短期・長期の夢を描いて
医学部の役割と産業医科大学の使命
―4月に就任。目標は。
一つ目は、医学部の呼吸器内科学教室として、一般内科のしっかりとした基盤の上に呼吸器内科の診療・研究・教育の機能を充実させていくこと。もう一つは、産業医の育成と産業医学の発展という使命を持った「目的医科大学」の呼吸器内科学教室として、社会的問題を大きくはらむ職業性肺・胸膜疾患を抱える患者さんへのより良い対応を研究し、発展させることです。
―教育面で具体的には。
来年から新専門医制度が始まることになっています。産業医大病院では、各領域の内科の教授が一致団結して、良質な内科専門医育成を実現するために、研修プログラムを作成しました。さらに内科専門医を取得後には、呼吸器学会専門医などの関連の各学会の専門医をスムーズに取得するシステムを維持・発展させることを考えています。
近隣の非専門医・開業医の相談に応じる「呼吸器病センター」
―診療面の特徴は。
大学病院の診療範囲は北九州市とその近郊ですが、北九州市を中心として東は山口県下関市から西は福岡県の直鞍・遠賀・中間地域などまで、車で1時間ほどのエリアを主に担当しています。
呼吸器・胸部外科とのタイアップもあり、呼吸器疾患に関しては、この地域で最も充実した診療ができます。その強みを生かすため、昨年10月に「呼吸器病センター」を病院に設立していただき、部長に就きました。
発端は、日ごろから院内の連携を密に取っていただいている呼吸器・胸部外科の田中文啓教授と相談して「呼吸器が専門ではない勤務医や開業医の先生が、呼吸器疾患についてより相談しやすい、分かりやすい窓口をバーチャルで作ってみよう」という話になったこと。その旨を佐多竹良病院長に提案し、作っていただきました。
ですから、どこかにセンターの建物や部屋ができたわけではありません。医師直通の電話を一つ作り、医療機関からの電話に呼吸器内科医か呼吸器外科医が直接対応することにして、それを近隣の先生方にお伝えしました。
―メリットは。
医師同士が直接話をすることで、クリニックなどの患者さんについてより適切な回答ができます。大学病院側としても、聞きたいことを聞けるので、事前の情報が増えて良い。初めての試みでもあり、情報収集も兼ねて最初は主に私が電話を持つことにしました。やはり手紙よりも電話のほうが、こちらの聞きたいことを聞きやすいし、手紙には書けない行間の情報も得やすいことが良い点だと感じます。
開業医の先生方の診療時間帯に対応できるようにしており、相談件数は徐々に増えています。
このような取り組みを大学病院がするのは珍しいと思いますが、産業医大病院における呼吸器外科と呼吸器内科との理想的なタイアップを外部に伝える良いチャンスにもなると考えています。
培養によらない感染症の原因菌検査
―研究について聞かせてください。
この教室の特徴的な研究の一つが、微生物学と共同で行っている呼吸器感染症に対する「16Sribosomal RNA遺伝子の配列をもとにした培養によらない原因菌検査」です。
市中肺炎の原因菌は、呼吸器専門医が診断したとしても半数ぐらいは不明です。通常は培養で原因菌を調べるため、培養しにくい菌が原因として特定されていないことも推測されます。
われわれのこの検査では病巣から検体を採取するため気管支鏡が必要ですが、ほぼ100%の症例で原因菌が分かります。
さらに、どのような菌が、どのぐらいの割合で肺の病巣中に存在するのかも分かりますし、抗菌薬を使った後の状態など培養で菌が生えにくい状況でも、菌のDNAさえあれば結果が分かります。
この方法は一般臨床における実用化までは少し遠いのですが、実際の臨床の場で、この方法でしか原因菌が判明せず、救命し得た症例も複数例経験しています。
また、まったく新しい未知菌種の候補が見つかるなどの非常に興味深い知見も見つかっています。
その他、じん肺についても気管支肺胞洗浄液などを用いた石綿肺や粉じんと間質性肺炎の関連性などの臨床・基礎研究をずっと継続していますし、薬理学と共同で一酸化窒素合成酵素欠損マウスを用いて間質性肺炎、感染症、喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などのモデルを作り、各病態における一酸化窒素の役割の解明などの研究も行っています。
本学の臨床や基礎教室、他の医学部や九州工業大学(北九州市)、九州歯科大学(同)などと連携した、さまざまな研究も現在進行中であり、今後はさらに広げていきたいと思います。
入りたくなる医局メリットがある医局に
―目指す医局像を。
私は、新医師臨床研修制度が導入される以前の医局と、導入後の現在の医局、両方の制度をよく知っている世代です。それぞれの長所と短所もいろいろと感じてきました。
これからの医局は、所属したほうが本人にとってメリットがある、所属したくなる医局でないと人は集まらないと思います。例えば、今は医学部生の30%ほどが女性です。女性が安心して働ける環境についても、産前・産後・育休中などでもキャリアパスを両立させるモデル作りもしていきたいと思っています。
また、各年代の医師、特に若い世代によく言うのは、「まずは短期的・長期的に、自分のなりたい状態(目標・夢)を具体的に描いてみよう」ということです。3、5、10、20年後にどうなりたいのか、何がしたいのかを具体的に一度考えてみると、何をいつまでにしなければならないのかが分かる。その上で専門医など取得すべきものを計画的に取得したり、その都度興味のあるものに打ち込むことで各分野の実力をつけていき、それを発揮してもらえば、将来の夢を語れる楽しい職場環境になると思います。
また、人と人との繋がりを大事にしていくことも、長期的な視点でとらえると意味が理解しやすいのではないでしょうか。
先輩・後輩やその知り合い、他職種の人などとも、その都度、目標や情報を具体的に共有して、目の前の問題を一つ一つ解決していくことで、今より将来のほうが必ず良くなっていく。さらに、その積み重ねが良い医師や良い医局を作っていくと思っています。
産業医科大学病院
北九州市八幡西区医生ケ丘1番1号
☎093・603・1611(代表)
http://www.uoeh-u.ac.jp