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九州大学大学院医学研究院 精神病態医学 精神療法を重視しながら強迫症の病態を解明

九州大学大学院医学研究院 精神病態医学 精神療法を重視しながら強迫症の病態を解明

精神病態医学
中尾 智博 教授(なかお・ともひろ)
1995年九州大学医学部卒業。同臨床大学院博士課程、
英ロンドン大学精神医学研究所客員研究員、九州大学病院精神科神経科講師・
診療准教授などを経て、2020年から現職。


 開設から115年の歴史を持つ、九州大学精神病態医学教室。脳画像研究で重要な成果を上げてきた中尾智博教授は「精神科医は何よりも〝こころ〟を診る専門家です」と、精神療法の重要性を強調する。臨床や研究における取り組みと、今後について聞いた。

―これまでの取り組みと現状について。

 入局以来、強迫性障害をはじめとする不安障害の臨床と研究を行ってきました。主に強迫症の方を対象にして、臨床と脳画像の研究をしています。

 2001年以来、放射線科と連携して「functional­─MRI(fMRI)」を用いた強迫症の脳画像解析を行ってきました。強迫症における前頭葉や神経基底核の異常を解明し、その異常が行動療法によって回復することを画像所見で示して、国際誌に発表しました。

 持ち物を捨てたり手放したりできず、日常生活に支障をきたす「ためこみ症」という疾患に関しても脳画像研究を行っており、2018年には、世界で初めてためこみ症患者の脳構造に独自の異常があることを報告しました。現在も、安静時fMRIや拡散テンソル画像を用いて、強迫症やためこみ症の病態解明を進めています。

―九州大学は、森田療法や認知行動療法の実践で知られています。

 「精神科医のアイデンティティーはやはり、「こころを診ること」。臨床では、精神療法の一つである認知行動療法に注力しています。当教室は、伝統的に精神療法の実践を大事にしていて、認知行動療法や精神分析、森田療法といった代表的な精神療法の実践で知られています。

 私が生物学的な研究を始めた動機の一つも、この認知行動療法が人の脳にどのような影響を与えるのか、薬物療法との違いは何なのかを知りたいというものでした。

 認知行動療法はニーズが高い一方で、専門とする教授や講座が少ないという現状があります。大学での臨床や教育はもちろん、ワークショップや研修会で若手医師や臨床心理士の先生に治療の方法を教えることなどもしています。

 精神療法は精神科医にとって必須の技術ですが、現在は生物学的な研究が盛んでもあり、学ぶ機会が十分に得られていないところがあります。雑誌「精神療法」の編集委員を務めたり、日本精神神経学会の精神療法委員会委員として基本的な精神療法マインドを習得してもらう研修活動を行ったりしています。

―専門研修プログラムについて。

 当教室では、私が入局する前から独自のプログラムを組んでいます。大学病院と単科の精神科病院、国立の療養所、総合病院の精神科では、患者さんのタイプが違っており、かつ、その場所でしか学べないことがあるため、さまざまな医療機関をローテーションして、バランスの取れた精神科医を育てていこうというものです。

 現在も九州大学病院を基幹病院として、連携医療機関をローテートして研修を行うというやり方を踏襲しています。毎年10人前後が入ってきて、3年から5年の研修を行い、専門医試験などを経て、一人前の精神科医になっていきます。

 福岡県は精神科医のシーリングが厳しい県で、2020年も専攻を希望する40人余りの研修医のうち、福岡県下の基幹プログラムに登録できたのは約半数にとどまりました。私たちのプログラムでは、以前から福岡以外に佐賀、大分、鹿児島、沖縄といった広範な領域の医療機関と連携を結び、より幅広く精神科医療を学べるような研修システムを構築してきました。現在は、山口、兵庫、愛知、北海道といった地域にも共通の考えに基づいて研修を行う連携先を設けて、機会が損なわれないように対策を取っています。

─今後の目標を。

精神療法家であることが自分の一番のアイデンティティーです。認知行動療法や一般的な精神療法のマインドを育てていくことは、自分自身のライフワークとしていきたいと思います。

 教室員に教えるのはもちろん、全国のシンポジウムやワークショップで、若手の皆さんが自分の言葉や態度で患者さんの病気を治療できるように導いていくことができたらいいなと考えています。また、強迫症やためこみ症という自分の専門領域の臨床と研究を、今後も発展させていきたいと考えています。

 九大精神科には、児童思春期から老年期に至る幅広い年代の精神疾患、器質性精神障害、発達障害、統合失調症、気分障害、不安障害、リエゾン精神医学それぞれのエキスパートがそろっています。そして、認知行動療法グループをはじめ、脳生理、分子細胞、久山町研究と連動した老年精神医学、児童グループによる母子メンタル研究、リエゾンコンサルテーション活動と幅広い臨床・研究活動が展開されています。

 私たちの教室から精神医学の発展に寄与する研究結果を出すことができるよう、各グループが有機的に連携協力し、活発な研究活動ができる環境を整えること。それを第一に考えながら、教室の研究活動を盛り上げていきたいと考えています。

 もう一つ、今の私たちが避けて通れない問題として、新型コロナウイルス感染症(COVID─19)への対応があります。この1年余りCOVID─19は、私たちの生活に大きな影響を与えました。

 感染や死の不安、恐怖、ソーシャル・ディスタンスの保持による孤独、経済活動の制限による将来への不安といった持続的で複合的なストレスにさらされる状況下において、メンタルヘルスの維持向上は、喫緊(きっきん)の課題です。

 私自身、現在、厚生労働省の研究班としてCOVID─19によるメンタルヘルス問題への対応に力を注いでいます。同時に、九大精神科としても地域住民、医療スタッフ、精神科患者さんのこころの健康を保つため、全力を注いでいきたいと思っています。

 私が当教室に入局してとても幸運だったのは、この教室の多くの偉大な先輩方がつくり上げた伝統や思想を引き継いで、臨床精神医学を学ぶことができてきたということです。特に、精神療法を大切にするこの教室の、隅々までを満たすある種の「豊かさ」によって、私は他では得られない体験をしながら育まれてきたと思っています。

 自分自身が受けた恩や感じてきた幸せを忘れずに後進の指導に当たり、臨床と研究の両面で、充実を図っていきたいと思います。

精神病態医学
福岡市東区馬出3─1─1
☎092─641─1151(代表)
https://npsych-ku.com/

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