九州医事新報社 - 医療・医学の〝今〟を伝えて62年

医療と法律問題60 〜下肢静脈ストリッピング〜

弁護士 小林 洋二

 前回に引き続き、手術ミスのケースを紹介します。

 Aさんは30代後半の女性です。高校生と中学生の娘2人を育てながら、家計を支えるためにパートで働き、忙しい毎日を過ごしていました。

 Bクリニックを受診したのは、左ふとももの痛みからでした。検査の結果、下肢静脈瘤(りゅう)と診断され、左大伏在静脈を抜去する手術(ストリッピング手術)を受けることになりました。

 下肢静脈瘤というのは、下肢の静脈の弁がうまく働かなくなってしまったため、血液が逆流し、静脈が瘤のように膨らんでいる状態を指します。とくに命に関わる病気ではなく、症状としては、ふくらはぎのだるさや痛み、足のむくみなどが主なものです。

 Aさんが訴えていた左ふとももの痛みがほんとうに下肢静脈瘤によるものだったのかどうか、いまひとつはっきりしませんし(結果的に左大伏在静脈には静脈瘤はなかったようです)、仮にそうだったとしてストリッピング手術が最適な方法だったのかどうかよく分からないのですが、とにかくBクリニックのドクターは、静脈瘤のできている静脈を引き抜いてしまう治療法「ストリッピング手術」をAさんに勧めました。

 静脈を一本引き抜くというと、わたしたち素人は、そんなことをしてほんとうに大丈夫なのだろうかと心配になりますが、ほかの静脈が健在であれば問題はないとのことで、よく行われている手術のようです。指摘されている合併症も、麻酔に伴うものや、神経損傷といった外科的処置一般のものがほとんどで、とくに危険な手術だとは言われていません。

 しかし、ストリッピング手術後、麻酔が覚めたAさんは、激烈な左下肢の痛みを訴えました。鎮痛剤を投与するだけで、その激痛の原因を探ろうともしないドクターに不信を感じたAさんとその家族は、総合病院への搬送を強く要求、やっとのことで転院したC病院で血管造影をしたところ、引き抜く予定だった大伏在静脈は残っている一方、浅大腿動脈は造影されませんでした。つまり、Bクリニックのドクターは、大伏在静脈と間違って、浅大腿動脈を引き抜いてしまったのです。

 C病院で、緊急の人工血管置換術が行われ、Aさんの左足は切断を免れました。しかし、本来の血管と、人工血管はまったく違います。人工血管の劣化を防ぐためにはできるだけ膝を曲げないように生活しなければなりませんし、そういった生活を続けているうちに膝自体が拘縮して曲げようと思っても曲げられなくなりました。ある程度の時間同じ姿勢を続けていると足が浮腫んでひどい痛みに悩まされます。

 多くの手術ミスと同じく、この事件も私たちにはよく分からない部分があります。静脈と間違って動脈を引き抜いていいはずはないのですが、何に気をつければそのようなミスを犯さずに済むのか、おそらくはあまりにもあたりまえのことだからでしょうか、何を調べても書いてありません。

 この時は訴訟になりましたが、Bクリニックも過失の存在は争わず、後遺症をどう評価すべきか、損害額をどう算定すべきかについての証拠調べをしたうえ、和解で解決しました。Bクリニックが最後まで過失を争ったら、裁判所はいったいどう判断したのでしょうか。

九州合同法律事務所
福岡市東区馬出1-10-2 メディカルセンタービル 九大病院前6階
TEL:092-641-2007

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