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遠隔での技術習得や治療も腹腔鏡下手術の可能性

遠隔での技術習得や治療も腹腔鏡下手術の可能性

京都府立医科大学大学院 医学研究科消化器外科学
教授(おおつじ・えいご)

1984年京都府立医科大学医学部卒業。
米ワシントン大学医学部、京都府立医科大学大学院医学研究科消化器外科学講師などを経て、
2007年から現職。

 「安全」「根治」をモットーに京都府立医科大学大学院医学研究科消化器外科学を率いて2020年で14年目になる大辻英吾教授。低侵襲を代表する術式に発展している腹腔鏡下手術の今後の可能性や研究の状況などを聞いた。

―腹腔鏡下手術を取り巻く状況について。

 1990年代に登場したこの手術は、モニターを見ながら行う新しいスタイルの術式でした。私を含め当時の医師は初体験であり、慣れるのに時間を要しましたが、現在の若い医師は苦もなくこなします。その姿に時代の大きな変化を感じます。

 私の専門である胃がんの腹腔鏡下手術は、おなかに1㌢程度の小さな穴を数カ所開けてポートを挿入。そこからメスや鉗子、カメラなどを入れ、二酸化炭素をおなかの中に入れて膨らませた後、モニターを見ながら患部を切除します。治療内容は開腹手術と同じです。

 違いは、小さな切開で済むので術後の痛みが少なく、傷口の回復時間が短縮されるほか、腸が空気にさらされず蠕動(ぜんどう)運動がスムーズに再開するなどメリットが多く、早期退院が可能になりました。

 近年はロボット支援による腹腔鏡下手術も行っています。ロボットの鉗子は多関節なため、想像以上に緻密な手術が可能です。ヒトの指の動きを覚えさせたA I(人工知能)と連動させ、人間と同等の手術を自動化させることも可能だと思われます。

 もともとロボットによる手術は、戦場で負傷した兵士の遠隔治療を目的にアメリカ陸軍が開発したもの。その意味ではへき地医療にこそ威力を発揮すべき技術だと思います。突発的なトラブルなどに対処するため無人化は不可能ですが、現場に外科医が1人対応し、私たちのような大学病院と連絡を保ち、その指示下で手術を行うメリットは患者さんばかりでなく、医師にとっても大きいと思います。

 大きな病院などでしか経験が積めない先進医療も、距離の隔たりがまったく障害にならない遠隔技術を利用すれば、へき地での習得が可能です。コロナ禍で普及したテレビ会議のように、遠隔医療の時代も必ず到来すると思います。

―基礎的な研究も精力的に行っています。

 近年は胃がんに対する合理的手術の研究を進めています。がん細胞を取り除くほど治癒率はアップするとの考えに基づき、患部を大きく切除する手術が積極的に行われた時期がありました。しかし、そうした手術が、実は治癒率アップにつながっていないことを、私を含めて実感する医師が増加しました。

 そこで、当教室の手術データを過去にさかのぼり、コンピューターで解析した結果、大きく切除するほど治癒率が下がっていることが分かりました。後に臨床研究で実証されましたが、理由はいまだ不明です。

 一方、小さく切除する方が良いのかといえばそうでもない。これは適切な切除の範囲の存在を示唆しており、どこまで切れば良いのかなどをエビデンスに基づいて具体的に示すことができればと思っています。

 並行して、患者さんに最も効く抗がん剤は何か、その適否を治療前に判定する「がん治療に対する安全で有効な液体生検法の開発研究」も進めています。

 具体的には、採取した血液に含まれるがん特有の物質を分析して抗がん剤の効果を予測する、いわゆる「リキッドバイオプシー」です。定年までに必ず実現したいと考えています。

 手術の技法が高度になる一方で、実はガイドラインが整っていない治療も多く存在します。例えば高齢者が増えているにもかかわらず、高齢者に対する手術はどうしたらいいのか、どうして大きな手術ができないのかなど、実はエビデンスがありません。本教室には長年積み上げてきたデータがあります。高齢者や併存疾患の方の手術がどうであったのかを解析し、次世代がそのデータに基づいた臨床試験ができるよう進めていきたいと思っています。

 解決すべき問題は数多くあります。それを研究していくことが、大学に勤めている外科医の役割ではないでしょうか。

―教室の運営について。

 外科医になって35年、取り巻く環境は大きく変わりました。「安全」「根治」を目指す理想の手術をするためには、毎日同じことを繰り返すのではなく「考える」ことをしなければ、進歩はありません。

 当教室では、自分の考えを自由に発言できる開放的な雰囲気を大切にしています。安全性を確保するための方針はしっかりと定めますが、ゴールに向けてどうするかは任せています。そうすることで、理想の手術に近づいていけると信じています。

 外科医になって35年ほどたちます。定年まであと数年という中で、私の役割は、次世代のリーダーとなる人材を育てること。そのためにも、若い世代が自ら考える活気ある教室をつくりたいと思っています。

 2021年は、第76回日本消化器外科学会総会の会長を務めることが決まりました。その準備にも取りかかっています。例年7000人以上が参加します。コロナ禍での開催であることに配慮しながら、外科医としての私の人生を総括するイベントの一つという思いも込め、成功に導きたいと思っています。

京都府立医科大学大学院医学研究科 消化器外科学
京都市上京区河原町通広小路上る梶井町465
☎︎075―251―5111(代表)
http://f.kpu-m.ac.jp/k/dgstv-surg/

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