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九州大学大学院医学研究院神経内科学 吉良 潤一 教授

九州大学大学院医学研究院神経内科学 吉良 潤一 教授

解明! 神経障害性疼痛の一因は""

【きら・じゅんいち】 1979 九州大学医学部卒業 同神経内科医員 1982 米NIH留学 1985 九州大学神経内科助手 1991 同講師 1995 同助教授 1997 同教授

 今年7月、今まで有効な治療法がなかった、感覚神経の病気やケガによって強烈な痛みやしびれが生じる「」の一因が「自己抗体」であることを解明。吉良潤一教授に発見の経緯や今後の治療法について聞いた。

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―解明の経緯は。

 1997年、気管支喘息やアレルギー性鼻炎などさまざまなアレルギー疾患に伴って、痛みやしびれるような感覚のある脊髄炎を発症することがあると発見し、報告したのが最初でした。今では「」という国の指定難病ですが、当時は病名も原因もわかっていなかったのです。

 2004年に血液を入れ替える血漿交換によって、患者さんの痛みが取り除かれるというケースに直面しました。ということは、血液中に痛みを引き起こす「何か」が含まれているのではないか。血液を入れ替えると血液中の自己抗体も取り除かれる。そこに着目しました。

 痛みの神経伝達経路のうち、自己抗体が侵入しやすい後根神経節をマウスから取り、患者さんの血清と交わらせると、痛みに関係した神経にだけ反応。こうして感覚神経を標的として攻撃する自己抗体「抗Plexin D1抗体」が血液中に存在すると発見しました。さらにこの自己抗体が感覚神経に発現する「」というタンパク質と結合して痛みを起こしているところまでわかり、報告しています。

―具体的な調査方法を。

 対象は神経障害性疼痛の患者さん100人。「抗Plexin D1抗体」の陽性反応があったのは11人で、うちアレルギーがあったのは10人。膠原病(こうげんびょう)の人は3〜4人で、1人は食道がんを患っていました。陽性になるのは特に若い女性に多い。自己抗体を産生しやすいからです。アレルギー疾患や膠原病がある人も多いとわかりました。アレルギーがある人は糖タンパクを含む構造の抗体を体内で頻繁に生成するためです。膠原病はさまざまな自己抗体を作りやすい病気なので、疼痛を引き起こす可能性が高いとわかりました。

 がんによる痛みについては、今、構造の解明に取り組んでいるところです。がんは「Plexin D1」と似た物質をたくさん持っています。そこで「抗Plexin D1抗体」が結合して痛みを引き起こしているのだと考えられますが、まだ研究は始まったばかりです。

―治療法は。

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 神経障害性疼痛の患者さんは国内だけでも600万人以上。ほとんどが原因不明だったので、根本的な治療ができませんでした。「(商品名:リリカ)」という神経に作用する痛み止めが多用されていますが、痛みは半分も和らぎません。ほかに使われるのは麻薬系の薬や痛み止めの作用がある抗うつ剤。しかし、いずれも対症療法です。

 今回の解明は、病気の根本的な治療に近づきました。抗体、または抗体を産生しているB細胞を取り除くことで治せるかもしれない。もしがん患者に疼痛が生じた場合は、がんそのものは除去できなくても、痛みを和らげることはできます。がん患者は激しい痛みを感じながら息を引き取る。そんな苦しみを少しでも和らげることができればと思っています。

 今後の治療としては、血漿交換をして、抗体の産生を抑える免疫抑制薬を使うのが有効的です。しかし、抗体を取り除いたとしても、再び作られる。血漿交換で痛みが和らぐのなら定期的に繰り返せばいいのですが、自己抗体を作るB細胞は取り除かれないので根本的な解決には至りません。

 この抗体を作るB細胞を撃退する、モノクローナル抗体という物質があります。これを使えば痛みがとれる可能性がある。高額な医療なので誰もが手を出せるわけではありませんが、どうしても治らない人にはこの治療を施せたらと思っています。さまざまな可能性を試しながら、いつか根本的な治療法を確立させたい。それが最終目標です。

九州大学大学院 医学研究院神経内科学
福岡市東区馬出3-1-1
TEL:092-641-1151(代表)
https://www.neuro.med.kyushu-u.ac.jp/

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