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今月の1冊-87.今夜、笑いの数を数えましょう

今月の1冊-87.今夜、笑いの数を数えましょう

 誰しも、これまでの人生で「腹がよじれる」経験をしたことがあると思う。私にも、何度思い返しても涙を流して笑ってしまう鉄板のエピソードがいくつかある。

 その面白さを誰かと共有したいと思い、懸命に身ぶり手ぶりを交えて再現を試みるのだがウケたためしがない。こちらが熱くなればなるほど相手の表情は「無」に近づく。なぜ!

 面白い話を面白く伝え、面白いと感じてもらうのは簡単ではないのだ。

 作家・クリエイターのいとうせいこうは言う。笑いは論理的に語られたり、帰納的に体系化されていたりするわけではない。ステージでは自分がうまくやれば客は笑う。逆に、いけると思っていたネタがスベることもある。笑いに関する哲学的な思考の多くに納得がいかない。笑いはなかなか言葉や数式になりにくい。だからこそ言葉や数式にしてみたい─。

 笑いの原則や理論、定義を導き出すことは可能なのか。本書のタイトルが表す「笑いの数」とは「笑いの種類」のことである。

 倉本美津留(放送作家)、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(劇作家、演出家など)、バカリズム(お笑い芸人)、枡野浩一(歌人)、宮沢章夫(劇作家、演出家など)、きたろう(俳優)。

 1年半をかけて行ったそれぞれとの「濃ゆすぎる」公開対談を通して、笑いのバリエーションを分析し、そのメカニズムに迫る様子が記録されている。

 あのとき、なぜあんなにも笑ったのか。もしかしたら、この一冊の中にあなたの「思い出の笑い」の秘密が言語化されているかもしれない。別に自分の面白さはアップしないけれど。(瀬川)

今夜、笑いの数を数えましょう いとうせいこう 講談社 352頁 1500円+税

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