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臍帯血幹細胞輸血による 脳性まひ治療研究の今

臍帯血幹細胞輸血による 脳性まひ治療研究の今

 産科婦人科学講座
前田 長正 教授(まえだ・ながまさ)
1985 年高知医科大学(現:高知大学)医学部卒業。高知大学
産科婦人科講座准教授、同教育研究部医療学系医学部門准
教授などを経て、2014 年から現職。高知大学医学部先端医療
学推進センター再生医療部門臍帯血幹細胞研究班長兼任。

 脳性まひに対する臍帯血(さいたいけつ)治療・研究を精力的に進め、これまでに多くの成果を上げている高知大学医学部。産科婦人科学講座の前田長正教授は研究をけん引する一人であり、近年では臍帯血が脳性まひを治癒するトリガーになり得ることを突き止めた。


―臍帯血による治療の研究に関わるきっかけは。

 いくらお産前は順調でも、脳に障害を持って生まれる脳性まひの赤ちゃんは一定数存在します。この病気は根本的な治療がなく、リハビリで多少改善はできるものの、ほぼ一生治らないと言われています。

 産婦人科医にとって、大きな障害を持つこととなる脳性まひは切っても切れないテーマです。親御さんの落胆、お母さんが自分を責める場面などを間近で見て、少しでもお子さんの障害が改善できないものかと思っていました。そんな時に、脳性まひに対する臍帯血治療研究の話を聞き、すぐに参画を決意しました。

 私にとって、この研究のテーマは、「生命の発生に関わる産婦人科医として、ヒトの再生能力はどこまで温存されているのかを明らかにする」です。10年以上取り組んできたことで、さまざまな成果を得ることができています。


―研究の経過を教えてください。

 2005年、米国デューク大学小児科で、脳性まひがある白血病の子どもに凍結保存していた自身の臍帯血による治療を行ったところ、白血病だけでなく脳性まひも改善がみられたという事例が発表されました。これにより、臍帯血中に多能性幹細胞が存在する可能性が示されたものの、治癒のメカニズムは不明なまま。その後、国内外でさらなる研究が始まり、本学でも09年に、基礎と臨床が一体となって研究を進めている先端医療学推進センター内に「臍帯血幹細胞研究班」を設けました。

 まず、脳に強いストレスを与えた脳性まひモデルマウスを作成。そのマウスに臍帯血を投与する研究を進める中で、ある仮説が浮かびました。当初は臍帯血の幹細胞が脳内に直接ネットワークをつくって障害部位を治癒すると考えていました。しかし、実際は、臍帯血幹細胞がトリガーとなり、自身が持つ脳室下帯にある本来は微量な内在性神経幹細胞を多量に呼び込むことで、神経細胞のネットワークが形成されるのではないかと考えたのです。
 
 17年から3年間、本学の小児思春期医学講座の教授で、脳性麻痺(まひ)再生医療研究センター長でもある藤枝幹也教授を中心に、脳性まひの子どもに自身の臍帯血単核球を投与する臨床研究を行いました。計6例の全てで運動機能などの改善がみられ、副反応の問題もなし。中には遠視の改善や、知能指数が向上したお子さんもいます。
 
20年9月からは、きょうだいの臍帯血単核球を投与する臨床研究が厚生労働省から承認されました。21年9月時点で4例の治療が進められています。


―臍帯血による治療を進める上での課題は。

 現在、国内で自分の臍帯血を保存している人はわずか0・4%で、実際に治療できる患者さんは非常に限られています。今後はきょうだい間や他人の細胞の活用、幹細胞由来成分などの研究を進め、保存率の少なさをフォローしていくつもりです。同時に法整備を含め、臍帯血の保存や使用などの運用方法が見直されることも期待しています。

 これからは他疾患への適応拡大も視野に入れています。例えば脳梗塞などの脳障害も、臍帯血治療によって自己の再生能力を活性化させ、治癒できる可能性があります。認知症に対しても、進行を抑えることができるかもしれません。さまざまな可能性を探りつつ、学内外の各機関とも密に連携を図りながら、今後も研究を進めていきたいと思います。

 産科婦人科学講座
高知県南国市岡豊町小蓮185―1
☎088―866―5811(代表)
http://www.kochi-u.ac.jp/kms/fm_obstr/

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