明けましておめでとうございます。2021年は辛丑の年であり、辛丑は古きことに悩みながらも終わりを告げ、新しき芽生えを見いだす年である。オリンピック・パラリンピックをはじめとするさまざまなイベントやビジネスがリセットされ、また医療では地域医療構想はいったん立ち止まり、医療計画は新興・再興感染症が5事業の中に組み込まれた形で構築される。今年はまさしくリスタートの年である。
一方、後期高齢者の自己負担割合、オンライン診療の恒久化、病院受診時の定額負担の対象病院の拡大等々、国民皆保険制度の維持のため、痛みを伴う社会保障制度の具体的な施策のスタートに向け議論が本格化する年になる。
2020年は新型コロナに明け暮れた1年であり、今年も感染拡大防止に引き続き取り組むことになる。
ところで2020年の「経済白書」が例年より遅く11月に公表されたが、第1章「新型コロナウイルス感染症の影響と日本経済」の17、18ページの「コラム1―1 感染症対策と経済活動の両立」の「囲い記事」をご一読していただきたい(経産省HP参照)。これが頗(すこぶ)る興味深い。ある人に言わせると経済白書では「本音は囲い記事」で、「神経を使うときは脚注で書く」習性があるらしい。ここに官庁エコノミストの新型コロナの知識、医療の見識、医療の専門家への評価が垣間見える。
「外出自粛と感染拡大防止の因果関係は不明」、「医療の専門家は正しい知見のもとにご発言を」、「日常での3密を徹底すれば感染拡大防止は可能、過度の経済活動の規制は不要」、「人口10万対の死亡率は交通事故3・5、流行ピーク時のインフルエンザによる死亡率は2・9、自殺は15・7、新型コロナは日本では1・2」等々書かれている。
上記の意見にはいろいろ議論があろうかと思われるが、ここには医療崩壊の言及が全くない。経済の専門家は、医療はコストであって社会のインフラという視点はお持ちでないようである。しかし、今、医療崩壊に瀕した都市と保健所をはじめとする公衆衛生の疲弊がそこにある。
憂慮すべきは経産省と厚労省の医療に関する考え方の大きな隔たりであり、今は医療に対する無理解が社会保障の施策に反映されつつあることである。
2021年前半にはワクチン接種が始まるが、新型コロナとの戦いはしばらく続くと思われる。われわれ地方医師会は医療関係者だけではなく、業界を越えて正しい情報を共有し、協力し合ってこの難局に当たり、地域医療を支えていく所存である。