「映画はそこそこネタバレされてから見る方が何倍も楽しく鑑賞できる」と言った友人がいた。え、何も知らない方が感動も大きいのでは。「細かい見どころが分かっていると、その場面を注視する。だから人よりたくさんの発見がある」。なるほど。
文庫本を「解説から読む」人はどのくらいいるのだろうか。くだんの「映画鑑賞法」と同じように、「先に読んでおくと小説がより面白くなる」効果があるのだろうか。
椎名誠らと「本の雑誌」を創刊したミステリー評論家・北上次郎(またの名を目黒考二、またの名を藤代三郎、またの名を…)は大の文庫解説好き。新刊を見つけると、ページを開く前に誰が解説を書いているのか推理するという。
300本を超える文庫の解説を手がけてきた同氏だが、好きな作家の解説を書きたいと思っても、都合よく依頼されるわけもない。だったら自分で勝手に書いてしまってはどうかと「ミステリマガジン」誌上で連載が始まったのが「勝手に!文庫解説」で、それをまとめた本書は日本の小説編、海外の小説編の2章立て。計30作品の「勝手に書いた解説」を収録している。
大半の作品が未読だが、まんまと「全部読んでみたい」気にさせられた。基本路線は「褒め」でも、思い入れが強いがゆえに「こうだったら良かったのに」「シリーズ○作目は傑作だが○作目は期待どおりではなかった」など正直で熱い思いが吐き出されており、こちらもつられて読書欲がかき立てられる。
文庫解説そのものが「読み応えのある作品として成立する」ことを教えてくれる一冊だった。収録作品はここには書かない。ぜひその目で確認されたし。(瀬川)
勝手に!文庫解説