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AIやデバイスを活用し 健康長寿を取り戻す

AIやデバイスを活用し 健康長寿を取り戻す

琉球大学大学院医学研究科
内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科
教授(ますざき・ひろあき)

1989年京都大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部、
京都大学大学院医学研究科内分泌代謝内科講師などを経て、2009年から現職。
寄附講座「糖尿病とがん病態解析学講座」教授兼任。


 「これまでにないアプローチで新しい医療を発信したい」と語る益崎裕章教授。過食に至る人間の行動原因を脳内分子メカニズムから解き明かした研究を進展させ、医療を新次元に導く実証研究を実践している。

―「沖縄クライシス」とは。

 この言葉が生まれた背景は、全国でもトップクラスの健康長寿を誇った沖縄が、生活習慣病の増加によって、年々そのランキングが下落していることにあります。

 当講座ではこの現象を「沖縄クライシス」と名付け、その病態を解明し、健康長寿を取り戻すために必要な医療は何かをテーマに研究を続けています。

 沖縄県民の遺伝子が特殊ではないかと言われることもありますが、遺伝子の変化は10万年ほどの年月を要します。県民の生活習慣病が増加している原因が、遺伝子に起因する体質変化でないことは明らかです。

 原因は、動物性脂肪を豊富に含むジャンクフードの消費量増加によって食事の高カロリー化が進行するなど、沖縄の本土復帰を境に急変した県民の食生活にあります。詳しい調査を進めていくと、沖縄の健康長寿を支えてきた世代が好んで食べていた玄米の消費が急減していることに気づき、玄米を食べなくなったことと生活習慣病の増加に何らかの関連があるのではないかと考えました。

―改善への道筋は。

 県内の食品会社とタイアップして、一定期間、メタボリック症候群の人に白米と玄米を交互に食べてもらう実験を実施。体重や血糖値に、明らかな差が出ることが判明しました。

 玄米に含まれる成分の中に食欲や血糖値を制御する物質が存在するという仮説を立て、3年をかけてマウスで実験。その結果、玄米に高濃度に含まれる成分ガンマオリザノールが、食欲をつかさどる視床下部に作用して嗜好(しこう)を左右する、満腹感などの幸福感を生む脳内神経伝達物質ドパミン受容体の機能を高めるなど、脳内の詳しいメカニズムを分子レベルで解明することができました。

 伝統食だった玄米食の摂取が減少したことでドパミン受容体の機能が低下し、いくら食べても満腹感を得られにくい「満足できない脳」に機能変化したのです。反対に玄米に含まれるガンマオリザノールの摂取量を上げると「足るを知る脳」に変化し、食材の嗜好が変わり、食べる量も制御できる行動変容が起こって、生活習慣病の防止に役立つと結論づけました。

―久米島におけるパイロット実証研究の目的は。

 行動変容のさらなる詳しいメカニズムの解明を目指して、人口約7600人の久米島で2017年秋から「久米島デジタルヘルスプロジェクト」をスタートさせました。島民の生活、活動、食事、睡眠、運動など多くの情報をデジタルデバイスで収集。行動特性をAI(人工知能)で解析したところ、問題解決のためのアルゴリズムが徐々に分かってきました。

 現在、AIのデータを個人のスマートフォンの専用アプリケーションと連動させ、その人が食事や買い物の時に、スマホを起動すると数分で「あなたに今日おすすめのメニューはこれですよ」と提案するアプリを開発しています。今後は実用化に向けて進んでいく予定です。これらの分析が進めば、どういう生活パターンがリスクが高いか科学的に分かるようになり、人生100年時代を生き生きと過ごすことに役立つ研究になると思います。

 いずれは、デバイスやアプリが、個人の健康を管理する薬のような役割を果たすと考えられてきており、製薬会社もこの研究に参画しています。脳、行動、食事など、これまでにない新しいアプローチにより、まったく新しい医療の変革が起きようとしています。沖縄から世界に向けて、新しい医療を発信することが当講座の目標です。

琉球大学大学院医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)
沖縄県西原町上原207
☎098―895―3331(代表)
https://www.ryudai2nai.com/

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