人材こそが医療を守る
新しい年が明けた。2018年は、ここ数年のテーマである少子高齢社会への対応に関して、様々な政策、制度が動き始める重要な年でもある。これまでにも増して地域医療の充実に努力しなければ、と自分に言い聞かせている。
ところで、医療にとって欠くことのできないのは、人材であり、「人」なくしては、医療はなりたたないが、その人材の確保が厳しい状況にある。なかでも地方においては、深刻な状況がここ数年続いており、「街から赤ちゃんの声が消え始めた」地域も出ている。
「何とかしなければ、地域医療は崩壊する」と考えた我々は、2年前「はやぶさプラン」という、人材確保と育成のための独自の制度を創設した。このプランは、環境の整備や生活支援を通じて、鹿児島の地域医療を担う人材を確保、育成するのが目的で、より地域性の強い産科医、助産学生、看護学生を対象に助成することで、基金の活用を図っている。助成額は医師月額5万円、助産学生・看護学生は3万円。期間は1年で、初年度は22人、今年度は26人が助成の対象になった。「はやぶさプラン」は医療関係以外にも反響を呼び、5年で5000万円を寄付してくださる地元企業も現れた。基金総額は、現在7000万円近くに達している。
我々医師会はこれまで2回、助成対象の方々と懇談し、意見を交わしたが、全員が高い志を持って医療を学んでいること、故郷の医療に貢献したいと、強く思っておられることを知って、感激した。4人の子供を育てながら、日々助産師の勉学に励んでいる看護師さん、助成金で高い専門書が買えましたと笑顔で話す女性の産科後期研修医、学費の心配なく一年間学べ、感謝しているという助産学生。それぞれが意欲を持って取り組んでいる姿が頼もしく思えた。
少子高齢社会が到来するなかで、様々な課題が浮き彫りになっているが、我々が目指す地域包括ケアシステムの構築にとって、一番大切なのはいうまでもなく人材だ。人材の確保、育成なくして、地域医療構想が実現できるはずもない。これからの医療・介護の中核を担う、自治体の地域包括支援センターにしても、ケアマネジャーをはじめ、多職種の有能な人材が求められている。
我々の試みは「一灯」に過ぎないかもしれないが、少なくとも医療が置かれている現状を県民に理解してもらい、このプランに共感を持ってくださる方々がいらっしゃることは、心強い限りだ。プランの充実はもちろんのこと、やがて多くの街で「赤ちゃんの泣き声が聞こえる」ことを、私は信じて疑わない。将来に渡って、人材こそが、国の医療と介護を守り、地域の活性化にも繋がっていくであろうと、確信している。