いまやマーケティングのカギは「一般人の参加」がにぎるようになった。単にモノやサービスを一方的に受け取るだけでは飽き足らず、積極的にSNSで拡散したり、わざわざ「まとめサイト」をつくったり、大規模な購買運動を「仕掛け」たり―。
こうしたユーザーの行動の変化を「応援」という切り口で紐解くのが本書だ。ふるさと納税も、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の啓発活動として世界中で流行した「アイス・バケツ・チャレンジ」も、この「応援したい」「自分が行動することで助けたい」という気持ちが出発点となっている。その対象はスポーツ選手やアイドルといった分かりやすいアイコンだけでなく、生活に関わるありとあらゆるものに広がっている。
しかも、場合によっては自分のアイデアが新商品の企画や開発といった上流部分にまで関与し、経済活動に影響を及ぼすことができるようにもなった。言葉としては以前から提唱されているが、いよいよ本格的な「消費者のエンパワーメント(権限付与)」)の時代に入ったと著者は言う。
では、応援されるために「提供側」の意識はどう変わったのか。「とりあえずシェアを大きく」から、「顧客との長期的な付き合いの構築」を目指す方向にシフトしているという。「大勢の中の誰か」にアプローチするのではなく、一対一のコミュニケーションを重視する「リレーションシップ(関係性)マーケティング」である。
まさに、これからの医療や介護にも通ずる話ではないか。併存疾患が多い高齢者にはそれぞれの状態に合わせた対応が必要になる。「プレシジョン・メディシン(精密医療)」もどんどん進む。患者とその家族のあり方や課題も多様化している。一対一を意識した関係性は、ますますなくてはならないものになっていく。晴れて関係性を構築できた結果、患者が「応援者」として協力してくれれば、医療はより力を発揮するにちがいない。
応援されるブランドの類型と特徴や、さまざまな事例をインタビュー(例えば自分では指さない将棋ファンは「観る将」「撮る将」「読む将」などに多様化!)で紹介しているほか、応援される会社には「四つの必要条件」があるとしている。当欄担当者が共感するのは、やはり「社会課題の解決に取り組んでいること」だ。(瀬)
著者:新井範子、山川 悟