生涯かけて向き合える曲に出会えた高柳敦子さん
夜も遅い電車の中で、楽譜「オペラ座の怪人」にじっと目を落としている女性がいた。バイオリニストですかと声をかけたら、いえ、どうしても弾きたい曲があって、最近習い始めたばかりなんですよと言う。それが高柳敦子さん(50=写真中)。映画「シンドラーのリスト」のテーマ曲を聞いて感動し、そのあと映画を見て、いっそう心を奪われたそうだ。
「自分でこの曲を弾かなければと思った。聴くだけではおさまらなかったんです」と話す。曲に背中を押され、地元桂川町にあるバイオリン教室の戸を叩いた。
それから1年半、博多駅前の医療関連コンサルタント会社アスメディックス㈱に勤めながら、通勤中は楽譜に目をやり、月に3回の練習も続けてきた。
10月23日、下山田小学校(山田市)にある白馬ホールで行なわれたバイオリン教室発表会では5歳から80歳までの生徒が練習の成果を披露し、高柳さんも練習曲「メヌエット第3番」を弾いた。そして最後に全員で「オペラ座の怪人」、生え抜きのメンバーは「四季」も弾いた。
自分の演奏について高柳さんは「謙遜でも何でもなく、音がノコギリ状態。子供の方が格段に上手で、発表会の前日は胃が痛かった」と言う。しかし現状がどうであれ、弦に弓を乗せている時の彼女の心には最高の「シンドラーのリスト」が流れていたに違いない。
写真の場所は発表会のあった白馬ホール。左は嘉麻市の会社で事務をしている藤本清実さん(41)。右は県の臨時職員平山さくらさん(23)。2人とも習い始めて3年目。「自分の人生に華を添えたかったから」と話していた。3人はアンサンブルで「少年時代」を弾いた仲。(本紙撮影)