愛媛大学大学院医学系研究科 放射線医学講座
城戸 輝仁 教授(きど・てるひと)
2001年愛媛大学医学部卒業。
国立病院機構愛媛医療センター、米マサチューセッツ総合病院、
愛媛大学大学院医学系研究科放射線医学講座准教授などを経て、
2020年から現職。
放射線医学を取り巻く環境は、AIやITの活用で大きく変わろうとしている。43歳で愛媛大学大学院医学系研究科放射線医学講座の第4代教授に就任した城戸輝仁氏が描く放射線科医のあるべき姿とは。
ダイバーシティの実現
愛媛大学医学部を卒業し、大学院生として前教授の望月輝一氏のもとに戻ってから17年、留学を経て40代前半という若さで、後を継いだ。
「愛媛大学医学部の方針に〝患者さんから学び、患者さんに還元する〟があります。望月先生から学んだ〝愛媛から世界に向けて発信する研究〟をさらに推進し、同時に世界で学んだ知見を愛媛に持ち帰ることで患者さんに還元していきたいと思っています」
就任時から取り組んでいるのは「ダイバーシティ」の実現だ。女性医師が働きやすい環境づくりを目指し、同講座で初めて医局長に女性を登用した。
医局には産休や育休を取得する女性医師が増えてきており、職場復帰をする際に、どうすれば復帰しやすいのか、復帰後のキャリアプランをどうするかなど、女性の医局長の方が相談しやすく、同じ立場として理解も深まると考えた。
女性復帰の職場支援につなげられないかと、ITを活用した遠隔読影システムの構築を考えている。CTなどの画像を、自宅や出先のパソコン、タブレットに送信すれば、病院に出勤せずに業務を遂行できる。「画像診断も在宅ワークは可能です。産休や育休明けですぐに週5日の勤務が難しい場合でも、例えば週3日は出勤して、後は自宅で読影する働き方を導入していきたいと思っています」
新型コロナの感染拡大によって、この遠隔読影システムは現実味を帯びてきた。「放射線科内でクラスターが発生すれば検査の読影が止まってしまいます。チームを分けて勤務態勢を整えていますが、濃厚接触を避ける意味でも遠隔読影システムは重要です」。病院の承認を得られ、実現に向けて動き出している。
AIを活用した画像診断を推進
AI(人工知能)を使ったシステムの構築にも取り組んでいる。就任早々、画像診断分野にAI研究グループを新設。臓器横断的にAIを活用する研究を進めていく考えだ。
「米国のある研究者はAIによって放射線科医は必要なくなると提言したことがあり、当時私も危機を感じました。しかし、AIの診断精度は90%ほど。人間であれば見たことがない画像でも、『これはこういうことではないか』と予想できますが、AIは学習していないものは、見誤ることがあるのです」
人間が補う必要がある一方で、人間が気づけないことを気づくことができる存在だ。「AIに関する論文の多くは『AIと医療従事者の戦いの勝者はそのいずれでもなく、患者である』という言葉で結ばれています。残りの10%を見落とすことがないよう、患者さんのためにも有効に活用していきたいと思います」
新しい時代の放射線科を
医師になった2001年は、インターネットが普及し始めていた頃だった。「当時はまだフィルムによる画像診断でしたが、いずれデジタルになると考え、放射線科の可能性に期待して講座に入りました」
それから20年。AIやITの活用などによって放射線科医を取り巻く環境は大きく変わった。「使いこなすことができれば、患者さんにもっと還元できると思っています。次の20年は医療従事者の成熟、患者さんの医療を受ける形が進化し、放射線科医はもっと患者さんの近くにいるのではないでしょうか。放射線科として何ができるのか、しっかり考えていきます」
愛媛大学大学院医学系研究科 放射線医学講座
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https://www.m.ehime-u.ac.jp/school/radiology/http2005/