包括的リハビリと健康啓発を推進
1975年和歌山県立医科大学医学部卒業。同大学教授、附属病院紀北分院長を経て、2016年から現職。和歌山県立医科大学名誉教授。
有田幹雄院長は、循環器内科医として30年以上、高血圧の合併症予防を中心に診療を行っている。角谷リハビリテーション病院の院長に就任して3年目。着任直後から心臓リハビリテーションを導入し、病気予防、復帰支援に注力。健康啓発にも精力的だ。
―心臓リハビリテーション(以下心リハ)について。
超高齢社会を迎えた日本では近い将来、「心不全パンデミック」が起こるとされています。がん患者は減り、心不全が増加する。特に緩和ケア領域では、心不全から呼吸困難に至り、最期を迎える患者さんが増えるでしょう。
心不全の下地となるのは、生活習慣病です。その主な原因は、喫煙、偏った食事、運動不足。この三要素を制圧しなければ改善しません。私の専門は高血圧ですが、薬で対処するだけでなく、生活習慣の見直しが必須。食事療法や運動指導、節酒、禁煙と包括的に診ています。血圧をきちんとコントロールできれば、脳や心臓疾患のリスクはぐんと減ります。
それを実践する当院のような心リハを備えた施設が、今後はさらに重要になると考えています。
当院の心リハでは、患者さん一人一人に対し、医師、看護師、理学療法士、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど多職種がチームを組んで治療計画を作成。心臓が弱った患者さんの運動能力の向上と、退院後は社会参加し、支障なく日常生活を送れるようにすることを目的としています。関連病院だけでなく、地域の急性期病院やかかりつけ医からの紹介も広く受け入れています。最近は、心疾患だけでなく、内臓疾患の患者さんもリハビリの需要が増えていますね。
―病気にならないと、なかなか生活習慣を変えられない人が多いですね。
「自分は平気だ」とみんな思っていますよね。病気は心掛け次第で防げる確率が上がるので、何とか意識改革できないかと活動しています。病気予防の啓発は、産・官・学・民を挙げて取り組まなければいけない課題です。
和歌山県は、日本で最も高血圧患者数が多いとされています。原因は遺伝が2割、あとの8割は生活習慣です。厚労省の調査によると、和歌山県民は運動に費やす時間や1日の歩数が全国で2番目に少ない。そして、軽自動車の普及率は日本でもトップクラスです。歩かない、運動しない現状が推測できます。さらに、和歌山県はみそやしょう油の発祥の地でもある。そのような食文化も、県民の健康に関係しているのではないでしょうか。
経産省が推進している「健康経営」というものがあります。従業員の健康を経営的な視点から考え、実践している企業を表彰するという取り組みです。近々、県の商工会議所で、各企業の社長を対象とした健康経営に関する講演会を行う予定です。そこで、できれば社長のみなさんに健康経営宣言をしていただきたいと思っています。
他に、各市町村長や和歌山医大の学長にもお願いしようと考えています。また、小さな頃から意識を高めてもらうため、小中高校でも講義を行っています。そのような地道な活動を、これからも続けたいですね。
―今後の展望は。
病気になる前に通うことができる施設をつくり、たくさんの人に活用してもらいたいですね。
当院にお見えになる患者さんに対して、「人生満足度調査」をしていますが、35点満点中平均27 点と、かなり満足しているという結果が出ています。ほとんどの人が、顔つきがとても良い。包括的なリハビリを受けることで、QOLが向上しているのです。退院後の自宅復帰率は80%、在宅復帰率は94%に上ります。
毎日を楽しく過ごすことは心をときめかせ、健康につながります。これからの病院には、未病に取り組むことができる環境づくりも求められているのではないでしょうか。
社会医療法人スミヤ 角谷リハビリテーション病院
和歌山市納定10-1
TEL:073-475-1230(代表)
http://www.sumiya.or.jp/reha/visiting/