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連載:検証コロナ「あの時」《第3回》 大阪市立十三市民病院 西口幸雄 病院長

連載:検証コロナ「あの時」《第3回》 大阪市立十三市民病院  西口幸雄 病院長

突然の知らせ、職員の献身 ローテートで意欲の持続を
4月14日 コロナ専門病院化公表

 「十三市民病院を、新型コロナ専門病院にすることを了承しました。よろしくお願いします」。4月14日午後、電話で、大阪市民病院機構の瀧藤伸英理事長から、告げられた。息をのむ。「わかりました」。西口幸雄病院長は驚きを抑え、そう答えた。

 ほぼ同時刻、松井一郎・大阪市長が囲み会見で、5月1日以降、十三市民病院に、コロナの中等症患者を集約することを公表していた。全国初のコロナ専門病院誕生のニュースは、またたく間に全国に広がった。

 十三市民病院は、大阪府の第2種感染症指定医療機関の一つ。大阪府の要請でそれまでにも20人ほどのコロナ患者を受け入れており、西口病院長自身も、専門病院開設の必要性は感じていた。

 それでも、「まさか」の思いが頭をよぎった。会見が報道され、病院には、感謝や激励のメールが届き始めていた。「無理とは言えない。やるしかない」。応援の声に背中を押され、覚悟を決めた。

 専門病院化までに残された期間は2週間。慌ただしく準備を進める必要に迫られる中、まず気にかかったのが、報道が先行したことによる職員の心情だった。

 もともと全263床、16診療科を有する急性期医療主体の総合病院。分娩、がん、整形外科疾患…医師、看護師、助産師、薬剤師、事務職員、あらゆるスタッフがそれぞれの仕事に、やりがいを見いだし、専門性を磨いてきた。

 「戸惑うのは当然のこと。とにかく現状を伝えよう」。その夜、全職員宛てに「突然のことであり、明日以降準備を進めてまいりますが、詳細が決定するまでは現状の診療を継続いたします」と病院長名でメールを送った。

 翌15日、今後の日程を伝えるメールには、「この対応については、あくまでも臨時的な対応であり、一定期間後、必ず総合病院として復活して診療を行います。皆さん、この難局を乗り切りましょう!」と書き添えた。「とにかく全職員で立ち向かうしかない。そんな思いでした」




 掲げた基本姿勢は「職員の安全(2次感染防止)を最優先する」。十三市民病院には感染症の専門医が1人もいない。大阪市立大学臨床感染症制御学教室の指導を受けながら、院内のゾーニングや感染対応のシミュレーションを繰り返した。

 並行して、入院患者の転院・退院を進め、外来初診患者や入院患者の受け入れも止めた。そして、4月27日、正面玄関を閉鎖。5月1日、コロナ専門病院としての運営が始まった。

 呼吸器内科医が中心となり、全職員がコロナ患者の対応に従事した。メスを持ち慣れた外科医が、PCR検査のため、綿棒を持ち、咽頭ぬぐい液を採取する。患者・職員双方の感染の機会を減らす狙いもあり、できることが限られた。「もっとやりたいことがある、学びたいことがある。そう考える人がいても不思議ではありません」

 病院や職員に対する差別的な言動にも、悩まされた。病院玄関前に停車したバスの中から「早くドアを閉めろ!」という怒号が飛ぶ、住まいであるマンションのエレベーターに乗るなと言われた、保育園の保護者から「あの子(職員の子)に近付くな」と言われた…。

 感染の恐怖もある中で、懸命に働く職員の心身の健康を守るため、産業医によるカウンセリングを導入した。「一緒に頑張ろう」「長い人生、何カ月かコロナと向かい合ってもいいのではないか」と語り続けた。それでも半年の間に、1人、また1人と、医師や看護師が職場を去った。




 「本来の仕事に近づけることで、職員のモチベーションを回復できる。総合病院としての機能をもう一度」。そう思い続けてきた。医師たちに論文執筆を勧めると同時に、第1波が収束に向かい、患者数も減った6月には一般診療再開に向けた準備開始も決断した。

 7月27日、産科を除く診療科の外来を再開。「感染対策は難しさを増しましたが、それでも職員の表情が、少し明るくなったと感じます」

 8月には、コロナ専門病院としてアップデートし続けてきたマニュアルを一冊にまとめ、「大阪市立十三市民病院がつくった新型コロナウイルス感染症[ COVID―19 ]対応BOOK」を緊急出版した。

 「現時点での当院の規範であり、今後、間違いがわかる可能性もある。それでも、これから手探りで対応を進める病院の参考になれば、こんなにうれしいことはありません」。自分たちの経験が、感染症対応の最前線に立つ、他の仲間を守る一助になる。そう思えることも、職員のやりがいにつながると信じている。

 半年間で300人を超えるコロナ患者を診療してきた。「やらなければならない仕事だと、十分理解しています。一方で、これを、一部の人の献身の上で成り立たせる状態は、ベストではないとも思っています」

 今、構想を練るのは、医師が、コロナ専門病院と、その他の病院をローテーションする体制の構築。大学の力を借りて、始められないかと考えている。

 「コロナ専門病院で2〜3カ月勤務した後は、他の病院で自分たちが追求したいと思っている手術などを学び、症例数を積み重ねることができる。そんな仕組みをつくることで、専門病院の人材を確保し続けることができますし、医師の目的意識も維持できるでしょう。何より、感染症への一定の対応力を持つことが、これからの時代、必要になってくるのではないでしょうか」

書籍:大阪市立十三市民病院がつくった新型コロナウイルス感染症[COVID―19]対応BOOK
①COVID―19専門病院の全体像②COVID―19患者の入院〜退院時の対応③感染防止対策④職員の健康管理⑤COVID―19患者対応に関するQ&Aの5項目で構成。COVID―19対応で使えるチェック表・資料、病院長の日記もついている。B5判全88ページ。1000円+税

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