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熊本大学大学院生命科学研究部 放射線治療医学分野 大屋 夏生 教授

熊本大学大学院生命科学研究部 放射線治療医学分野 大屋 夏生 教授

がんとの共生のために”緩和照射”

【おおや・なつお】
1987年京都大学医学部卒業、同放射線科・核医学科入局。公立小浜病院、京都大学大学院医学研究科腫瘍放射線科学分野講師などを経て、2004年から現職。

 がんの治療は、主に「手術」「化学療法」「放射線療法」の3種類に分けられる。日本での治療は従来、手術が中心だったが、近年は化学療法や放射線療法も進歩している。今後さらに需要が高まるであろう放射線治療について、熊本大学放射線治療医学分野の大屋夏生教授に話を聞いた。

―熊本大学にある放射線治療装置について教えてください。

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 装置は2種類で計3台あります。そのうちの2台は体の外側から放射線を照射するリニアック、もう1台は放射線を内部照射するラルスの装置です。

 リニアックは脳、首、耳鼻咽喉、肺、乳房などの治療に使用します。治療時間はほんの10分程度です。微量の放射線を10〜30回に分けて患部に当て、がん細胞を消滅させます。

 一方ラルスは、当院では主に子宮頸がんの治療で用います。細長い補助器具を子宮内に挿入し、遠隔操作で病巣部を照射する仕組みです。1回の治療は30分ほどで終わります。

 リニアックもラルスも、治療頻度は基本的に1日1〜2回です。次の照射までに最低6時間は空ける必要があります。

―熊本大学の治療の特色は。

 放射線をミリ単位で正確な位置に照射する技術を日常の検診から導入していることです。30年ほど前は照射部分が大きすぎて患部以外の細胞も破壊してしまうという欠点がありましたが、現在は範囲を絞り、よりピンポイントに患部に放射線を当てることができるようになりました。

 裏を返せば、患者さんの位置が少しでもずれたら、照射部分も外れてしまうということです。 この問題を防ぐために、熊本大学では「FDG-PET」を導入しています。簡単に言えば、ブドウ糖類似物質であるFDGを注射し、がん細胞に目印をつけるのです。これをPET装置で撮影します。がんなどの多くの腫瘍はブドウ糖を活発に消費しているので、FDGがたくさん取り込まれた異常像として描出される。がんの大きさや形に左右されないので、CTよりも優れているのです。

―この10年間での治療件数の推移は。

 ほぼ横ばいです。当院のリニアックは2台合わせて、1日に約70人の施術をしています。現在の機器の数とスタッフの人数を考えれば、これ以上使用頻度を増やすことは難しいと思っています。

 一方、放射線治療を適用する疾患の種類は増えました。患者さんの症状に合わせて手術、薬物、放射線を組み合わせて治療する集学的治療が普及し始めたからです。

 例えば手術の切除範囲を小さくするために、術前照射でがん細胞を可能な限り死滅させます。患者さんにとっては、より体に負担の少ない治療を選べるようになりました。

―放射線治療で一番力を入れていることは。

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 「緩和照射」をもっと普及させる取り組みです。放射線治療はがんを完全に消滅させるための根治治療、今ある痛みを和らげるための緩和治療の二つに分けられます。

 がんが骨に転移したときのしびれるような痛みに緩和照射を施す方法は、およそ30年前には普及していました。一方、近年、急激に進んでいるのが放射線でがんを根治させる研究です。がんを切らずに治すことができるのは喜ばしいことですが、その一方で緩和照射はあまり重視されなくなってしまったのです。

 今は、がんは治るのが当たり前だという考え方が一般にも浸透してきました。しかし、もし根治ができなかった場合、「がんと共存していくためのケア」という選択肢も出てきます。治る・治らないといった観点とは異なるアプローチとして、緩和照射を世の中に発信したいと考えています。


熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://radiatoncol.com/

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