十一月の扉 高楼方子
中学二年の爽子は、偶然みつけた素敵な洋館「十一月荘」で、転校前の数週間を家族と離れて過ごすことになる。
「十一月荘」の個性あふれる住人たちとの豊かな日常の中で、一冊の魅力的なノートを手にいれた爽子は、その日々の中で、毎日の出来事を自分の物語に変えて綴り始めた。物語の中のもう一つの物語―。いわゆる劇中劇として主人公爽子の書くファンタジーが挿入され、それらの響きあいのなかで物語は展開していく。お話の出来事と現実の世界とがどんどんシンクロしていき、さまざまなスパイスが広がって豊かな世界が色鮮やかに描かれている。
のんびりしているようで、密度の濃い時間。ノートを売ってくれた文房具やさん、一緒に暮らす女の人たち、そしてコースケという噂の男の子、たくさんのぬいぐるみ、玄関の絵...。思春期の女の子が様々な人との関わりの中で、自分の生き方を考える清々しくてきらきらした青春小説。
作中、爽子が心の中でつぶやく言葉「大丈夫。きっと未来はすてきだ」。そう。いつだって未来はきっと素敵であってほしい。読み終わると心が温かくなり、いまから一歩踏み出そうという気分になる。毎年この季節になると読み返したくなる1冊だ。(紀伊國屋書店福岡本店 日田麻美)