「あるべき医療の姿」に向けて改革を

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日本医師会会長 横倉義武

 1963 福岡県立修猷館高等学校卒業 1969 久留米大学医学部を卒業し、同第2外科に入局 1977 西ドイツ・ミュンスター大学教育病院デトモルト病院外科に留学 1980~1983 久留米大学医学部講師 1990 医療法人弘恵会ヨコクラ病院・院長 1990~1998 福岡県医師会理事 1992~2004 大牟田医師会理事 1997~医療法人弘恵会ヨコクラ病院・院長、医療法人弘恵会理事長 1998 福岡県医師会専務理事 1999~2002 中央社会保険医療協議会委員 2002 福岡県医師会副会長2006 福岡県医師会会長 2010 日本医師会副会長 社会保障審議会医療部会委員2012 第19 代日本医師会会長に就任、現在に至る。

 4月16日、東京都文京区本駒込にある公益社団法人日本医師会に、横倉義武会長を訪ねた。本紙600号に「国民にとって本当に必要な医療のあり方」を中心にインタビューするためである。多忙な時間を割いてにこやかに語っていただき、「東京から見た九州」についても触れてもらった。写真撮影は日本自閉症スペクトラム学会所属の相馬智代カウンセラーが担当した。

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日本医師会会長 横倉義武

■2025年問題とかかりつけ医

 国民の幸福の原点は健康です。経済活動も健康だからこそ行なえるのです。病に苦しむ人がいればどうにかして助けたいと思うのが私たち医療人であり、その願いは「必要とする医療が過不足なく受けられる社会づくり」であると考えています。

 日本医師会は一昨年来、「地域医療の再興」を掲げてきました。その第一の目標は、「かかりつけ医を中心とした、切れ目のない医療・介護を提供する体制を整備・推進していくこと」です。

 2025年には日本の経済成長を牽引してきた団塊の世代のすべての方が後期高齢者になり、わが国は高齢化のピークを迎えます。それまでに全国隅々まで、かかりつけ医を中心として、医療と介護が連携した地域医療提供態勢を確立しなければなりませんね。

 国の動きを見ると昨年12月、国民との約束である「社会保障と税の一体改革」の実行に向け、社会保障制度改革国民会議の報告を受けて、いわゆるプログラム法である、「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律」が成立しました。さらに今年の4月から消費税が8%に引き上げられたと同時に、平成26年度診療報酬改定が実施されています。「社会保障と税の一体改革」によって財源論にも一応の目処がつき、まさに医療提供体制の改革がスタートしたところです。

 超高齢社会を迎えるわが国においては、「社会から支えられる側」だった高齢者が「社会を支える側」になれるよう、健康寿命を延ばしていかなければなりません。その時に、要になるのがかかりつけ医です。その意味からも医療における改革とイノベーションを積極的に提案していくことが日本医師会に求められていることだと考えています。

■規制改革の動きをどう見るか

 一方、規制改革会議、産業競争力会議といった、官邸や内閣府に設置された会議から、医療の規制改革について意見が差し挟まれてきています。私どもは、時代にそぐわなくなった規制の改革は賛成です。しかし、医療本体に係る規制は別です。

 社会保障の大きな柱である医療は、価格に基づく競争をすべきではありません。市場原理主義の自由競争に委ねてはならず、医療における競争は、医学の研鑽と医術の研修において行なわれるべきであり、よりよい医療の提供のために医師として切磋琢磨すべきです。

 国民の命と健康を守るために必要な規制はきちんと分け、極めて慎重に考えていただき、市場原理を優先した動きは封じ込めていく必要があります。「規制緩和」については、安全で平等な医療提供体制が守られるかどうか、国民の望んでいない方向に引っ張られることのないよう、しっかり注視しなければなりません。

 日本医師会は、政策の判断基準として、「国民の安全な医療に資する政策か」、「公的医療保険による国民皆保険は堅持できる政策か」の2つに重点を置いています。

 「国民皆保険」は、わが国の歴史と国民の固有の価値観に基づいて、先人の工夫と努力の積み重ねで築き上げられてきたものです。日本医師会は国民の命と健康を守るために、世界的に見ても、また費用対効果の面でも、国民の満足度からも、「国民皆保険」という優れた貴重な財産を、地域医療提供体制を維持する基本的な仕組みとしてしっかり守り、次の世代に受け継いでいく決意です。

■平成26年度診療報酬改定について

 平成26年度の診療報酬改定は、厳しい国家財政の中、診療報酬全体で0・1%増という結果になりました。

 診療報酬は医療機関にとって経営の原資であり、そこから国民に医療を提供するのに不可欠な、医療の進歩に伴なう設備投資などをコストとしてまかなっています。2年ごとに改定されることから、その間の物価、賃金の動向や、医療の高度化を反映するものであり、いわば地域医療を確保するための経費です。

