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どうなる?コロナ第4波 病院団体トップ3人緊急取材

どうなる?コロナ第4波 病院団体トップ3人緊急取材
大阪で、新型コロナ患者の対応に当たる病院スタッフ (提供:社会医療法人協和会加納総合病院)

猛威振るう変異株 逼迫する医療現場

 新型コロナウイルス感染症の拡大が止まらない。変異株が猛威を振るい、近畿圏では5月6日時点で、陽性者の8割を超える高い水準。東京や愛知でも5割を超え、従来株からの置き換わりが進んでいると推定されている。

 「N501Y変異株」は、従来株よりも重症化のリスクが高い可能性があるとの指摘もあり、患者数の急増も相まって、入院患者数が増加。

厚生労働省が発表した「新型コロナウイルス感染症患者の療養状況、病床数等に関する調査結果」(5月5日午前0時時点)によると、都道府県別の確保病床数に対する使用率は、最も高い大阪で83%。兵庫79%、奈良72%、和歌山、京都で68%などとなっており、石川、沖縄、三重、福岡、滋賀、徳島でも5割を超える病床が埋まっている状態(=表)だ。

医療をどう守るのか?

 救急患者の受け入れ困難や、手術の延期など、新型コロナ以外の患者に対する医療への影響も出てきている。また、コロナ専用病床で業務に従事する医療職の確保に難航することも多々あり、感染拡大と医療提供体制整備とのせめぎあいが続く。

 2月には医療従事者のワクチン接種が始まった。高齢者、基礎疾患を有する人、高齢者施設等の従事者と、段階的にワクチン接種が進んでいく。

 集団免疫が達成され、地域レベルでの流行がなくなるといった効果が期待できるまでは、しばらく時間がかかると見込まれる中、地域の医療提供体制を維持していくために、何を検討すべきなのだろうか。

 日本病院会会長・相澤孝夫氏、日本医療法人協会会長・加納繁照氏、全国自治体病院協議会会長・小熊豊氏の3人の談話を紹介する。


経営面で支援の効果を実感日本病院会 会長 相澤 孝夫 氏

―国内の病院の現状はいかがでしょう。

 新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関を対象とした補助金が、医療機関に入りつつあります。
 日本病院会などが継続的に実施している調査では、外来患者数、入院患者数、医業利益のいずれも前年度比でマイナスが続いていますが、病院の倒産や経営形態の変更などの情報は入ってきていません。支援の効果を実感しています。

 一方で、働く人の確保の問題では、なかなか有効な手を打てていないと感じています。「10床の新型コロナ専用病床を確保しても、働く人の問題で8床しか運用できない」といったことが起きている理由の一つが、コロナ対応で必要となる手間暇の多さです。防護服の着脱などの感染対策も必要ですし、高齢で日常生活の支援が必要な方が入院した場合には、さらに多くの人の手が必要になります。

 現在、多くの病院は自院でなんとかしようと、確保した病床数以上に一般医療(コロナ以外の病床)を削り、その病床を担当していた職員をコロナ病床での業務に従事させることで、対応しています。流行地域に、他県から医療職が支援に入ったケースもありますが、これらの対応だけでは不十分です。


―今後、検討すべきことは。

 人の確保の観点では、ある程度の広域を想定した「患者の移動」も選択肢の一つになるのではないかと考えています。働く側の視点だけで言うと、患者移動のメリットは大きい。職員は医療資材などの配置、役割分担など慣れた場で医療を行う方が、効率的に質の高い医療を提供しやすいからです。

 ただ、その検討以前に、国は「どの地域範囲で感染症対策を考えようとしているのか」という青写真を描く必要があります。国が全体の方針のほか、必要病床数の算定に必要な計算式や最新のデータなど、判断につなげられる情報を示し、地方は、それに基づいて工夫していく。個々の病院や地域に委ねすぎては、うまく進まないのではないでしょうか。

 今後、ワクチン接種が進むことで、重症化する人が減り、医療への負荷が下がることはほぼ確実でしょうが、効果が実感できるのは、もうしばらく先になるでしょう。市民に行動制限を呼びかける方法も効果が薄れてきているようです。となると、今後も感染者が増え、それに伴い医療が逼迫(ひっぱく)する可能性があります。感染源対策など新たな方法を考える時期にも来ているのではないかと思っています。

 今は、国民と医療者、地方自治体、国が一丸になって取り組む時。お金による支援も、もちろんありがたいのですが、医療現場の声も聞き、一緒に議論して、乖離(かいり)なく対策を進めていけるような場づくりも、引き続き、国に求めていくつもりです。


医療崩壊を防いだ「ファクターX」は/日本医療法人協会 会長 加納 繁照 氏

―1年余りを振り返って、民間病院の状況を。

 第1波から第3波までについては、医療の崩壊までには至らなかったと考えています。新型コロナの患者を受け入れた病院がありましたし、特に都市部では民間病院が、積極的に救急車を含む救急患者に対応し、一般医療を守ってきました。

