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連載:検証コロナ「あの時」《第5回》 福岡県医師会参与    上野道雄 氏 福岡県新型コロナウイルス感染症調整本部長

連載:検証コロナ「あの時」《第5回》           福岡県医師会参与    上野道雄 氏 福岡県新型コロナウイルス感染症調整本部長

医療提供体制を守る 「現地司令官」は病院長
2020年1月29日 病院長会議開催を提案

生かされた5年前の経験 エボラ受け入れ対応

 「県内の感染症指定医療機関の病院長を集め、会議を開く必要がある」
 2020年1月29日、福岡県庁で開かれた福岡県感染症危機管理対策委員会に出席した福岡県医師会参与(当時副会長)の上野道雄氏は、その思いを強くした。

 当時、新型コロナウイルス感染症が中国・武漢を中心に爆発的な拡大を見せていた。「コロナは必ず福岡にも来る。戦後初めて、2類感染症と戦う機会になるかもしれない。数十年使っていなかった感染症病室であっても、利用の必要性に迫られるだろう」

 県内の感染症指定医療機関にある専用病床は合計66床。しかし、通常使用しない部屋は外来診察室に転用されていたり、荷物が置かれていたりと、すぐに稼働できる状態だとは限らない。実際に使用できる病床数の把握、医師や看護師、PPEの備えや着脱訓練の状況などを急いで把握し、相互に連携しなければと思った。

 考えたのは、患者を受け入れることになる医療機関が連携を強めることと、それぞれを孤立させないこと。「コロナに対峙(たいじ)する〝現地司令官〟は病院長。決定権のある彼らが情報を共有し、共感しあうためには、一堂に会する必要がある」。

 県内の12感染症指定医療機関と4大学病院の病院長を集めた会議の開催を県に提案。感染症に関する会議はすでに定められたものがあり、前例もなかったが、諦めなかった。説得に、県も理解を示し、提案から1カ月後の3月1日、初会合を開催。その後、対象を広げながら、今も関係病院長会議として開催する。

 「病院長会議」にこだわった背景には、福岡東医療センターで病院長を務めた2015年当時の経験があった。

 同センターは同年、感染症センターを開設し、第1種感染症指定医療機関となった。同じ年、エボラ出血熱が世界的に流行。県内で、エボラ患者を受け入れられるのは同センターのみで、感染が疑われる患者が出た場合には、院内にある病棟で受け入れることが現実味を帯びていた。

 そこで、当時病院長だった上野氏が、病棟の看護師に対する説明に行くと、最初に、「命を保証してくれるのか」と問われた。「できることは全力でする」と語りかけたが、過呼吸症候群を起こす人、号泣する人が出た。

 さらにその後、ヒアリングやアンケートを取ると、「病院内でも差別されるのではないか」「なぜ私たちだけが…」と不安や孤立を訴える言葉が、あふれた。

 「実際に患者を受け入れたら、この不安や孤立感は、病院全体にまん延するだろう。人員も足りなくなる可能性がある」。そう考えた上野氏は、当時も連携を模索し、病院長会議を開いていたのだ。

宿泊施設も〝入院場所〟 患者や周囲の安全目指し

 今回、コロナに関する病院長会議では、「全ての患者を、本人自身と周囲の安全のため隔離し、病状に合わせた医療を提供する」ことを確認。また、専用病床は、想定通り転用されていることも多く、すぐに全てが稼働できる状況ではないこともわかった。

 「患者を全て隔離する場合、すぐに病床が足りなくなるのは間違いない」。県下の病院を自らも回り、結核病床や一般病床からコロナ専用病床への転用を病院長に依頼した。宿泊療養施設の確保も進め、時には近隣住民の説得にも出向いた。 

 当初、66床だった病床は、2021年2月3日時点で691床(うち重症110床)。宿泊療養施設は1387室が確保されている。

 「公立、私立を問わずどの病院の病院長も、経営を度外視して、専用病床開設の依頼に応えてくれた」。今、宿泊療養施設は全室に酸素飽和度測定器を設置。JMAT(日本医師会災害医療チーム)の医師が常駐する。「宿泊療養施設の1ベッドも、イメージとしては病院の『1床』」。無症状・軽症者が急変する可能性を念頭に、患者の自覚症状の変化、体調悪化の早期発見に努め、必要に応じて専用病床がある医療機関への搬送につなげている。

病院クラスター抑制は医師会の仕事
 
 発生から1年余り。「県と県医師会が、常に協議し、課題に向き合って工夫を重ねてきた」と振り返る。

 例えば、自宅待機者の増加問題。第2波では、宿泊療養施設が空いているにもかかわらず、自宅待機者が入院・宿泊療養者を上回った。検査で陽性が分かった後の待機期間の長さが隔離をためらう気持ちを生む傾向をつかむと、保健所の対応から入所までの期間短縮化を図り、待機数減につなげた。

 第3波では宿泊療養施設の開設の遅れに加え、稼働率が上がらず、自宅待機者が急増した。清掃・消毒を1フロアごとに実施していたことで稼働率が5割程度にとどまっていることが判明。1部屋ごとの清掃・消毒に変更することで、稼働率を8割程度まで上げることにつなげた。

 「想定した患者数は当たっていても、思っていなかった要因で、計画が揺らぐ。シミュレーションは本当に難しいですが、粘り強く、対処していくしかないでしょう」

 現在、考えているのは、病院、高齢者施設、重症心身障害児(者)施設での大規模クラスターの発生予防だという。すでに、調整本部長と県医師会長の名前で、県内にあるこれらの施設計300カ所ほどにアンケートを実施。PCR・抗原測定対象基準を文書で定めているかといったことや、エアロゾル発生が憂慮される状況への対応、相談体制の有無などを尋ね、結果を集計中だ。

 「速報だけ聞いても、規定の未整備などが多く、厳しい状況であることがうかがえる。市中感染を抑えるのは県の仕事、病院などのクラスターを抑えるのは医師会の仕事。今後、各施設に支援チームを派遣して、知識やノウハウを個別に伝えていくことも検討している」

 第3波の収束後、さらにはその先を見据えて、奮闘する日々が続く。

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