たせ、私は前立ちの位置で手術をしています。みんな懸命に患者に対峙しているので上達が早く、結果、あらゆる手術に対応できるようになっています。 ―さらなる取り組みは。  大学病院からこの病院に移ったのは、「患者にトータルで寄り添いたい」という思いからです。  分担や効率性も大切ですが、全体を把握することを忘れがちです。トータルで見てはじめて、患者のために病院が本当にすべきことが見えてきます。  施設か在宅か、という流れであっても、最後まで患者を診るのは病院の役割です。退院後のケアやサービスをシステム化し、まず春日部エリアで定着させたい。そして、いずれは海外などで活用できるシステムとして紹介できればと願っています。 医療法人秀和会 秀和総合病院埼玉県春日部市谷原新田1200☎048―737―2121(代表)http://www.shuuwa-gh.or.jp/

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重粒子線がん治療の有用性を発信していく

佐賀国際重粒子線がん治療財団 中川原 章 理事長(なかがわら・あきら)1972年九州大学医学部卒業。米ロックフェラー大学留学、千葉県がんセンター長、佐賀県医療センター好生館理事長などを経て2015年から現職。2018年から九州国際重粒子線がん治療センター長兼任。医学博士。  佐賀国際重粒子線がん治療財団が運営するサガハイマット(九州国際重粒子線がん治療センター)では、2018年度の公的医療保険の適用拡大により患者数が1・5倍に増えた。一方で、一人当たりの治療費収入は減少している。この「想定外」に対し新たな中期事業計画を策定、3年後の経営収支の黒字転換を目指している。 —サガハイマットの強みとは。  まずは地の利が第一といえます。高速道路、鉄道網ともクロスロードは鳥栖市。九州新幹線の新鳥栖駅から徒歩3分と交通の利便性の 良さは強みといえます。  二つ目は、九州全域の大学病院や基幹病院、各県医師会と深い信頼に基づいた医療連携協定を結んでいること。九州大学、佐賀大学、久留米大学、福岡大学の各大学に重粒子線相談窓口が設けられています。  三つ目は優秀な人材がそろっていること。医師は各大学から選抜いただき、診療放射線技師や医学物理士、看護師も経験豊富な職員を配置しています。  施設名に「国際」を掲げているのは、先進医療の国際化も目標としているからです。実際には、相談などを受けても手遅れの例が多くあり、海外からの患者受け入れには、難題も多いと感じています。そこで海外の大学や医療機関と医療協定を締結。2019年9月現在の主な協定先に、チョーライ病院(ベトナム)、チュラロンコン大学医学部(タイ)、大連医科大学附属大連市中心病院(中国)、台北栄民総医院(台湾)があります。 —治療対象の疾患と患者数の推移を教えてください。   重粒子線がん治療の対象は固形のがんです。前立腺、肺、すい臓、肝臓などの治療を行っています。  サガハイマットが治療のモデルとしている量子科学技術研究開発機構のQST病院は、すでに約20種類のがんを対象にしています。サガハイマットでも増やしていきたいと考えています。  2013年開設以来の治療患者数は3994人(8月末現在)。2018年度は958人と前期比1・5倍、過去最多を記録。公的医療保険の適用範囲が前立腺がんと頭頸部がん(一部)に拡大されたのが大きな要因です。  公的医療保険の適用は、「国が公認した信頼できる治療」を意味します。これは患者さんと運営側双方に追い風となりました。ただ、患者数が激増した半面、患者の約6割を占めていた前立腺がんが公的保険適用となり、診療報酬が先進医療費の約5割となったことから一人当たりの治療費が大幅な減少となりました。これは想定外の逆風でした。  国内初の民間施設ですから、収支としては直接的に影響を受けてしまいます。引き続き、安全・安心な医療を提供していくため、「全治療が保険適用になったらどうなるか」を15年先までシミュレーションを行い、今後4年間の中期事業計画を策定しました。このような状況下ではありますが、昨年度の最終収支は黒字を確保。現在も計画をやや上回って推移しており、まずは3年後の経営収支の黒字転換を目指しています。 —今後の展望を。  国の放射線治療促進政策もあり、重粒子線治療装置よりも初期投資が少ない陽子線治療装置や高精度放射線治療装置を導入する施設が増えつつあります。  現在の診療報酬点数は、重粒子線治療、高精度放射線治療、陽子線治療とも同一。ただ、差別化されなかった要因は、まだまだ重粒子線治療のデータが少なく、有用性や評価が十分できなかったからと考えています。  2017年から全国六つの重粒子線治療施設が臨床試験プロトコル(実施計画)に則った共同試験を開始。重粒子線治療の有用性に対する世界の関心も高くなっています。日本で開発、発展した重粒子線治療が世界に広がり、誰もが高度ながん治療を受けられるようになることを期待しています。 佐賀国際重粒子線がん治療財団 九州国際重粒子線がん治療センター佐賀県鳥栖市原古賀町3049☎0942—50—8812(地域連携室)https://www.saga-himat.jp/

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