 ただ、「第4波」では状況が急変しています。私たちの病院(加納総合病院)がある大阪、さらに近畿圏などで広がる変異株「N501Y」は、これまでとは全く違った強い感染力を持っています。重症患者の年齢層が下がり、発症から重症化までの期間も非常に短い。急しゅんな患者増加のカーブに、これまで踏ん張ってきたコロナへの医療だけでなく、一般医療までも苦しい対応を迫られています。

 救急を中心に担ってきた民間病院にも、コロナ患者用の病床を確保するよう要請がきており、多くの病院が応えています。年初、「民間病院はコロナ患者を受け入れない」といった話が流れましたが、2020年の流行初期からコロナ患者に対応している民間病院がいくつもあり、その数は右肩上がりに増えています。

 大阪府では、宿泊療養施設で療養する患者に対するオンライン診療や往診などにも、府私立病院協会青年部会を通じて民間病院の医師が協力しています。

 当院でも、感染管理認定看護師らが中心となって院内感染対策をしながら、救急にもコロナにも対応してきているのが現状です。現在、救急車の受け入れを行いながら、中等症対象のベッドを20床確保。一時期は、ゾーニングによって23人まで受け入れ、場合によっては重症者にも対応しています。今回、病院は、公民関係なくオールジャパンでコロナに立ち向かってきました。その中でも病院数の8割を占める民間病院の担った役割が、医療崩壊を防ぐ「ファクターX」となったと考えています。


―今後の見通しは。

 20年4月以降、三つの病院団体でアンケートを実施し、与野党の別なく病院の窮状を訴えてきました。その成果として1次、2次補正につながったと思います。今後、ワクチンの供給が進み、接種率が上がることで重症者の数が減って、医療への負荷が下がることに大きな期待をしています。

 コロナへの対応が落ち着いた後は、将来必要となる医療資源の量を見極め、病院などの「整理整頓」の準備に入ることが大事になるでしょう。

 例えば、総人口も高齢者人口も減る地方では、病院の統廃合や医療資源の集約化による「点」で患者を受ける体制が必要だと思います。一方、大都市で考えると、65歳以下に対する医療は減少傾向で65歳以上に対する高齢者医療が増加する。そうなれば患者が住まいから近い病院で医療を受けられる「面」での対応が大事です。将来を見つめ、慎重に議論を進めていく必要があるのではないでしょうか。


医療の負荷を下げ 介護施設への支援も/全国自治体病院協議会 会長 小熊 豊 氏

―自治体病院の現状は。

 集計はまだですが、耳にする個々の病院の状況から推測すると、大きな赤字を回避できる病院が多くなりそうです。特に、新型コロナの患者さんを多く引き受けている病院ではその傾向があります。

 一方で、厳しい状況の病院もあります。コロナ専用病床は確保したものの、患者の入院がほとんどない上に、受診控えで一般患者が減った病院では、支援の恩恵を受けにくい状況になっていると聞いています。

 今、問題となっていることの一つ目が、中等症以上の患者を入院させるべき施設に、軽症者が入っていること。私たちの調査でも500床以上の病院に軽症者の約30%が入院していました。軽症者は宿泊療養施設などで経過を観察し、病床はいざという時のために空けておく。それが職員の疲弊を回避するためにも大事だと思います。後方支援の不足については、他団体と連携して声を上げています。少しずつ状況は改善されるでしょう。

 また、介護施設などに対する支援体制の構築を急がなければなりません。高齢者が多く、感染症に習熟したスタッフも少ない。感染症に対応できる病院から助言や支援する体制の構築が重要だと考えています。

 国は3月下旬、第3波のピーク時の2倍を想定した病床確保を都道府県に求めました。病床を増やすには、一般病床を閉鎖し、医療職、特に看護師を確保する必要があります。一般のICUでは、患者2人に対して看護師1人。新型コロナの重症患者の場合、患者1人に対して看護師2〜3人、多い時には4人が必要です。

 県や都道府県の要請に応える覚悟はできていますが、そのためには緊急を要しない手術や入院を受けない状態にせざるを得ない。どの程度、踏ん張れるのか、不安がないわけではありません。

 だからこそ、同時に感染者を増やさない対策ができないものかと考えます。国や地方自治体には、第1波の時、「人との接触を8割削減」といった指標が出されたように、国民が納得し、共感できる数字や施策を打ち出してほしいと強く思います。


―全国の病院長へのメッセージを。

 各病院の病院長の皆さんは、病床確保など難しい要請にも応えようと努力されています。同時に、職員の不安や苦しみを受け止め、病院を運営している。公民にかかわらず、苦しい時期を必死に頑張っていただいていると感謝しています。

 新型コロナは、少しずつ収束へと向かうかもしれませんが、10年〜20年のサイクルで、新興感染症に見舞われるとも言われています。新型コロナへの対応が少し落ち着いたタイミングで、地域の医療機関みんなでどのような病院がどんな役割を担い、どう連携していくのか、今後の医療のあり方を一緒に議論できればうれしく思います。

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