明けましておめでとうございます。国民の皆さまにおかれましては、健やかに新年をお迎えになられたこととお慶び申し上げます。
昨年は7月の西日本を中心とする記録的な豪雨や9月に近畿地方を中心として甚大な被害をもたらした超大型の台風21号、さらにはその直後の北海道胆振地方で発生した地震など、さまざまな災害が相次ぎ、多くの方々が被災され避難生活を余儀なくされる事態が続きました。日本医師会では、JMATを派遣するとともに支援金等を呼び掛けましたが、多くの皆さまにご協力いただき、改めて厚く御礼申し上げたいと思います。
メディアでは「これまでに経験したことのないような大雨」や「25年ぶりの非常に強い勢力の台風が列島上陸」など、日ごろ聞きなれない表現があふれかえり、従来の対策では太刀打ちできない場面が増えております。自然の猛威と人間の英知の闘いのようですが、被災者を支える医療は自然の猛威に屈するわけにはまいりません。いかなる災害も凌駕し、迅速に医療を提供できるよう準備しておく必要があります。
日本医師会ではその一環として、昨年、「防災業務計画」と「JMAT要綱」を改正し、従来の「JMAT」に加え、「統括JMAT」「先遣JMAT機能」「統括JMATの条件、役割」等を明記いたしました。北海道胆振地方の地震では、初めて「先遣JMAT」を派遣しましたが、「先遣JMAT」が現地で得た情報がその後のJMATの派遣を検討する上で非常に有益であり、今後の活動に示唆を与えるものとなりました。
また、平時からの災害医療に関する教育や研修体制の整備に加え、かかりつけ医機能を中心とした地域連携の強化も不可欠と考えています。昨年10月には、「防災推進国民大会2018」の一環として日本医師会主催によるセッションを開催しましたが、その中では、超高齢社会が到来し、「医療的ケア児」等も増えている中で、災害時に要配慮者の生命や健康を守るためには、地域包括ケアによるまちづくりが最大の災害対策であり、それが、ソフトパワーによるナショナルレジリエンス、すなわち国土強靱化であることが改めて確認されたところです。
災害対策の意味からも、引き続き、かかりつけ医機能研修制度を充実させ、関係各所との連携を密に図りながら、かかりつけ医を中心とした地域包括ケアシステムの構築に全力を尽くしてまいりたいと思います。
一方で、同じ10月には、日本医師会にとって大変うれしい知らせが飛び込んでまいりました。京都大学高等研究院副院長/特別教授・ 本庶佑先生のノーベル医学生理学賞受賞です。日本人による本賞の受賞は2年ぶりで、5人目の快挙です。日本医師会の会員でもある本庶先生とは日ごろから大変懇意にさせていただいており、2016年10月にはご多忙の折、会内に設置した「医師の団体の在り方検討委員会」の委員長をお引き受けいただきました。先生の強いリーダーシップの下で、「行政から独立した医師全員が加盟する団体が必要である」等、大変示唆に富んだ力強い四つの提言を取りまとめていただきましたことは、我々にとっても貴重な財産となっております。
この受賞と時を同じくして11月には、「日本医師会設立71周年記念式典並びに医学大会」において、医学・医療の発展に貢献してきた方にお贈りする日本医師会最高優功賞を受賞され、「驚異の免疫力」と題する特別講演を賜りました。
昨今、基礎医学の分野では、政府の補助金削減や成果を出すまでに多くの時間がかかるなどの理由により、研究者の減少が叫ばれております。しかし、今回受賞の対象となった先生の「がん免疫療法」は、従来、治療の手立てのなかった世界中の多くの患者さんにとって命と夢を与えたばかりでなく、基礎医学研究の重要性を訴えた強烈なメッセージになったと思えてなりません。日本医師会といたしましても、臨床を支える基礎医学に携わる方々が立派な研究成果を生み出せるよう、医療界のみならず社会全体に働き掛けてまいりたいと思います。本庶先生には引き続き研究の先頭に立って、後進の指導等にも当たっていただきたいと思います。