 医療機関は国民生活のセーフティネット機能を果たし、現場ではその社会的使命感により、国民の求める質の高い医療に応えています。診療報酬を増やせば国庫負担、国民負担が増えると考えるのではなく、国が国民にどんなレベルの医療を提供するのかという、国民との約束を果たすための費用と考えるべきです。

 今回の改定は、2025年に向けた地域包括ケアの確立という、改革の大きな目標を踏まえ、限られた財源の中でメリハリの利いたものとなりました。具体的には、在宅の不適切事例について適正化を図った一方、7対1看護基準の見直しに伴なう急性期後の受け皿作りの整備のため、地域包括ケアの確立に必要な項目が評価されました。また、地域に密着した医療の充実のため、その中心となる中小病院、有床診療所、診療所について主治医機能、有床診療所、在宅医療への手当など、地域に密着して医療を提供してきたことに適切な評価がなされました。

 「地域包括診療料」の創設については、かかりつけ医の評価をここから始めようと道筋がついたものです。単に外来の包括化を容認したものではありません。現場や国民に混乱のないよう注視し、問題が起きるようであれば、検証して次回改定で修正していくことになります。

 なお、医療機関の努力で引き下げられた薬価は、従来の手法にのっとり、診療報酬本体の改定財源に充てるべきです。健康保険法において薬剤は診療などと不可分一体であり、その財源を切り分けることは不適当です。今回は、消費税率引き上げと同じタイミングで、国民負担が増えることがないようにという政府の強い意向を踏まえたもので、極めて特例的な措置だと思っています。

■控除対象外消費税について

 一方、消費税8%への引き上げ対応分につきましては、医療機関などに負担が生じないように、医療費総額の1・36%の補填が行なわれ、初診料12点、再診料3点と基本診療料を中心に補填されました。今回は、従前の個別診療項目へ配分する方法が不公平であったこと、および10%時までの1年半の対応であることを踏まえ、より公平で、かつできる限りシンプルな対応案として、初・再診料など基本料金への配分となりました。

 消費税に関しましては、患者、国民、および保険者の消費税負担が目に見えない形で生じている現行制度は、抜本的な見直しが必要であると考えております。

■医療介護総合確保推進法案に思うこと

 現在議論されている、いわゆる「医療介護総合確保推進法」は、2025年を見据えた医療提供体制のあり方を考え、達成するための手段であるといえます。

 国民負担を増やさずに医療を充実させるという配慮のもと、診療報酬での底上げではなく、新たに約900億円の基金が創設されることになりました。特に、地域包括ケアの中心を担う、かかりつけ医機能を持つ民間医療機関を中心に配分されるとのことです。地域医療を担う民間医療機関に充分配慮し、地域の実情を反映した計画に基づいて、中長期的な資金を確保して地域医療の「再興」を図ることが必要です。

 日本医師会は今回の税と社会保障の一体改革で、「国の方針を都道府県の医療政策にいかに落とし込むかではなく、都道府県や市町村など地域の実態に基づいたものとすべき」と主張してきました。そのために医療提供体制は、それぞれの地域の住民が安心して医療を受けられるよう、全国画一的な方向をめざすのではなく、個々の医療機関が自主的に、担うべき機能を選択するなど、地域の実情にあわせて構築すべきです。かかりつけ医を中心として、地域の身近な通院先、急性期から慢性期、回復期、在宅医療と、「切れ目のない医療・介護」を提供することにより、国民にも医療提供者にも、望ましい医療体制の構築が行なわれるからです。

 その観点から日本医師会は、昨年8月に四病院団体協議会との合同提言を取りまとめ、「社会保障審議会医療部会」やその急性医療に関する作業グループ、「病床機能情報の報告・提供の具体的なあり方に関する検討会」など重要な会議において、医療提供者を代表する立場から積極的に主張してきた次第です。

 今般、われわれの主張が実現し、地域で必要な医療や介護は、都道府県が作成したビジョンに基づいて実施されます。今後は、それぞれの地域に必要な医療ニーズを積み上げていくわけですが、都道府県知事が地域医療ビジョン策定の総合責任者として大きな権限を持つことになります。

 この法案で「協議の場」が設置され、都道府県医師会も重要な構成員として参画していただくことになっています。また、各都道府県で定める計画に基づいて、新たな財政支援制度が導入されます。

今回の制度改革が、真に日本の医療の将来のため、適切に機能するかどうかは、都道府県とそのカウンターパートである都道府県医師会にかかっています。

 地域の実情を熟知している都道府県医師会が、率先して地域医療ビジョンを描くなど、主導的役割を担うことが必要です。そのために、都道府県医療審議会や地域医療対策協議会などの構成に影響力を持つことや、その事前計画策定時の協議で政策提言をするなど、都道府県医療計画の担当部署をはじめとする行政と緊密な連携・協議が必要です。都道府県医師会と行政とが車の両輪となって円滑な関係を築くことで、その地域の健康が守られるのです。日本医師会は、都道府県と都道府県医師会との密接な連携が進むよう、実務的な支援・指導を行なう地域包括ケア推進室を設置して体制を整え、推進を図っていきます。

