九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

CROSS TALK Vol.07 – どう守る?妊産婦 – 現状は「待ったなし」妊産婦のメンタルヘルスケア

CROSS TALK Vol.07 – どう守る?妊産婦 – 現状は「待ったなし」妊産婦のメンタルヘルスケア
DATA 産後1年未満の妊産婦死因の最多は「自殺」
2015年~2016年の人口動態統計を用いて妊娠中、産後1年未満の女性の死因を調査。357例中、102例が自殺でトップだった。出産から自殺までの1年間を通して発生しており、35歳以上が最多。初産、無職などの傾向も見られた。

「古くて新しい問題」の日本の状況は?

加藤教授2.jpg

九州大学医学部 婦人科学産科学教室
加藤 聖子 教授
1986年九州大学医学部卒業。同生体防御医学研究所、順天堂大学大学院医学研究科産婦人科講座などを経て、2015年から現職。

山下特任准教授2.jpg

九州大学病院 精神科神経科 子どものこころの診療部
山下 洋 特任准教授
1985年九州大学医学部卒業。九州大学病院精神科神経科などを経て2010年から現職。

加藤聖子教授(以下、加藤)
妊産婦のメンタルヘルスケアは「古くて新しい問題」。半世紀以上も前から存在するテーマですが、日本ではなかなか関心が高まらず、イギリスなどと比較すると対策が遅れていると言われています。まず、みなさんはどのような方にリスクを感じていますか。

山下洋特任准教授(以下、山下)
精神科で治療を受けていた時期があり、いったんは改善した。そんな方は周産期、特に産後の再発の可能性が高まるようです。治療を継続中の方は妊娠を契機に自身で「治療薬は使用しない方がよい」と判断し、治療を中断するケースが少なくありません。産後では孤立した育児の最中で受診をためらうことも多く、その結果、症状が悪化して自殺などのリスクが高まるのです。

甲斐翔太朗医員(以下、甲斐)
大変な不妊治療を経て高齢出産に至った方、十代での妊娠がトラウマとなっている方などに精神的なケアが必要になることがあります。産後の1カ月健診以降も含めて、いかに精神科や小児科、地域の保健所などと連携するかが課題だと思います。

山下
相談できる人がいない、望まない妊娠や予期しない妊娠ー。社会的なサポートが得られず孤立した状態で妊娠、出産を経験することで心にキズを負う。若い世代を中心に多く見られる例です。

加藤
核家族化などを背景に「身近な人が妊産婦さんを支える」という環境が整いづらくなった。一人きりで過ごす時間が増え、不安を抱えやすくなっているのですね。

深川良二理事長(以下、深川)
そうした個々の環境的なもの、あるいは遺伝的なもの。さまざまな要因が関係していると思いますし、時代とともに、近年は貧困との関係も注目されるようになりました。「地域性の違い」などもメンタルヘルスに影響するのではないでしょうか。

支援が必要な人をどうやって見つけるか

甲斐先生2.jpg

九州大学医学部 婦人科学産科学教室
甲斐 翔太朗 医員
2011年大分大学医学部卒業。北九州市立医療センターなどを経て2016年から現職。

深川理事長2.jpeg

医療法人 深川レディスクリニック
深川 良二 理事長
1977年久留米大学医学部卒業。同産婦人科、久留米大学大学院などを経て1988年から現職。

加藤
2000年、当教室第8代教授の中野仁雄先生が「妊産褥婦および乳幼児のメンタルヘルスシステム作りに関する研究」を開始するなど、九州大学は早くから妊産婦のメンタルヘルスケアと向き合ってきました。これまでの研究成果などを踏まえて、さまざまな「気づく」ための仕組みが広がっています。

深川
診療の指針は日本産婦人科医会「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル」(2017年3月)です。妊娠が判明した段階で支援が必要な方をスクリーニングする「育児支援チェックリスト」を活用し、助産師がサポートしつつ、個室でゆっくりと分ほどかけて記入してもらいます。記入後のスタッフによるヒアリング内容などを合わせて、データベースとして蓄積していくのです。