そして、私ごとではございますが、皆さんのご支援の下、2017年の10月に就任させていただきました世界医師会(WMA)会長の職務を無事全うすることができました。会長を務めた1年間には、アメリカ、中国、バチカン、スイスなど14カ国に及ぶ国々を訪問させていただき、「終末期医療」「One Health」「生活習慣病」などをテーマとする会合において、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、すなわち「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられること」を提唱させていただきました。我が国では国民皆保険により、これが実現されておりますが、引き続き、その推進に向けた取り組みを進めてまいる所存です。
この間、特に印象的であった出来事は、同年12月、東京における「UHC フォーラム2017」で来日された世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長との出会いであります。この出会いにより、WHOとWMAは今後、連携・協力をさらに深め、UHCを含む国際保健におけるさまざまな課題に取り組んでいくことを確認でき、また、2018年4月には、ジュネーブのWHO本部において、覚書を締結することができました。その中では、両組織における優先目標が、UHCの達成と緊急災害対策の改善であると明記することができましたが、今回の覚書の締結は国際保健分野におけるWMAのプレゼンスを高め、WHOとの関係を強化する新たな契機になったと思っております。
また、同年9月末にニューヨークの国連本部で行われた国連総会非感染性疾患(NCD)に関する第3回ハイレベル会合でスピーチできたことも貴重な体験となりました。私は、認知症患者さんを医師が寄り添って地域で支える仕組みを紹介するとともに、成人になってからの生活習慣病を予防するために、小児期における肥満を防ぐなど、早い時期からの学校保健、学校医を通じた教育の必要性を訴えましたが、子どもの肥満対策は途上国、先進国問わず、大きな課題であったためです。
我が国では、人口減少社会に突入しておりますが、世界的に見るとアフリカ等では、人口が増加しており、いまだ世界人口の半分が、健康を守るための質の高い基礎的医療サービスにアクセスできていないと言われています。「社会的共通資本としての医療と言う時、社会を構成するすべての人々が、老若、男女を問わず、また、それぞれの置かれている経済的、社会的条件にかかわらず、その時社会が提供できる最高の医療を受けることができるような制度的、社会的、財政的条件が用意されている必要がある」これは、経済学者の故 ・宇沢弘文先生の言葉でありますが、医療の本質、言い換えれば、あるべき医療の姿がここに示されており、まさにUHCの達成により得られることだと考えています。
そして、病気を診ることだけが、医師の仕事ではありません。より安全で質の高い医療を提供するためにも、患者さんはもちろんですが、その人生、家族、住んでいるまちを含めて大きな視点から見ることが大切です。加えて、世界に先駆け超高齢社会を迎えた我が国では、人生100年時代に向け、健康寿命のさらなる延伸が求められています。その実現のためにも予防・健康づくりに向けた取り組みに、かかりつけ医がより積極的に関与していく必要があります。
繰り返しになりますが「健康寿命の延伸と地域包括ケアシステムの構築」、これが今、我々の最も重要な目標であると同時に、これから超高齢社会を迎える国々に対する我が国からのメッセージでもあると思っておりますので、引き続きのご支援をお願いいたします。
最後になりますが、今年は4月に天皇陛下が御退位され、5月に皇太子殿下が御即位されます。こうした歴史的な年に、「第30回日本医学会総会2019中部」が4月27日より名古屋市で「医学と医療の深化と広がり〜健康長寿社会の実現をめざして〜」をメインテーマに開催されますことは大変喜ばしいことであり、国民の皆さまにもぜひご参加いただきたく存じます。
新たな時代の幕開けに当たり、国民の皆さまには、日本医師会の活動に対する深いご理解と絶大なるご支援を賜りますようお願い申し上げ、年頭のごあいさつとさせていただきます。本年もよろしくお願い申し上げます。