 今われわれが問われているのは、現実を正しく見据え、行政と連携して、地域医療ビジョンをどう描き、地域医療対策協議会のメンバーとして、地域の医療と介護の改革に向けて具体的にどう取り組むのか、医療の専門職集団として地域包括ケアシステム構築のために何ができるのかということです。今後、厚生労働省と調整・検討が必要ですが、事業として、①医療提供体制の改革に向けた基盤整備、②在宅医療の推進、③医療従事者などの確保養成が挙げられており、地域医療の再興を図るため、日本医師会内に設置した地域包括ケア推進室でも、厚労省や都道府県医師会と調整をはかりながら、協力して推進していきたいと考えています。

■医療基本法の立法化をめざして

 医師や医療提供者と患者の法的関係について考察を加えますと、わが国の医療を取り巻く法制度や行政通達には、本来、信頼関係に満ちた良好な関係であるべきはずの医師と患者の関係を阻害するような不合理な規定が存在しています。また、これらの法規定には、国の医療に対する一貫した基本理念を見出すことができないことから、日本医師会内にある医事法関係検討委員会で検討を進め、その抜本的な解決策の1つとして「医療基本法」という法律を定めることがぜひとも必要であるとの提言がまとめられました。これは、わが国に無秩序に制定される医療関連法規と日本国憲法の間を媒介する役目を持ち、医療分野における「親法、親たる法」という性格を持ちます。

 日本医師会は4月8日の常任理事会で、本提言を日本医師会の医療基本法に関する提案として位置づけることを正式に決めました。今後は患者団体や市民団体の方々とも協調しながら、早期の立法化を目標に国会議員などに対する働きかけもしていきます。

■不退転の決意で改革を進めたい

 団塊の世代が75歳に達する2025年までの11年という短い期間に、持続可能な社会保障制度となるよう、必要な改革、特に地域包括ケアを推進していかなければなりません。いま必要なのはビジョンと実行であり、喫緊の課題として次の4点が求められると思います。

 第一に、住み慣れた地域で最期まで安心して暮らせる「超高齢社会における地域包括ケアの確立・推進」、第二に医療機関の自主選択を尊重した「医療の機能分化・機能連携の推進」、第三に「地域医療支援センターの機能強化による医師確保と、偏在を是正するための保険医・保険医療機関の適切な指定の検討」、第四に、わが国の優れた医療システムを、アジアを中心とした諸外国に身近な医療として展開する「医療の国際貢献」です。日本医師会は、あるべき医療の姿に向けて不退転の決意で改革を進めていきます。

連携、そして連帯を

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九州に元気を感じます

 九州は元気がいいと、東京の人からは見えるんじゃないでしょうか。

 こちらにいると九州の人は1つの方向性を持って、よくまとまった感じを受けます。地理的に中国や韓国に近いですから、昔から新しいものや珍しいものを受け入れられる、開かれた風土を感じます。

 東京に来て一番びっくりしたのは、福岡出身者にとても元気な人が多いということです。いろんな事情で東京に来られているわけですが、「あなたも九州ですか!」というような明るい人がいっぱいおられます。特に福岡の人には柔軟性を感じますね。

 ただ、日本全体にも言えることですが、九州は福岡に一極集中し過ぎです。そこはもう少しうまくやって、地方を大切にする九州でなければいけないと思います。交通の便もかなり良くなっていますからね。

 食べ物は、九州のほうが格段においしいですね。新鮮さが違います。特に野菜には土地の栄養と旨味が染み込んでいます。肉は九州ブランドで有名になっていますから、野菜や果物も、地域ごとに特徴のあるものをどんどん作れば、全国で売れるんじゃないでしょうか。

 これからは連携です。医療機関の連携、介護との連携、そして、患者さんとの連帯です。

 高齢社会を乗り切るためには、地域づくりを住民みんながやらなければなりません。その時、医療がなければ地域が崩壊しますから、地域づくりの中心に医療がなければなりません。

 福岡県の医師会にいたころ、池永満弁護士(故人=NPO患者の権利オンブズマン創立者)に、患者側の立場で会員に話をしてくれないかと頼みに行ったことがあります。

 その時、池永さんと小林弁護士とで、よし、やろうということになりました。当時は医者にとって、弁護士はこわい存在でしたから、講師で呼んで会員から叱られました。

でも話の内容はとてもよかったですね。結果として定着し、県内4ブロックで講演してもらいました。一昨年まで続いたようです。

 父親も医者でした。私は次男だったし、医者よりも外交官になりたかったんです。中学の担任が英語の教師で、フルブライトの奨学制度で米国から帰ってきたところで、その影響がありました。でも3年生の夏休みに、叔父から盲腸を手術してもらって、やっぱり医者になろうと決めました。


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