山下
多職種での連携も年々緊密化しています。産科や精神科の医師だけでなく、医療ソーシャルワーカーや臨床心理士などもカンファレンスに加わることが多くなりました。甲斐先生が先ほど指摘した通り、産後1カ月以降のフォローは多職種が協力しなければ難しいのです。ただ、体制が充実していくほど多様なリスクが見つかる。支援の範囲は広がっています。

甲斐
妊娠週〜週ごろに、妊産婦メンタルヘルスケアマニュアルでも推奨されている「エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)」を用いたスクリーニングを実施します。点数が高い (10項目30点、9点以上をうつ病としてスクリーニング)方の情報をカンファレンスで検討し、精神科の受診や社会的なサポートの必要性を話し合います。

加藤
親の不安定な精神状態が子どもの発達過程に影響し、ネグレクトや虐待が「世代間連鎖」することも問題視されていますが。

山下
産後うつで大きなウエートを占める悩みの一つは「子育てがうまくできない」。自分を責めて悪循環に陥ることがあります。強調しておきたいのは「うつが必ず虐待に結び付く」わけではないことです。

話したいことがたくさんある

深川
悩む人を見逃さない。そのための仕組みを地域の実情に合わせてつくっていくことが必要です。例えば当クリニックでは、助産師が乳房ケアをしながら意識的に話を聞くようにしています。

甲斐
限られた時間の中で、うまく聞き出すコツはありますか?

深川
問診票などを見ると、みなさんぎっしりと書いている。以前と比べて真面目な方が増えたのかなという印象です。自分の思いを誰かに打ち明けるだけで悩みが解消されることがあるでしょう。医師でなくても、受け付けの職員や清掃のスタッフも聞き役になれると思います。「見守られている」という気持ちになってもらうことが大切ではないでしょうか。

山下
医学的なアドバイスよりも、何でも素直に話せるといった、情緒的なサポートが求められていることは感じています。

加藤
聞き役としての助産師の役割は大きいと思います。でも「傷つけてしまうのではないか」「どう話しかけたらいいのか」と、なかなか踏み込めないでいるのも事実。トレーニングを受けられる環境の整備、人材の育成が重要でしょう。では最後に、今後の予定などをお願いします。

山下
精神科としては周産期のメンタルヘルスケアの受け皿となり、早期発見の充実に力を入れていきたいですね。米国などでは「産後ドゥーラ」(ギリシャ語で「他の女性を応援する経験豊かな女性」の意)の現代版とも言える家庭訪問プログラム「ナース・ファミリー・パートナーシップ」で助産師、保健師の方々が活躍しています。かつての日本の社会にもあった、こうした仕組みの構築も呼びかけたいと思っています。

甲斐
まだ構想の段階ですが、EPDSのデータから産後うつのリスクファクターを見極めるための研究をスタートさせたいと思っています。

深川
日本産婦人科医会では2015年から毎年「母と子のメンタルヘルスフォーラム」を開いています。医師、看護師、行政など多職種が集い、ワークショップなどを通じて、メンタルヘルスケアへの対応力を高めています。今年は6月に岡山、2020年は福岡で開催します。

加藤
九州大学の各診療科、地域の先生方、行政などと連携して、みんなで妊産婦をバックアップできるシステムを実現したいと思います。本日はありがとうございました。

九州大学医学部婦人科学産科学教室
https://www.med.kyushu-u.ac.jp/gynob/
九州大学病院子どものこころの診療部
http://www.kodomo-kokoro.hosp.kyushu-u.ac.jp/
福岡市東区馬出3-1-1
TEL:092-641-1151(代表)


医療法人 深川レディスクリニック
http://fukagawa-ladies.com/
福岡県久留米市田主丸町田主丸1-28
TEL:0943-72-1122


この記事を読んだ方は他にこんな記事も読んでいます

最新の記事情報が取得できます

Twitter

「いいね!」ボタンを押すと、最新情報がすぐに確認できるようになります。

Instagram

フォローする」ボタンを押すと、最新情報がすぐにツイート上で確認できるようになります。

コメントはこちらから

メニューを閉じる