九州医事新報社 - 地域医療・医療経営専門新聞社

感染症対策の経験を生かし 医療人材育成に取り組む

感染症対策の経験を生かし 医療人材育成に取り組む

福岡大学 岩﨑 昭憲 総病院長(いわさき・あきのり)
1982年福岡大学医学部卒業。米クリーブランドクリニック、
福岡大学医学部外科学講座呼吸器・乳腺内分泌・小児外科主任教授などを経て、
2019年福岡大学病院病院長、2021年から現職。

 福岡大学病院では、新型コロナ受け入れ重点医療機関として中等症から重症の患者を受け入れてきた。より高度な管理を必要とする患者への医療提供と教育的役割を、福岡市にとどまらず福岡県全体に広げている。


―これまでの取り組みは。

 検査体制の充実は、入院患者の安全確保や病院機能低下への影響を防止するためにも重要です。PCR検査を病院独自に必要時に実施でき、かつ十分な件数をできるよう医学部からの人員と機器の支援を得たことで円滑に整備できました。

 重症患者に対応するために、2020年7月1日に救命救急センター内に新たにECMOセンターを設立。幸い救命救急センターでは、十数年前からECMOに取り組んでいたこともあり、今回も、医師が要請病院まで出向き、救急車内でECMOを駆動させながら当院まで搬送した事例もありました。21年秋にはECMO装着救急車両(ECMOカー)も投入します。

 さらに、感染制御部スタッフを近隣の病院へ派遣し、感染対策上必要なゾーニングや機器の使用法、マニュアル作成など教育的支援を多くの病院で行いました。

 総合大学の強みを生かし、20年4月に医工連携のプロジェクトとして、工学部の「ものづくりセンター」で不足していた感染防御用具を作成し、医療ゴーグル、パーティション(アクリルタイプ・モジュールタイプ)を福岡県内の医療機関や特別支援学校へ無償で提供しました。フェイスシールドも1万6千枚以上を作成・提供しています。

 また、文部科学省からの要請を受け、21年5月初旬から医療が逼迫(ひっぱく)していた大阪コロナ重症センターへ、救命救急センターの救急看護認定看護師を派遣。救命救急センターの医師は、沖縄、東京をはじめ全国のECMO指導派遣や、教育セミナーを開催し他施設の人材育成支援も行っています。

 行政で実施している大規模会場でのワクチン接種や宿泊療養施設にも、多くの医師や看護師、薬剤師を有する大学からの支援が欠かせないため、他の日常診療に大きく影響しない範囲で病院の勤務体制を調整しながら行っています。

 院内では、毎週2回早朝からコロナ対応会議を実施。これには、毎回、病院長以下、事務職員に至るまで多職種が議論しながら問題解決を図っています。


―コロナによる影響は。

 病院長として、守るべき患者の生命と職員の安全を最優先にしてきました。経営的な面は気掛かりですが、災害的状況においての優先度は当然下位になります。生命予後に関わる悪性疾患や移植医療、急性期疾患への診療が停滞しないように常に配慮してきました。 

 福岡大学には、福岡大学筑紫病院や西新病院があり、コロナの急速な拡大に伴い、病院機能の役割分担を行いました。本院では重症者を中心に、筑紫病院は中等症の患者を受け入れ、西新病院は回復患者の受け入れなど機能分担を行いました。また、医学科と看護学科もあり、機器や人的な支援もあります。今回のことで感染への備えの重要性と対処教育の大切さを感じました。福岡大学は文部科学省の「感染症医療人材育成事業」に採択され、今後これらを活用し、感染症に取り組む医療材育成に努めます。

 変異を起こしたとはいえ、新型ウイルスにどう対処すれば広がらないか、重症化リスクなど少しずつ明らかになってきました。福岡大学病院は、秋から新本館建設に着工するため、幸いこれまでの教訓を建物に反映することができます。病室だけでなく病棟単位の陰圧化や将来のゾーニングなどの動線や材質まで、病院全体が感染に強い建物にしました。われわれの果たす役割は人材、装備を充実させて感染に限らず、あらゆる医療対応が可能な施設であり続けること、そのためには大学の役割である教育面で地域貢献を果たすことではないかと考えます。


福岡大学病院
福岡市城南区七隈7―45―1
☎092―801―1011(代表)
https://www.hop.fukuoka-u.ac.jp/

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