初期費用0円「クロン」が変えていくオンライン診療の未来は。
時限的規制緩和で導入や利用が加速
2020年4月10日、厚生労働省から事務連絡「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」が発出された。
これは、新型コロナウイルス感染流行拡大に伴い、医療提供が必要な患者が感染を恐れ受診を控える、あるいは医療提供側も院内での感染リスクがある、といった問題が生じていることからの対応である。これにより、対面のみであった初診を含めて、全面的なオンライン診療が解禁となった。
この時限的措置は、6月下旬から感染者が再度増加していることから、当面の継続が決定。多様化する患者のニーズに応えるため、4月以降、オンライン診療サービスを展開する企業には、問い合わせが殺到している。
その一つMICIN(マイシン、原聖吾CEO)が提供する「クロン(curon)」は、2020年7月時点での導入数が4000件以上と、2019年の約1700件から2倍以上増えている。診療回数は、保険診療の実施回数が特に増えたことにより10倍以上になっているという。
クロンが利用医療機関向けに提供しているガイドラインでは、通常のオンライン診療と今回の時限的緩和措置との違いを分かりやすくまとめている。
ユーザビリティが高く迅速に導入可能
オンライン診療サービスには新規参入が相次いでいる。どのサービスを選ぶべきなのだろうか。クロンの場合は、初期費用や固定費が無料(表参照)であることに加え、対応の早さ、ユーザビリティ(使いやすさ)、そして多くの導入実績が決め手になっている。
MICINの担当者は「コロナ禍もあり、早く決断して導入したい声が多く、迅速に質問対応や面談依頼に応じてきたことを、評価いただきました」。すでに導入していた病院から薦められた例もあったという。
実際に導入した病院側からは、「すぐに直接的な収益につながるものではないが、患者側の選択肢が増えたことで病院のアピールにつながった」「毎月の通院に片道2時間以上かかるという高齢の患者さんの負担が減った」という感想が寄せられた。またオンライン診療を導入しても、患者さんへの認知がすぐには難しいという課題もあり、「導入の費用が無料という点で、経営上助かっている」「クロンの導入が、今後のICT活用戦略を考えるきっかけになった」との意見も寄せられた。
MICINでは今後もヒアリングを続け、病院経営に貢献できる新たなプロダクト開発を検討しているという。「全国の病院の皆さまとの直接対話を通じて、医療の未来をつくっていけたらと思います」
新型コロナ感染拡大で本格導入を決意
社会医療法人石川記念会 HITO病院
石川 賀代 理事長 五十野 博基 総合診療科 医長 佐伯 潤 経営管理室 室長
新型コロナウイルス感染症の感染拡大期であった5月中旬に、「クロン」を利用したオンライン診療を開始したHITO病院(愛媛県四国中央市)。オンライン診療導入の経緯、実際の運用で見えてきた可能性について聞いた。
決め手は初期費用無料
―オンライン診療導入までの経緯を教えてください。
石川理事長 4月初めに、厚労省から初診も含めたオンライン診療の時限的措置の方針が出たと同時に導入を決めました。実は前々から導入するつもりではあったのですが、これにより前倒しになった形です。当院では、情報通信技術(ICT)の活用などにより、業務の効率化と医療の質向上を目指す『未来創出HITOプロジェクト』が進行しており、スマートフォンやタブレットといったデバイスがそろっていました。患者さんの中には慢性疾患の方も多く、コロナ禍で通院が不安という声が寄せられており、利便性を考え、一つのツールとして整えておくべきだと判断しました。
佐伯室長 クロンは初期費用がかからないことが決め手でした。オンライン診療が今後どこまで広がっていくか見えない中で、大きな投資をするのは難しい。実際にサポートもしっかりしていますし、こちらの要望も受け止めていただいています。当院にとって不要と感じていた機能はリニューアル時に改善されていました。当院では決済とビデオ通話の部分でクロンを活用し、既存の電子カルテと使い分けています。
患者の生活が見える
―オンライン診療は対面診療と、どう違うのでしょうか。
五十野医長 オンライン診療を始めてから対面診療を振り返ってみると、患者さんの声や顔色だけでなく、診察室に入ってきた瞬間の足取りや雰囲気、オンラインでは聞こえない微妙な音など、五感を使って診察していたことを実感しました。一方で、腰が痛いという患者さんが職場から受診された時に、職場のパソコンのモニターや椅子、座っている姿勢などが見えたことで、労働環境改善のアドバイスができる可能性を感じました。また、栄養指導などをご自宅から受けることができれば、実際に使っている調味料を見せてもらったり、ご家族(調理者)も一緒に指導を受けられたりできるメリットもあるかもしれません。
―医療者側の課題はありますか。
五十野医長 画面ごしだと体が横に少しでもずれると画面から消えるので、患者さんから不安になると言われたことがありました。オンライン診療に合わせた作法を学ぶ必要があると思います。いずれ講習会はもちろん、医学部の授業で、対面の診察技法のようにオンライン診療演習が加わるかもしれませんね。使い方が難しい患者さんには、担当の職員が院内にて手順を教える体制を整えています。ただ、アクセスの予約から当日の接続の手順、終わった後のカード決済など、診療の前後も、実は患者さんにはストレスがかかっていることも見えてきました。診療の満足度を上げていくためにも、対応策を取る必要があると思っています。
地域全体を巻き込み知ってもらうこと
―オンライン診療の拡充に必要なことは何でしょうか。
石川理事長 知ってもらうことです。オンライン診療という言葉はニュースなどで聞いていると思いますが、多くの住民にとっては、自分たちの診療にどう結びつくのか実感がないというのが現状です。どうしたら診療が受けられるのか、情報を発信しなくてはなりません。
佐伯室長 今後はケーブルテレビ番組での案内、役所などに体験できる場所を設けていただき、実際に触っていただけるような取り組みを考えています。気軽に体験できるようになることで、多くの方に実感していただけるよう、病院側から働きかけていくつもりです。
※1.患者向けアプリのレビューについては2020年7月現在のAppStoreの「評価とレビュー」に記載されている情報を引用しています。 ※2.対象疾患ごとに医師監修の雛形となる問診票を事前に用意しております。必要に応じてカスタマイズすることも可能です。 ※3.患者から送料(実費)・アプリ利用料300円(税別)をいただいているため、医療機関は患者の自己負担額の4%のみのご負担でご利用いただけます。利用する患者数や医師アカウント数による料金の増減などは一切ございません。 ※4.初期費用・月額利用料が無料。決済手数料のみ別途ご負担いただきます。 ※5.2020年6月現在 ※記事については8月19日取材時点の情報です。