早期発見で「乳がん死」をなくしたい
これまでに手がけた乳がん手術は1000例を超えるという古賀稔啓・広瀬病院院長。現在も外科的治療を基本に乳がんの総合的治療を進めている。乳がん患者の会「患者様のつどい」の会長も務める古賀院長に話を聞いた。
―福岡市の乳がん検診の部長をされていますが、最近の受診状況はいかがですか。
日本乳癌検診学会では、40歳以上の女性に対して2年に1回の検診を勧めていて、現在は国から無料クーポンが配布されています。配布前に比べると、全国的に受診率が約1.2倍に増えていますが、昨年、タレントの北斗晶さんのニュースが報道されてから、当院では3倍以上に増えました。
彼女の年齢が48歳と、もっとも乳がんの多い年代だったこと、1年前に検診していたのに、発見できなかったがんであったことなどが、一般の方にとってショックが大きかったのだと思います。
乳がんの約6〜7割は「ホルモン依存性乳がん」と呼ばれるもので、そのタイプの乳がんであれば、進行は遅く、ホルモン療法が効果的です。しかし、残りの3〜4割に特殊ながんが含まれていて、進行がとても速いといわれています。
同じ大きさのがんでも、体調、ストレスなどの要因で、短期間で一気に2〜3倍に大きくなるものが時々あるのです。
乳がんを予防することは難しいため、早期発見が大事です。がんの疑いがある場合、昔は穿刺吸引細胞診といって、細い針で細胞を採取していましたが、効果に限界がありました。今は針生検といって、細胞診より少し太い針で組織を取るので、3mmを超えるがんは発見できるようになりました。
早期発見は、「乳がん死」の減少に繋がります。40〜60代の方は特に入念に検診を受けてほしいですね。
これは個人的な見解ですが、20〜30代の方も、ぜひ一度はマンモグラフィーとエコー検査を受けてほしいですね。検査結果を残しておくことが大切だと思います。1枚のレントゲン写真だけで乳がんの診断を下すことは非常に難しいので、以前の状態と比較しながら経過を診ていくことが非常に重要なのです。
乳がんは、痛みを感じない塊です。早期発見のためにも、月に一度、自己触診をしていただきたいですね。閉経前の方は生理の後、4〜5日の間に。閉経後の方は、覚えやすい日を決めて定期的に。ほとんどの患者さんは自分で気付いて受診されます。米粒大ほどの大きさで見つかって、調べてみると2〜3mmのがんだったこともあります。
最近では、2cm以下の早期乳がん(ステージ1)が増えています。リンパ節転移の確率はだいぶ低く、このレベルで気付いてもらうと、乳がん死は少なくなると思います。
一部には「検診なんて意味がない」という考えもあるようです。しかし、乳がんになりやすい年代の女性は母親である場合が多く、がんが進行した状況で見つかってしまったら、本人だけなく、家族にとっても大きなダメージです。検診対象者だけでなく、これからは、子どもたちを対象に、「がんは怖い病気だけど、早く見つけて治療すれば治るんだよ」と、検診の重要性を教えていくことも必要だと考えています。
―しこりが小さければ温存手術は可能ですか。
患者さんにもよく聞かれる質問ですが、一概にそうとは言えません。乳がんは、乳首を中心に枝分かれしている乳管の中に発生します。時間が経つと管が破れて転移したり、乳管の中で広がって、乳房全体に広がるタイプのがんもあります。そうなると、がん細胞を取り残してしまう可能性が高まるので温存手術はできません。
そうした乳房内のがん細胞の様子を具体的に画像にできるのがMRI検査です。当院では、この検査によって乳がんの範囲を特定しています。
実際には、がんの腫瘍部分から数センチ離して手術できるタイプの方が多いのです。詳細にがんの広がりを検討し、がんが残らないような手術が必要です。乳房が残せない方には、保険でできるようになった乳房再建を勧めています。
―切除手術から乳房再建までの期間は。
乳房再建手術には一次再建と、乳房の手術後、一定の期間をおいて実施する二次再建があります。一次再建とは、乳房切除と同時に人工のシリコンバッグを入れるやり方です。患者さんの気持ち次第で、どちらか納得される方を選んでいただいています。「おっぱいを無くす」ことに対するショックが強い方は、一次再建を選ばれます。
今のところ、「がんになった」ことに対するショックの方が大きいため、ある程度治療がうまくいってから再建したいと考える患者さんが多いようですね。
また、乳がんの再発率は約30%。そのうち、70%が3年以内、90%が5年以内に再発しています。それ以降の再発率は横ばいです。
胃がんなどの場合、5年経てば再発率は0%に近くなりますが、乳がんの場合は5年経っても油断できません。
乳がんの場合、もう片方の乳房もがんになる可能性が高く、術後のフォローアップも重要になります。年に一回、対側乳房の検診と一緒に、必ずマンモグラフィーとエコー検査を徹底することが大事です。
―乳がん患者の会「患者様のつどい」の会長ですね。
この患者会は当院で運営しています。毎年10月には「患者様のつどい」を開いていて、120〜130人の方が集まります。今年は、認定遺伝カウンセラーの資格を持つ、久保真・九州大学医学部乳腺外科助教を招いて、「遺伝子検査」に関する勉強会を予定しています。
患者会を通じて、患者さん同士の交流も深まっているようで、イベント終了後には一緒に食事に行かれる方たちもいらっしゃいます。これからも続けていきたいですね。